高校新指導要領の国語 「古典軽視」と危機感、日本学術会議

高校新指導要領の国語 「古典軽視」と危機感、日本学術会議
高校新学習指導要領の国語の在り方を議論したシンポジウム
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 高校の国語教育を巡り、日本学術会議は8月1日、都内で公開シンポジウムを開き、研究者らが高校新学習指導要領の「国語」の科目構成に対して、「古典や近代文学の軽視につながる」と危機感を表明した。また「古典の授業は暗記を押し付けられている」「受け身の授業は不自然」と、座学を主体とした授業スタイルを批判した。同会議では、高校の国語教育の在り方について検討し、提言を取りまとめる予定。

 2022年度から年次進行で実施される高校新学習指導要領の国語では、「現代の国語」と「言語文化」の2科目を必履修科目、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の4科目を選択科目として設けている。

 近代文学が専門の安藤宏東京大学教授は、選択科目を「論理国語」と「文学国語」に分けたことについて、違和感があると批判。

「そもそも論理と文学は対比できる概念なのか。授業で小説を読解することは、文学作品の論理を考える基礎的なトレーニングになる。論理的思考力は実社会で役立つもので、文学は情操という誤った認識があるのではないか。文学の心情を読み解くことこそ、論理的思考力を育て、他者の論理を理解することにつながる」と文学教育の重要性を強調した。

 中世文学が専門で、国語の教員養成に携わっている三宅晶子奈良大学教授は、大学生を対象に行った古典教育に関するアンケート結果から、高校の国語で教えられている古典の授業は文法重視で、暗記を押し付けられている印象が色濃く、教師も古典に苦手意識を持っていると指摘。

「教える側も教わる側も、古典を学ぶ意義が分からなくなってしまっている。新学習指導要領で主体的・対話的で深い学びを掲げたことは非常によい。特に選択科目の『古典探究』では、文学や国語教育の研究者が教育現場に積極的に関わっていくことが求められるようになるだろう」と提言した。

 高校「国語」の新学習指導要領解説の作成に協力した渡部泰明東京大学教授は「歴史的に日本では、古典作品の世界に触れ、古典を生かした作品を新たに生み出していくサイクルが繰り返されてきた」との認識を示し、「受け身の授業は、古典の継承として不自然だ。主体的・対話的で深い学びは、古典を理解する行為と密接に関わっている。例えば、古典を現代語訳する場面では、正確な現代語訳を求めるよりも、文脈を理解して趣意を言語化する活動を重視すべきだ」と話した。

 また、渡部教授は必履修科目の「現代の国語」と「言語文化」を統合し、古典や現代文の多様な作品を学ぶ「総合国語」を設けることを提案した。

 同シンポジウムには高校の国語教育に関心を寄せる教員や一般市民ら、約230人が参加した。

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