プロ野球阪神の18年ぶりの「アレ」(優勝)を柔和な笑顔で待つおじさんがいる。1985年、21年ぶりのリーグ優勝に狂喜乱舞したファンに道頓堀川へ投げ込まれたカーネル・サンダース像だ。

ケンタッキーフライドチキン(KFC)道頓堀店(98年に閉店)にあったカーネル像が災難に見舞われたのは85年10月16日。優勝の立役者のひとり、ランディ・バース氏に似ているとの理由でファンに胴上げされ、そのまま川へ投げ込まれた。以来、ヘドロまみれの川底から発見されることなく、阪神は03年の優勝まで暗黒時代を経験。「カーネルの呪い」とも呼ばれた。

ようやく発見されたのは09年3月10日。修復作業を経て「おかえり!カーネル」として、現在は同社の関西オフィスで大切に保管されている。

そんなカーネルは現状をどんな思いで見つめているのか。体はヒビ割れ、左手首、両足首、メガネは紛失。24年も薄暗い水の中で過ごせば恨みの1つでもありそうなものだが、広報担当者は「カーネルは懐が広い、器の大きな方だったと聞いてます。奇跡の生還を果たしても笑顔を絶やしていない。社内でも“幸運の象徴”としています。呪いというものはなく、見守ってくれている」と代弁。38年前の因縁を水に流した。

85年の日本一と、03、05年のリーグ優勝は水中にいたため見届けられなかった。「似ていると言われたバース選手が今年、殿堂入りしました。カーネルも喜んでいるはずです」。“今年こそ”の思いで広報担当は声を弾ませた。

老朽化が激しく、動かすとポロポロと体が剥がれ落ちてしまうため、一般への公開はしていない。リーグ優勝でも公開予定はないが「お披露目はしたいんですけどね。もしリーグ優勝の先があれば…」。カーネルは38年前に見届けられなかった、その先の日本一を楽しみにしている。【阪口孝志】