ファミ通.comがアニメ業界の気になる人たちへインタビューする連載“アニメの話を聞きに行こう!”。連載第3回で取り上げるのは、小説・アニメ・ゲーム・リアルライブなどで展開するKONAMIによるメディアミックスアイドルプロジェクト『シャインポスト』です。

 2022年7月~10月にテレビアニメシリーズが放送され、そのハイクオリティーなライブシーンや、主人公たちがまっすぐに成長し、なりたいアイドル像へと近づいていく姿、そんな王道物語の中から時おり顔をのぞかせる意外性のあるドラマで、じわじわと人気を獲得してきました。まだ観たことがない方は、なにも言わずにまずはライブシーンを観てみてください。

TVアニメ『シャインポスト』Be Your Light!! / TINGS #9ライブシーン

 そしてじつは、本作の誕生にはゲームファンにもおなじみのKONAMI、そして『ラブプラス』のディレクターが暗躍……というか、プロジェクトの立ち上げから運営、ゲーム版開発まで、現在進行形でガッツリ関わっているのです!

 ゲーム版のリリースに向けてゲームオリジナルアイドルユニット“ひまわりシンフォニー”が東京ゲームショウ2022で発表されるなど、新展開も続いており、まだまだ目が離せない……むしろここからさらなる快進撃が行われるであろう『シャインポスト』。

 このたびインタビューを行ったのは、KONAMIのプロデューサー・石原明広氏と、アニメ版でアニメーションプロデューサーを務めたスタジオKAIの増尾将史氏。ゲームとアニメが深く関わる作品ということで、この連載ならではのお話をたっぷり聞くことができました。

 石原氏と言えば『ラブプラス』のディレクターでもあるお方。ゲームファンにもチェックしてもらえるとうれしいです。

 前編となる今回は、『シャインポスト』が生まれたきっかけや、とてもたくさんの人が関わる巨大なメディアミックスがいかに進行していったのかについて。後日公開となる後編では、アニメの内容を掘り下げる話題をお届けします。

後編はこちら

 両方読めば『シャインポスト』をより深く知れるハズ……! ぜひあわせてお楽しみください。

石原明広 氏(いしはら あきひろ)

KONAMI所属のプロデューサー。『Elebits』、『ラブプラス』『ラブプラス+』などのタイトルのディレクターを担当。(文中は石原)

増尾将史 氏(ますお まさし)

アニメーション制作会社・スタジオKAI所属のアニメーションプロデューサー。担当作は『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』、『風都探偵』、『シャインポスト』など。(文中は増尾)

アニメ『シャインポスト』(アマゾンプライムビデオ)

玉城杏夏が未来人になりかけた模索期を経て“王道アイドルもの”へ

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

――KONAMIと言えば『ときめきメモリアル』や石原さんも携わった『ラブプラス』など、美少女もののゲームを開拓してきたメーカーでもあります。そんな石原さんが『シャインポスト』では“女性アイドルもの”に足を踏み入れましたね。

石原なるほど、そういう認識なのですね(笑)。

――まずは本プロジェクトを立ち上げたきっかけを教えてください。

石原きっかけは私と、元電撃文庫の三木さんによる発案なんです。

――以前は電撃文庫の編集者をしていて、現在はストレートエッジ(※)代表取締役をされている三木一馬氏ですね。

※ストレートエッジ……出版物の編集ほかアニメ、ゲーム、キャラクターコンテンツなど多岐にわたる創作物の企画、制作、販売を行う企業

石原はい。まだ三木さんが電撃文庫にいたころでした。じつは三木さんとは以前から飲み友だちでそれまで仕事の話はしなかったんですけど、その日も飲んでいたら、初めて三木さんから仕事の話があったんです。「僕、今度独立するんです。よかったらいっしょに何かやりませんか?」と。それが6年くらい前でした。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

