消化の仕組みがどうなってるのか、多くの人はあいまいな知識しか持っていません。「口にした食べ物を分解して、最後には栄養にするんでしょ?」くらいです。ですが、そのプロセスをもう少しきちんと理解しておかないと、世間に浸透してしまった怪しげな言い伝えに、うっかりダマされかねません。

実際には、私たちの消化管は多くのパーツでできた複雑なシステムです。パーツ同士や、身体のほかの部分と、互いにやり取りをしています。私たちが消化管に何を送り込もうと、とても柔軟に対応してくれるので、特別な組み合わせで食べ物を摂取したり、「腸をクレンジング」したりしなくても、最高の状態を保てます。

迷信1:消化は胃で行われる

たしかに、消化の一部は胃でも行われます。けれども、食べ物は身体の中を通り抜けていく中で、いくつものチェックポイントを経ており、胃はそのひとつに過ぎません。消化が行われる場所とその仕組みは以下のとおりです。

  • は最初のチェックポイントで、とても重要な役割を持っています。味と匂いを感知して、消化システムのほかの部分に対して食べ物が入ってきたことを知らせます。食べ物は咀嚼されることで表面積が増え、あとあと酵素が働きやすくなります。唾液は、食べ物を味わって飲み込むのを助けるだけでなく、次の食事までの間、口内を清潔に保つ働きもあります。
  • 飲み込んだ食べ物は食道へと導かれ、チューブ式の練り歯磨きの要領で、胃へと送り出されます。このステップは、およそ8秒かかるそうで、蠕動(ぜんどう)と呼ばれます。これが引き金となって、胃の入り口が開きます。
  • に入った食べ物は、酸性の胃液にひたされます。胃液が殺菌を助け、さらに何種類かの酵素が、タンパク質を解体するなどの役割を果たします。
  • 消化作用のほとんどは小腸で行われます。ここでは酵素によって、脂肪が脂肪酸へ、タンパク質がアミノ酸へ、炭水化物が糖分へと分解されます。この働きによって、主要栄養素の大きな塊はなくなり、身体を作る小さな「部品」ができます。小腸はこれらを吸収して、血流へと送り届けます。ここではじめて、各栄養素が必要な場所へと運ばれます。私たちはその栄養素を、エネルギーを得るために燃やしたり、脂肪として蓄えたり、時には身体のパーツを作るのに役立てたりします。
  • 大腸には、無数の微生物が住んでおり、食物繊維や、「プレバイオティクス」と呼ばれる炭水化物など、私たちには分解できない成分を食べてくれます。これらの微生物の老廃物は、私たちの健康にとって欠かせません。例えば私たちは、ビタミンKの大部分を、ここから得ています。

消化の全プロセスは見事で、神秘的で、目を見張るものであり、どの単独の臓器で起きていることよりもはるかに大きなものです。胃は、この消化のプロセスの一翼を担っているにすぎません。なお、食べ物がたどる全ルートの総称を「消化管」(GI管)というのですが、専門家も単に「gut」(ガット)と呼ぶ場合もあります。

迷信2:食べ物に含まれる酵素は消化を助ける

酵素とは、化学反応を早めるタンパク質の一種です。消化に大切な役割を果たしますが、では、酵素を含む食べ物をたくさん摂取すれば、良い効果があるでしょうか? 「ある」とする立場が、ローフード・ダイエットやデトックスの根拠のひとつになっています。

でも、これは迷信です。なぜなら、私たちの消化システムは、必要に応じて酵素を作り出すからです。例えば、胃と小腸はそれぞれ酵素を作っており、そして膵臓は、それらの酵素の生成量を増やし、小腸に噴出させる役割を負っています。酵素が足りなくなることは、まずありません。私たちの身体には、十分な量の酵素があるのです。

では、植物由来の酵素が体内でどうなるかというと、ニュースサイト「TakePart」のJane Lear氏が鮮やかに切り捨てています

第1に、植物に含まれる酵素は植物のためのものです。これらの酵素は、植物の発芽、光合成、呼吸、分解などを助けます。けれども、人体に対しては、消化を含むいかなる機能に対しても効果はありません。私たちの身体は、そのための消化酵素をおおよそ22種類、自ら作り出しています。第2に(中略)ローフードに含まれる酵素で、(胃の)酸をくぐり抜けて腸にまで達し、栄養素の吸収の現場に到達できるのは、ほんの一部です。信じられないですって? 根拠を提示しろですって? 高校の生物の教科書のどれを見ても書いてありますよ。

