アスベストの暴露に関しては作業現場で暴露する職業性暴露が多いのですが、工場周辺や幹線道路周辺などの屋外環境、吹き付けられたアスベストによる室内汚染などの環境による暴露も考えられます。アスベスト工場従業員の作業服を洗濯した家族からの悪性中皮腫の発症も報告されています。
実は私のクリニックがある兵庫県尼崎市の南部にはアスベストを使用した資材を製造していたクボタ旧工場があったため中皮腫の方がたくさんおられます。この工場の近く高校に通っていた漫画家の戸部けいこさん(代表作『光とともに…』)も、2010年に悪性胸膜中皮腫で亡くなられています。
私はこれまで10人くらいの悪性胸膜中皮腫を在宅で看とらせて頂きました。ですから私にとってはたいへん身近な病気なのです。尼崎は大気汚染による公害でも有名ですが、このアスベスト中皮腫の問題は第二の公害としての取り組みが始まっています。もしあなたの病気がアスベストと関係している可能性があると思う方は、ひとりで悩まずに「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(0120-117-554)までお気軽にご相談ください。
藤本さんは生まれも育ちも堺市で、工場の街でした。30代の頃に兵庫県西宮市の住宅街に引っ越したそうです。藤本さんのお嬢さんは、お父さんが亡くなって数日後に、「お父様は、阪神大震災の時に石綿を吸われたのだと確信しています」と言われたそうです。
1995年1月の阪神大震災で全半壊したビルや家屋は約29万棟。旧耐震基準の1981年以前の建物が多くありました。最も飛散性が高い「吹き付けアスベスト」は1975年まで使用が認められていました。震災のとき、藤本さんが住んでいた西宮市でも多くの建物が壊れました。あの地震から13年後の2008年以降、復旧作業の作業員4人が中皮腫を発症し、労災認定を受けています。