――かなり前なんですね。

石原僕も三木さんとは何かやりたいと思っていたので、「ぜひやりましょう」と。そんな中、イラストレーターのブリキさんが、アイドルを題材にした作品が好きで、「アイドルのキャラクターを描きたがっている」という話になって。僕ももとからアイドルはかなり好きだったので、そこでなんとなくアイドルものをやるような話になっていきました。

 ただ、そこからはかなりの紆余曲折がありまして……。駱駝さんの原作小説ができるまでにすごく時間が掛かっているんです。“アイドルもの”とひと言で言ってもいろいろあるじゃないですか。

 いまの王道な内容に落ち着くまでは、TINGSにいる杏夏が未来から来たという設定だったことがあったり(笑)。

――ええっ!?

石原ターミネーターみたいにジジジッと現れて、「あなたはこれからものすごいアイドルを育てて世界を救わなければならないのです」と告げてきたりとか。そのまま玉城杏夏に導かれて、主人公がアイドルのマネージャーとして成長していくみたいな案もありました。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
初期設定段階で未来人になりかけた玉城杏夏。結果的には無事に現代人に。

――世に出た『シャインポスト』からは想像も付かない話です。

石原“異世界アイドル”とか“転生アイドル”とか考えていく中で、最後はけっきょく2周くらいまわって、「いまドストレートな王道ものって逆にないよね」という話になり、現在の『シャインポスト』が形作られていったんです。

アイドルオタク石原P「アイドルオタクが作るアイドルものなんて重すぎるでしょ」←でも作っちゃった

――石原さんはもともとアイドルがお好きだったということですが、そのアイドルファン歴というのはどのくらいに?

石原映像はとにかく昔から好きでよく見ていて、ライブに行くようになったのは10数年くらいになりますね。とくに1ヵ所、たくさん行っていた現場がありました。その事務所を箱推し(※)になって、そこだけで日本全国を回って、大小のイベントとかも入れたら何100回行ったかわからないですね。

※箱推し……特定のひとりのアイドルだけを推す(応援する)のではなく、グループ全員や、ひとつの事務所の所属アイドル全員を推すこと。

――すごい!(笑)

石原「今日デビューしました!」みたいなアイドルさんもいっぱい見てきました。いろいろな事務所のライブを見てきた中には“地下アイドルの中の地下アイドル”みたいな子たちもいたりして……。

――地下中の地下。

石原なんと言うのでしょうね、かなり極まった深淵を見るというか、いろいろなアイドルさんを見たい欲求が強い私でしたが「興味本位で来るにはまだレベルが足りなかった」みたいに反省したりもしました。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
作中にはアイドルの“現場”も多く描かれる。

――それくらいのアイドル好きだったということは、「俺のアイドルファン歴が活かせる仕事ができる!」ということで企画をアイドルものに?

石原ああ、そういうことではないんですよ。だってアイドルオタクが作るアイドルアニメなんて重すぎるじゃないですか。

――いやいや(笑)。

石原僕、アイドルには普遍的な魅力があるとは思ってはいるのですが、その一方でアイドルの推し活は、基本的に日陰のサブカルチャーだという自覚があったから、あまり人様に「アイドル大好きなんです!」とか言えなかったんです。

 言ったところで「えっ?」って顔をされたことは1度や2度じゃないですから。まあ、いまは10数年前と比べると、ずいぶんと言いやすくなりましたけどね。

――確かに空気は結構変わった気がしますね。10年くらい前、プロ野球選手の田中将大投手がメジャーへ行く前くらいに“ももいろクローバーZ”好きを公言して「僕はモノノフ(ももクロのファン)です!」って言ったとき、わりとぎょっとしたというか驚いた記憶があります。でもいまはあまり気にしませんよね。

石原それに、アイドル好きとしてやりたいことをアニメでやろうとしたところで、そういうおいしいところは全部他社さんのアイドルものがやり尽くしちゃってますから。

――そうした先行するアイドルアニメがいくつもある中で、いわば後発である『シャインポスト』はどのように戦おうとしたのでしょう?

