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この1年,W杯におけるサッカーの選手たちの活躍や,二人の科学者のノーベル賞受賞など,日本の多くの人々が楽しみ,喜ぶことがあり,私もうれしゅうございました。長年にわたり研究の道を歩み,立派な成果を上げられた小柴さん,田中さんの栄誉をお祝いいたします。
今年の7月には,陛下の2年ぶりの公式外国訪問が行われ,私も随行いたしました。この中東欧の旅の美しい思い出は,今も度々心によみがえります。
一家のうれしい出来事としては,敬宮の誕生がありました。東宮,東宮妃に深くいつくしまれ,元気に育ち,もう間もなく1歳の誕生日を迎えます。
国外のことでは,様々な問題を残しながらも,アフガニスタンに平和が戻ったことに安堵いたしました。避難所から故郷に向かう難民の一人が,故郷で何をするかとの問いに「家を建て直し,春の種を播く」と答えていた言葉と,タリバンの厳しい禁止令下で,なお女子の学習塾が続けられていたという事実が深く印象に残っています。
悲しい出来事についても触れなければなりません。
小泉総理の北朝鮮訪問により,一連の拉致事件に関し,初めて真相の一部が報道され,驚きと悲しみと共に,無念さを覚えます。何故私たち皆が,自分たち共同社会の出来事として,この人々の不在をもっと強く意識し続けることが出来なかったかとの思いを消すことができません。今回の帰国者と家族との再会の喜びを思うにつけ,今回帰ることのできなかった人々の家族の気持ちは察するにあまりあり,その
三宅島の人々の避難生活も,もう2年を越しました。どんなにか帰島の日々を待ち望んでおられることでしょう。島民の健康を祈り,また島に常駐したり,通ったりして島の復旧に尽くしておられる人々の苦労を偲(しの)びつつ,1日も早く三宅の自然が美しくよみがえり,帰島の日の訪れることを念じています。
敬宮の誕生は,東宮,東宮妃はもとより,家族の皆にとり,大きな喜びであり,その誕生を多くの方々が祝って下さったことで,喜びはさらに大きなものとなりました。
一家の中での変化は,やはり東宮御所がにぎやかになったことでしょうか。また,数年前から,時々「妹が欲しい」といっていた秋篠宮家の次女の佳子が,敬宮と一緒になりますと,今まで姉の眞子が自分にしてくれていたのと同じように,優しく敬宮の相手をしている様子も可愛く思います。
東宮,東宮妃ともに,敬宮を一生懸命に愛情深く育てており,私は安心して2人にまかせています。会うごとに,敬宮の成長の著しさに驚かされ,頼もしく,うれしいことに思います。
秋篠宮,秋篠宮妃も,二人の内親王を大切に育ててきました。眞子も佳子も,小さい時からよく両親につれられて御所に来ており,一昨年ごろからは,両親が留守の時には,二人だけで来ることもできるようになりました。生物学御研究所のお庭に,陛下が水稲のための御田の他,
東宮,東宮妃の公務についてお尋ねがありましたが,二人してこれまでもよく相談し合い,東宮職の人たちともはかって運んできたことと思います。陛下も私も,若い日を若い日として生き,今,高齢となりました。私どもの2度と戻れぬ若い日々を,今,二人が生きているのだと思うと,胸が熱くなる思いがいたします。二人して力を合わせ,自分たちの良い時代を築いていってくれることを信じ,見守っております。
この度の旅行につきましては,長い間ためらっておりましたが,子供のころに本から多くの恩恵を受けた者として,IBBYの50周年を祝うバーゼル大会へのお招きをお受けいたしました。60を超える各国支部と,まだ支部を形成することのできない国や地域の多数の個人会員を,ただ二人の事務局が支えているという,信じられぬような切りつめた組織がとり行った大会であるにもかかわらず,事務局を始め,それを支える幹部会員の真心と熱意が,会場にしみ渡っているように感じられる見事な会であったと思います。
今回の大会の参加は,陛下のお励ましを頂き,また,多くの方々に支えていただいて,始めて可能となったことでした。今後は開会式の挨拶でも申しましたように,この度の経験から,少しでもIBBYの活動への理解を深めた者として,遠くからではありますが,この地道な活動を見守っていきたいと思います。
皇后の役割の変化ということが折々に言われますが,私はその都度,明治の開国期に,激しい時代の変化の中で,皇后としての役割をお果たしになった昭憲皇太后のお上を思わずにはいられません。
御服装も,それまでの
欧化思想とそれに抗する思想との渦巻く中で,日本の伝統を守りつつ,広く世界に御目を向けられた昭憲皇太后の御時代に,近代の皇后のあり方の基本が定まり,その後,貞明皇后,香淳皇后がそれぞれの時代の要請にこたえ,さらに沢山の新しい役割をお果たしになりました。どの時代にも皇后様方のお上に,歴代初めての体験がおありになり,近年では,香淳皇后の,皇后のお立場での外国御訪問が,皇室史上例のない画期的なことでございました。先の時代を歩まれた皇后様方のお上を思いつつ,私にも時の変化に耐える力と,変化の中で判断を誤らぬ力が与えられるよう,いつも祈っています。
これからの女性皇族に何を望むかという質問ですが,人は皆個性を持っていることであり,どなたに対しても類型的な皇族像を求めるべきではないと思います。それぞれの方らしく,御自分の求める女性像を,時と思いをかけて完成していっていただくことが望ましいのではないでしょうか。そして皇室の長い間のしきたりであり,また,日本人のしきたりでもある御先祖のお祀りを皆して大切にし,これまでどおり,それぞれのなさり方で陛下をお支えになって下されば,私は大層心強く思います。
紀宮の将来については,これまでの回答と変わりありません。紀宮の存在は,いつも,一家の喜びでした。私どもは皆紀宮の将来が幸せであるよう願っています。