信号機や横断歩道、標識があり、市街地の道路空間を再現したような公園がある。その名も「交通公園」。遊びながら交通の知識とルールを学んでもらおうと１９６０年代から全国で整備されたが、今や機能を残すのは兵庫県内で尼崎、西宮、赤穂市の３カ所だけだ。そんな中、日本で初めてできた尼崎の「西武庫公園」（武庫元町３）で、住民らが交通学習設備を積極的に活用する動きが広がっている。（浮田志保）

　「手を上げて、確認してから渡ってね。はい、右。次は、左」。男性警察官の呼びかけに幼稚園児たちが「はーい」と元気よく答え、園内の道路に描かれた「しま模様」を歩き始めた。

　西武庫公園で６月にあった交通安全教室。近くの武庫幼稚園の５歳児３２人が、尼崎北署員から横断歩道の渡り方を学び、園内でゴーカートの運転を楽しんだ。

　交通公園は、交通死亡事故が社会問題となった１９６２（昭和３７）年に建設省（現国土交通省）が各自治体に整備要請の通知を出し、翌６３年に兵庫県が全国第１号となる交通公園を尼崎市に設置した。

　７０年代の交通安全教室は年間約７千人の参加者でにぎわっていたという。だが、死亡事故の減少に伴って都市公園法に交通公園の位置付けはなくなり、信号や道路などを全て撤去して広場にする計画が浮上した。

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　「自転車の練習場所がなくなる」「せっかくある施設を活用できないか」。２０１２年に市へ移管する際、住民の要望が続出したという。そこで市は広場にリニューアルしつつ、交通公園のエリアを残した。市民の有志が「ゴーカート交通教室の会」を結成すると、教室に参加する保育園や幼稚園は年々増えている。

　ゴーカートを足でこいで運転すると「歩く人の気持ちが分かる」と人気だ。運営を支えるボランティアは４０～８０代の２６人になり、今年は年４回の開催で約４４０人の利用者を見込む。市もゴーカート倉庫を新調するなど積極的に活動を支援しているという。

　「子どもたちと一緒に外を散歩しても、本当に信号を見ているか、全員を確認するのは難しい」。武庫幼稚園の上田晶子園長（５１）はそう話して力を込めた。「交通ルールは一人で登下校するようになる小学校入学までに覚えたい。だからこそ、街中で暮らしながら安全に学べる交通公園は有意義なんです」

■１９６０年代「交通戦争」死者数１万人超え

　交通公園が相次いで誕生した１９６０年代は全国で交通事故の死者が１万人を超え、ピークの７０（昭和４５）年には１万６７６５人に上った。日清戦争（１８９４、９５年）の死者数に迫ったことから「第１次交通戦争」と呼ばれた時期だ。

　県内の死者数は６９年の７４０人をピークに１０年後には半減し、９０年後半からは減少傾向が続く。それでも、戦後最少となった２０２０年でも１１０人、２１年は１１４人に上っている。

　国際交通安全学会などの資料によると、０７年時点では西武庫公園を含めて県内の６カ所で交通公園の機能が維持されていた。

　その後、播磨町の「望海公園」▽姫路市の「御立交通公園」は廃止。阪神間でも伊丹市が「瑞ケ池公園」を１３年に健康遊具広場へとリニューアルした。公園の利用減や老朽化に加え、健康増進機運の高まりが背景にあるという。

　一方で、赤穂市の「千種川河川敷緑地」は信号機や標識こそ撤去したものの、今も公園内の道路に停止線や横断歩道を残している。

　ユニークなのが、西宮市の「西宮市交通公園」だ。横断歩道や標識だけでなく、カレー店や病院、陸橋といった街並みをリアルに再現している。交通安全を学ぶ上で、子どもの好奇心がかき立てられる。

　担当者は「交通安全教室こそ開いていないが、小学生たちが校外学習や公園探検によく訪れている」と話した。（浮田志保）