石原初期は「先行作品を上回るアイドルものを作る」というより、「物語としておもしろいものにしたい」、「そのためにかわいくて好きになってもらえるキャラクターを描きたい」という思いがスタート地点でした。僕がアイドル大好きだからアイドルものにしたいとかじゃなくて、アイドルという服を着せるんだけど、基本は“人間ドラマ”を作りたいというのがまずあったんです。

 これはいまでも変わっていません。音楽の力や、スタジオKAIさんの絵の力、クリエイティブがうまく混ざったおかげで、結果的に先行作品との差別化になったのかなという気はしますけどね。

増尾でも、石原さんのアイドルの知見にはアニメを作っているときもずいぶんと助けられましたよ。

石原アニメの設定まわりで確認したいことがあるときは、設定制作の南さん(※)から僕に連絡がくるんですよ。たとえば第6話に登場する池袋サンシャインシティだと、「噴水広場ってどれくらいまでお客さんで埋まったらリアルですか?」みたいな。

※南さん……スタジオKAIで設定制作を担当している南幸大氏。このインタビューにも同席。

――それは実際に通っている人の感覚が頼りになりますね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
池袋サンシャインシティ噴水広場(画像はゲーム『シャインポスト Be Your アイドル!』のもの)

石原「こういうイベントだったらこのあたりまで埋まれば十分成功です」とか「最初に埋まるのはこのあたりで、この階から見物する人も出てきます」とか、図面を引いて送ったりしましたね。

 あと、これは脚本を担当している樋口(達人)さんとのやりとりですけど、残りのチケット1000枚をどうやって売るかという話で、「実際のアイドルがどうしているか知っていたら教えてほしい」と相談があって。

 やっぱりリアリティがないのは嫌なので、アイドルが行う券売プロモーションを僕が思い付く限りダーッと書き出して、「この方法にはこういう効果がある。こっちも中長期では効果的だけど即効性は弱いからすぐにさばける数は少ないです」みたいな。そういう資料を山のように作って送ったりしてました。

――一般的なプロデューサーの仕事ではないような(笑)。でも、その知見が『シャインポスト』のリアリティを支えていたんですね。

増尾「お客さんはどのタイミングでチケットのお金を払っているの? 前払い? それとも劇場に入るとき?」とか。そういうアイドルにまつわる基本的なことも知らなかったと、アニメを制作している中で気付かされるんです。最終的にはそういうシーンがなかったとしてもやっぱり知った上で描きたいんですよね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

石原序盤で春たちが配るビラにはチケット代が1500円と書いてあって、「安すぎない?」と言われることもあるんですけど、むしろまだ駆け出しのアイドルのライブのチケット代だとこれくらいの価格ばかりなんですよね。

 7~8000円するアニソンのライブなどと比べると驚くかもしれませんけど、ぜんぜん知らないアイドルのライブとなると、1500円とか1000円でも見に来てくれるまでのハードルはそれなりに高いんです。

――“地下中の地下アイドル”まで見てきた石原さんが言うと、なにか重みがありますね。

石原『シャインポスト』には代々木アニメーション学院さんも製作委員会に入ってくださったんですけど、そうやってリアルなアイドル現場の方々も本作に協力してくれているわけで、ますますリアリティは大事にしなきゃいけないだろうと。元ネタがある展開などは、代アニさんに確認することもあります。

 とはいえガチガチにリアルにすることがおもしろさにつながるとも限らないので、物語的にフィクションを加えることもあるのですが。まずはリアルな立脚点を大事にして「実際にこういう現場もありますよ」みたいなことはお伝えするようにしています。

『Sweet Surrender』が生まれるための4時間の大議論

――スタジオKAIさんがアニメ版の制作を担当することになったいきさつというのは?