私は高校の教科書を持っています。ええ、確かに彼女の言うとおりでした。

ですから、確かに食べ物には酵素が含まれますが、特殊な疾患の場合を除いて、私たちは必要な酵素をすべて自ら作り出せるのです。

余談ですが、コラーゲンを摂りたいからといって、無理をしてまで鶏ガラのスープを飲む必要もありません。コラーゲンというのもタンパク質の一種で、やはり消化管を通過する途中で、跡形もなくなってしまうのです。

迷信3:アルコールは食べ物に吸収されるので、つまみを食べると深酔いしない

お腹がいっぱいの時は、アルコールが回りにくい、これは確かです。ですがそれは、食べ物がアルコールを「吸収した」わけではありません。先ほどご紹介した消化管の各チェックポイントを思い出してください。「吸収」が行われるのは、食べ物が非常に小さな栄養素に分解されたあと、小腸で吸収される、この時だけです。食べ物は、ほかの食べ物を吸収したりしません。それぞれが混じり合うことはあるでしょうが、成分はそのまま残り、人体での消化プロセスを待っているのです。

アルコールは胃に入ったのち、最終的には血流に入り込みます。というのも、このルートはアルコールが脳に到達する唯一の方法だからです(アルコールはこのほかに、肝臓も目指します)。ですから、あまりひどく酔いたくなければ、アルコールが血流に入り込むプロセスをスローダウンさせれば良いのです。

ここで、食べ物の登場です。例えば、ビールのお供にハンバーガーを食べれば、あなたの胃は両方の成分を、ひとまとめに受け取ります。そして、しばらくの間はハンバーガーをどうにか分解しようとします。胃の内容物は数時間かけてゆっくりと小腸に送り出されるため、アルコールは、その主な吸収ポイントである小腸には、なかなか到達しないことになります(アルコールは胃からも吸収されますが、ほんのわずかな量です)。

その一方で、ビールだけを単独で飲んだ場合、胃はハンバーガーを消化する段階をスキップできるので、アルコールを短時間で小腸に送り出してしまいます。つまりアルコールは、少しずつではなく一挙に、血流に送り込まれることになるのです。その結果、即座に強い酔いに見舞われます。

迷信4:酸性食品は身体に良くない

この迷信には2つのバージョンがありますが、いずれも間違いです。

1つ目のバージョンは、「酸性食品は消化管で悪さをする」というものです。酸性食品をタンパク質または炭水化物と一緒に摂取すると、理論上、酸がほかの食品の消化を妨げるのだそうです。「食べ合わせ」を説く人たちがよくこのように主張していますが、それはまったくのデタラメです。

酸を摂取すると胃の細胞から分泌される胃酸が減るのは事実ですが、それは、そうした方が良いからそのようになっているのです。胃は、やみくもに化学物質を放出するわけではありません。ホルモンと神経細胞のシステムを使って、その時々の酸性度を検出し、それに応じて胃酸の分泌量を調整しているのです。なお、胃の内容物は酸性になっていますが、胃を通り過ぎると、すい臓から分泌される重炭酸塩によって中和されます。この時も、必要に応じて酸性度が調節されるのです。

迷信のもう1つのバージョンは、「酸性食品で血液の酸性度が上がる」というものです。「アルカリ性ダイエット」を信じる人たちは、食品に含まれる酸の量が多すぎると、血液の酸性度も上がってしまうと主張します。彼らの決め台詞は、こうです。「尿のpH値を調べてみたら、一目瞭然! どんな食べ物を食べたかによって、数値が変わってしまうんですよ」。

もちろん、食べ物に含まれる酸は血液の酸性度には影響しません。それは、さきほど示したものと同じ理由からです。それでも、尿検査の話を聞くと、うっかりダマされそうになりますね。

尿検査の結果など気にしなくて構いません。それというのも、尿のpH値の変化は、血液のとは無関係だからです。血液が腎臓で濾過されてできるのが尿ですが、腎臓ではどの化学物質を残し、どれを放出するかを慎重に調節しています。pH値の調整は、腎臓が担っている役割のひとつです。人体が許容できる血液のpH値はごく限られており、その範囲内に保つため、腎臓は余分な酸を排出しているのです。尿のpH値に基づいて血液のpH値を判断することは、「人のゴミ箱から不要な郵便物を探し出し、その人の部屋がそんなゴミでいっぱいなのだろうと決めつける」ようなものです。そんなわけないですよね。不要だからこそ、その人はその郵便物を捨てたのです。

