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公開討論会で意見を戦わせる関貫久仁郎氏(右)と中貝宗治氏=豊岡市大手町、豊岡市民プラザ
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公開討論会で意見を戦わせる関貫久仁郎氏(右)と中貝宗治氏=豊岡市大手町、豊岡市民プラザ

 約140人の聴衆の前に立った20代の女性がマイクを手に訴えた。「地域の大事な『出石藩きもの祭り』の予算も減らされました」

 4月21日夜、兵庫県豊岡市出石町水上の出石農村環境改善センター。豊岡市長選に立候補した元市議会議長の関貫久仁郎氏(64)が個人演説会を開いていた。4期16年間同市長を務めた中貝宗治氏(66)との一騎打ちとなった選挙戦。関貫氏が名乗り出たのは告示のわずか20日ほど前で、態勢づくりもままならなかった。それでも会場には準備した100席を超える人が集まり、立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

 本人の演説前に立った弁士4人のトップバッターが20代の女性だった。きもの祭りは、出石町の地元商工会などを中心に2011年から続けてきた恒例行事。延長を重ねてきた市の補助金が19年を最後になくなった。

 会場となった同センターの隣の更地は、地域の反対を押し切って市が19年度に取り壊した施設「ひぼこホール」があった場所だ。

 05年に旧1市6町が合併して兵庫県最大の市域となった豊岡市。それぞれの地域性が強く、出口調査の結果も各町ごとに投票行動が大きく異なった。特に出石では73%が関貫氏に投じた。

 ある市議は「ひぼこホールの恨みだけではなく、市街地や城崎が優遇されているという地域格差への思いが長年あった」と話す。

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 「なんで無料化できないのでしょうか」

 選挙戦の前に行われた中貝氏との意見交換会で、子育て中の女性が疑問を投げ掛けた。同市のコミュニティー放送局「FMジャングル」が主催。女性は「周りの自治体はしているのに、豊岡は遅れている」と感じていた。

 一方、関貫氏は具体的な公約として「0~3歳児の医療費無料化」を掲げた。出口調査でも関貫氏への投票理由は「子育て支援」(11・5%、172人)が最も多かった。

 中貝氏と市民の溝は、新型コロナウイルス感染対策でも深まっていた。市民の間では「他の自治体には水道料金の減免があった」との声があった。かばん製造・卸会社の社員は「これまで地場産業として地域経済に貢献したのに、観光業に行われたような支援がなかった」とこぼした。

 選挙戦では中貝氏が進めてきた「演劇のまち」づくりが争点とされたが、市民の間には、さまざまな不満がたまっていた。

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 中貝氏は非課税世帯の子ども医療費を無料化した上で、「医療保険は、皆が少しずつ負担をして制度を支えるのが原則」との主張を変えなかった。

 但馬の人たちの命を守るため、公立豊岡病院は神戸大医学部付属病院と提携して重症の小児救急患者をヘリコプターで搬送する協定を締結。医師不足で深刻な産婦人科医療を守るため周産期医療センターも開設された。全国でも珍しいくらい充実した医療体勢の維持には年間20億円以上の市負担が必要だった。

 コロナ対策では、限られた財源の中で各種の支援申請の中から特に困窮している業種などに集中的に支援を行う施策を展開した。しかし、その意図は市民に十分には伝わっていなかった。

 「(今後のまちづくりに向けた)突き抜けた政策と、人々の暮らしとのギャップがあった。そこを埋める努力を十分してこなかった」。25日夜、落選の一報を受けた中貝氏は支援者に頭を下げた。選挙戦の個人演説会で対話を重視する姿勢を強めたが、思いは届かなかった。

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 4月25日に投開票された豊岡市長選挙で、長期にわたって市政を担った市長が敗れ、大きな衝撃が走った。トップ交代に至った背景と、今後の市政への影響を追った。(石川 翠)

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