石原きっかけとしては、KONAMIとも深く関わりのある、アニメ作品のプロデュースをしているADKエモーションズさんと本作もいっしょにやることになりまして。

 そのときADKさんから、子会社にスタジオKAIというめちゃめちゃいいアニメーション制作会社ができるから、アニメ制作はそこに任せてみないかと言われまして。「歌って戦うアニメを作っていたチームだから、歌って踊るアニメとは絶対相性がいいはずだ」ということで。

 私は「へぇ~、そうなんですね~」と返事をして……。

――なんだかあまり気持ちのこもっていない返事に聞こえますが(笑)。

石原私もアニメとのメディアミックスをプロデュースするのは初めてで、何もわからなかったんです。いい制作会社を知っていると言われたらお任せするしかないなと思って(笑)。

 でも“歌って戦うアニメ”を作った人たちならピッタリじゃないかなと思いました。

――石原さんはアニメとのメディアミックスをやるのは本作が初ということでしたが、どのような苦労がありましたか?

石原意見を戦わせることは多かったですね。『シャインポスト』のプロジェクトに関わっている人は、本当に想いの強い人が多いんです。

 増尾さんには増尾さんの、私には私の大切にしていることがあるので、どうしてもぶつかることはあるんですよね。この異文化交流が『シャインポスト』のプロジェクトでいちばんたいへんだったんじゃないかと思いますね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

――バチバチに意見を言い合うというのは、ともすればプロジェクトが空中分解してしまう危険性も孕んでいると思うのですが、ある程度はお互いになだめあったり……?

石原それはときと場合によります。僕が「まあまあ」と仲裁に入ることもあった一方で、僕自身が暴れることもあったり。「初めまして」のチームだったので、相手が何を大事にしていて、何に怒って何に悲しむのか、最初のうちはわからなかったんですよね。

――「こういうことだったのか」と腑に落ちたエピソードなどはありますか?

石原増尾さんが音楽プロデューサーの木皿(陽平)さんとガッツリぶつかったことがあって、振り返ってみればそこで気付いたことはたくさんあったように思います。でも、あれはたいへんでしたね、増尾さん?

増尾木皿さんの事務所に行ってじっくり話し合いましたねえ……4時間くらい。

――なかなかの長丁場ですね。

増尾第1話アバンのライブシーンで絶対アイドルの螢が『Sweet Surrender』という曲を披露するのですが、どういう曲がいいかという話がうまく行かず、僕と木皿さんで直接お話することになったんですよね。

TVアニメ『シャインポスト』Sweet Surrender / 螢 #1ライブシーン

石原木皿さんは『ラブライブ!』の作中曲を始め、さまざまな名曲を手掛けてきた人です。だから増尾さんも、やはり“μ'sっぽい曲”をイメージしていたのですが、木皿さん自身の想いとしては、「音楽でも新しいチャレンジをしたい」ということだったんです。“脱アニソン”というか、よりリアルアイドルに近い音楽をやりたいと。

 ところがアニメで使いたい楽曲のイメージとして木皿さんのもとに送られたのが、ゴリゴリのアニソンやゲーム音楽系の名曲と言われる楽曲群だったんです。それはそのときの木皿さんとしては“シャインポストでやりたかった音楽”ではなかったんですよね。

増尾僕より業界歴がずっと長くて、すごい実績をお持ちの木皿さんにいろいろ言うのは本当に恐縮でした。でも、小説も発売したばかりで、知名度という意味ではほとんどオリジナルアニメに近い『シャインポスト』に、インパクトのあるつかみを持たせたい――「これがこの世界のトップアイドルです」と説得力を持って示せる楽曲を作ってほしかったんです。

――クリエイターとしては新作だからこそイメージ通りではない新たな挑戦をしたいし、増尾さんとしては新作アニメでバーンと最初に出る部分として、王道アイドルソング的なキャッチーな曲を作ってほしいし……。どちらの気持ちもわかる気がします。

石原おっしゃる通りで。僕もあいだに挟まれながら「ああ~、どっちの気持ちもわかるなぁ。どうしよう!」と(笑)。

――最終的にどうなったのですか。

石原木皿さんが折れてくれました。増尾さんが「こういうことがやりたくて、こんな絵作りがしたいから、こういう曲が必要です。協力してほしいんです」と木皿さんにお伝えして。そのあたりで木皿さんも何らかのスイッチが入ったようで、「あなたと及川監督が求める音楽を作りましょう」と言ってくださいました。

――おお!