迷信5:腸にはカスがたまるので洗浄する必要がある

ウンチは汚いから、「まだ体内にあるウンチ」も汚いと考えてしまうのは、ありそうなことです。「コロン・クレンジング(腸内洗浄)」の発想の起源は、19世紀にイリヤ・メチニコフが提唱した「自家中毒説」までさかのぼります。当時の医師たちは、大便は体内に長く留まると腐敗して毒素を作り出し、血液にしみ出して中毒を起こさせるのだと信じていました。治療法は、浣腸により大便を排出させるのですが、極端な場合には、結腸の摘出手術まで行われていました。

この理論はすでに廃れたものと思うかもしれませんが、今日でも、「コロン・ハイドロセラピー」(要するに、浣腸です)を支持する人たちは、毒素がどうの、バクテリアの腐敗がどうの、基本的には自家中毒説と同じことを主張しています。この理論は今では完全に根拠がないものとされているのですが。

むしろ、腸内のバクテリアは私たちの身体にとって良いものです。バクテリアを定期的に体内から追い出したり、バクテリアの老廃物を心配したりする必要はありません。迷信1でも触れましたが、バクテリアの老廃物にはビタミンなどの有益な成分もたくさん含まれています。人間とバクテリアは、共に力を合わせて働くすぐれたチームなのです。

老廃物が私たちの体内に溜まることもないので、わざわざ流し出す必要もありません。特定の「クレンジング」を行えば、トイレでの排出量が増えることはありますが、こうして出てくるものは、クレンジングに使われる食品やサプリの成分でできている場合がほとんどです。コロンクレンジングの方法として、粘土(ベントナイト・クレイ)を摂取するというものがありますが、そうして排泄された「宿便」は、クレイを食べたせいでできたものです。オリーブオイルとレモン果汁などを飲む「肝臓クレンジング」(リバーフラッシュ)で「胆石」が排泄されるといわれますが、あれもオリーブオイルとレモン果汁の化学反応で生じたものです。

迷信6:「消化の良い」食べ物のほうが、「多くのエネルギーが得られる」ので身体に良い

「エネルギー」という語は、「エネルギッシュな人」のように比喩的にも使われますが、科学の専門用語としては、E=mc^2のEが指しているものです。食べ物に含まれるエネルギーの量を表すのに使われる単位は、ご存知だと思いますが、「カロリー」です。これを踏まえて、「多くのエネルギーが得られる」のが本当に良いことか、考え直してみましょう。あなたは、もっとカロリーを摂りたいですか?

もっとも効率よく消化でき、もっとも楽に多くのカロリーを得られる食べ物は、砂糖や精製炭水化物などです。「健康的な食品」とはちょっと違いますね。あなたが本当に食べるべきは(そしてたぶん、現状では摂取量が足りていないと思われるのは)、「ほとんど消化できない食べ物」なのです。

全粒粉や野菜、中でも生野菜は、大量の食物繊維とプレバイオティクス炭水化物を含んでいます。ここで「生」を強調したのは、食べ物は調理によって食物繊維が部分的に破壊され、消化しやすくなるからです。

食物繊維は消化を遅らせ、食後の強烈な眠気を防いでくれます。そして食物繊維は、頑丈な細胞壁のもとになっているので、その奥にカロリーが含まれていても、私たちは消化できません(生のピーナッツのカロリーが、ピーナッツバターのそれより少ないのは、このためです)。トイレで出たものの中に、未消化のとうもろこしやナッツが含まれているのを目にしたことはありませんか? ダイエット中で食べた物を記録している人でも、こうして未消化で排泄されたものは、最初から食べなかったことにしてしまって構いません。

食物繊維が身体に良いのは、ほかにも理由があります。私たちは食物繊維をまったく消化できませんが(なぜなら、そのための酵素を作り出せないからです)、体内の微生物にとっては、一部の食物繊維はごちそうです。つまり、水溶性食物繊維レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)を食べるのは、消化管の中に住んでいる無数の仲間たちに食事を与えるのと同じことなのです。微生物たちを健康に保つことは、自分の身体を健康に保つことでもあります。食物繊維をたくさん摂取するのは、おそらくそのための最良の方法です。

Beth Skwarecki(原文/訳:風見隆/ガリレオ)

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