石原いやな言いかたかもしれないですけど、増尾さんってまだ若いんですよ。当時はまだ20代で、木皿さんと比べたら業界歴はずっと短い。その若い増尾さんの想いに木皿さんが応えてくれたというのは、増尾さんの熱意にかなり心が動いたということなのかなと思いますよ。

――自分に置き換えてみたら、業界で何10年と長く活躍してきた人に意見するというのはかなり怖いことだと思います。

増尾“アニソンっぽい曲”ということにこだわっていたわけではないんです。

 木皿さんのしたいチャレンジに寄り添うことに決めた部分もあるんですけど、第1話で多くの視聴者の心をつかむための楽曲として譲れないものがありました。確かに業界歴は短いですけど、僕は僕でずっと歌モノのアニメに関わり続けてきたので、その感覚を信じてほしいんだと、そのようなことをお話ししましたね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
『Sweet Surrender』を歌う“絶対アイドル”螢

石原ちなみに、その後で木皿さんが作ってくださった楽曲にも、「ここの音の構成は木皿さんの思いとしてこうせずにはいられなかったんだろうな」みたいな、ちょっとしたこだわりがちょくちょく忍ばせてあったりするんですよね(笑)。

――ふふ。

石原けれど、それも木皿さんなりに増尾さんを信頼できたからこその我の通しかたなんじゃないかと思います。

 『シャインポスト』は、駱駝さんが書いてくださった小説を始め、木皿陽平さんがプロデュースされる音楽、アニメーションをめちゃめちゃこだわって制作してくださっているスタジオKAIの皆さん、そこに裏からあれこれ口出ししているKONAMI(笑)。それぞれが自分の領域にプライドを持って作っているから、尊敬もリスペクトもあるんだけど、ぶつかることも同じくらいありましたね。

 「この人は何を大事にしたいのだろう?」という想像がだんだんとできるようになってきてようやく「あぁ、だから増尾さんはここを譲れないんだ」「木皿さんがこだわりたいのはここなんだ」とわかってくると、以降は比較的スムーズに進みましたね。あくまで比較的、ですけど。

巨大プロジェクトを成功させる秘訣とは? →「がんばる」

――モーションキャプチャーはKONAMIさんでやっているということで、それをゲームとアニメ両方に活かせるというのも効率がよさそうですね。

石原そうなんですけど、ゲームとアニメでは作中で使う楽曲の尺が変わってくるんですよね。

――あぁ、アニメでは1番だけ歌うのがふつうですけど、ゲームサイズは1番+大サビだったりすると。

石原そうなんですよ。もちろん実際のライブイベントではフル尺ですから、1曲で3パターンあります。ゲームサイズとアニメサイズのモーションキャプチャーはなるべく同じ日に撮るとか、なるべく効率化できるように進めていましたね。

 うちのモーションキャプチャーは指先まで撮れるので、ゲームだとアドベンチャーパートも含めて、そのデータを使っているんです。これは手で動きをつけると膨大な作業になるんですよ。アニメのライブシーンは手描きの作画なので、データをそのまま使うことはありません。けれど、指先までこだわりたいという増尾さんたちの希望もあって、アニメに活用するためのデータ取りも同じように行った上で、スタジオKAIさんに共有していました。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

増尾これだけしていただいているのに2回遅刻しちゃって申し訳ありませんでした……。

――あら(笑)。

増尾電話で目が覚めて「増尾さん、待ってますよ~」、「来ないとスタートしませんよ~」と言われてゾッとしました。

石原連携はもうちょっとうまくやりたかったなという反省もあるんですよね。アニメとゲームとでは違うスケジュールで進んでいるので、なかなか調整に骨が折れました。どうしてもKONAMIでやるとなるとゲーム開発が主戦場という意識で、アニメ制作との協力というのは初めてだったこともあり、もっとやれることはあったんじゃないかと思います。

増尾そんな。すごく協力していただいたので、ありがたかったです。

――増尾さんたちとの連絡係は石原さんが?

石原そうですね。やっぱりゲームの制作現場は、いくらメディアミックスと言っても、アニメに協力するために作業が増えるとどうしても「余計な仕事」と思ってしまうんです。自分の本来の仕事の方が優先度は高いですから、いくら同じプロジェクトといってもマインドが切り替わらないですよね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

――ゲームの制作に集中したいというスタッフほど、その他の作業は雑事として感じられてしまいますよねきっと。そういうときはどうやってスタッフを説得したり、組織をうまく動かして行ったんですか?

石原いや、うまくやれてはいないですよ。やれていたらこんなに苦労してないです(苦笑)。

――ははは。

石原うちはまだまだメディアミックスの経験が薄いですから。ADKエモーションズさんにもサポートしてもらったりしながらやっていますけど、わからないことだらけでしたね。だから、それは話し合うしかなかったですね。

 “メディアミックスプロジェクトのプロデューサー”とか書くと、すごく横文字でスタイリッシュな感じがしちゃうのですけど、内実としては本当に泥臭くやりました。

――今回聞いてみたかったテーマのひとつに“巨大プロジェクトを成功させる秘訣とは?”という問いがあったんですけど、結論は“がんばる”ということで(笑)。

石原そう、がんばる。

増尾“がんばる”ですよね。

石原アニメの『シャインポスト』第2話といっしょですよね。「何か秘訣があるんだよね?」と言われても「がんばる」としか言えません(笑)。

増尾話し合いの場を多く持つこととか、そういうことになるんじゃないですかね。

石原話し合いの頻度は大事かなって思いますよね。ちょっとしたことでも遠慮なんかせずに話し合う。あと我々のやりかたですが、なるべくリモートではなく対面で話し合うようにしていました。

新ユニット“ひまわりシンフォニー”では、あの声優さんも歌って踊る?

――東京ゲームショウ2022(TGS2022)でも『シャインポスト』はブースを出展されていましたね。

石原じつは、ここで初めてゲームを試遊できるように調整を進めていたのですが、大人の事情でできなくなってしまったんです。急遽キャラクターとの写真撮影に切り替えたんですけど、ぜんぜん列が伸びなくて、「まぁ新規タイトルだしなぁ。アニメを放送してもまだまだなんだなぁ」と。

――新規タイトルというところで、知名度的になかなか難しいのかもしれませんね。

石原ところが全日程終了後、『シャインポスト』はKONAMIブースで来場者数が3位くらいだったんですよ。「あれっ?」と思ってよくよく考えてみたら、ゲームの試遊だとひとりあたり15分~20分くらい掛かるところが、うちの写真撮影は1分で終わるので、回転率がすごくよくて、あっという間に列がはけてしまっていたんです(笑)。結果的にはすごく多くの方に見ていただけました。

――よかった(笑)。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
ゲーム『シャインポスト Be Your アイドル!』ティザービジュアル

石原ゲームが遊べないのなら、体験時間は短いほうがお客さんへの負担も少なくていいだろうと思ったのですが、ブースの盛り上がり感を演出するならもっと行列ができるようにしてもよかったかもなぁ(苦笑)。まあ、お客さんにストレスなく楽しんでいただけたのなら、そこにいちばん配慮した甲斐がありました。

 とくに最終日はステージがあったので、遠くから来てくださった方もいて、1日中ファンの方で賑わっていましたし、本当にありがたかったです。

――展示にはデザイン決定前のキャラクターラフがあったり、現実に使われる衣装といっしょに写真が撮れたりと、ファンならうれしいものが多かったですよね。

石原やっぱり『シャインポスト』目当てで来てくれる方もいるかもしれないですから。プレイアブルが出せない中でも、少しでも楽しんでもらえるものを出せるように置けるものを片っ端からかき集めました。

 増尾さんたちにも無理を言って「アニメの原画を貸してください!」とお願いしたり、アニメに出てきたポスターの中から、データがプリントアウトできるくらいの解像度データものをブースに貼ったりとか。ちょっとした展示会みたいになりましたね。

 ああいう展示会的なものは、本当はアニメの放送が終わってからPARCOとかで入場料を取ってやればいいでしょうけど(笑)。

――(笑)。衣装を間近で見れる機会はなかなかないと思うので、素材感などがわかるのはファンならうれしいのではないでしょうか。

石原衣装はAKB48などの衣装も手掛けるオサレカンパニーさん(※)が素材からこだわって作ってくれたんです。ボタンがライトを反射するものになっていたり。もちろん着心地、踊り心地、大きく体を動かしても引きつらないとか、通気性なんかもすべて計算されていますから。

※オサレカンパニー……AKB48グループ専属の衣装制作・スタイリングチームからスタートし、さまざまなアイドル・アーティスト、2.5次元舞台などの衣装を手掛ける企業。

――キャストの方たちは実際にあの衣装を着て踊るわけですもんね。

石原そうです。言うなれば戦闘服ですよね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
TINGSのアイドル衣装。キャストのステージ衣装もこれを模して作られており、再現度抜群。

――衣装にも石原さんの知見を取り入れて?

石原衣装デザインに関しては、僕はもうおんぶに抱っこです。こちらからは曲をお送りして「この曲に合う衣装をお願いします」と依頼しているのですが、オサレさんってひとつお願いすると20~30個くらいのデザイン案を出してくれるんですよ。それもどうやらストックの中から出てきているわけではないらしく。

――イチからすべてアイデアを出していると。すごいですね!

石原やっぱりアイドル衣装の文化を作った会社の、一流の方々なので、そこは完全にお任せしています。

――TGS2022では石川由依さん、櫻井ももさん、徳井青空さん、若井友希さんがゲームオリジナルユニット“ひまわりシンフォニー”のアイドルたちの声優を務めることも発表されました。

石原皆さん人気のある方々ですから、大きな反響をいただきました。

――彼女たちもシャインポストと同様に、実際にライブをやって、ステージでダンスをすることになるのですか? 石川さんにはダンスをするイメージはあまりないのですが……?

石原石川さんにも歌って踊っていただきます。

――おおー。

石原まだ、いつになるかはわかりませんけど。

――あはは(笑)。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】
TGS2022で発表となったゲームオリジナルユニット“ひまわりシンフォニー”

石原もともといるユニットにもまだぜんぜん出せていない子がいますからね。FFF(フライ)もゆらゆらシスターズも、お客さんにちゃんとステージをお見せできる環境がないので。

――声優さんにオファーを出す際に、歌やダンスもしてもらうことを折り込んでお願いするのでしょうか?

石原そうですね。最初にオーケーをいただけた方にお願いしています。

――ダンスが苦手な方などもいらっしゃるのではないかと思うのですが。

石原そこはユニットごとにけっこう違いがありますから。TINGSやHY:RAIN(ハイレイン)の曲はダンスもテクニカルで、かなりのパフォーマンスを要求されるものが多いんですけど、ゆらシスはかわいらしかったり、ひまわりシンフォニーもまた毛色の違うものにする予定です。

 ファンの方々に「いつかそんな舞台が見れる日が来るかもなぁ」と想像していただく余地があるくらいが楽しいかなと思うんですよね。お約束はできないんですけど。ゲームが売れればチャンスは増えますということで(笑)。

【リリックビデオ】FiRST STEP / FFF(フライ)【シャインポスト】

【リリックビデオ】ゆらゆらワンダフルワールド / ゆらゆらシスターズ(ゆらシス)【シャインポスト】

アイドルの最小単位は“ひとりのアイドルと、ひとりのファン”

――おふたりにとって“アイドル”って何でしょう?

増尾僕はアイドルにめちゃめちゃ詳しいわけではないんですけど、すべてを投げ売ってでもアイドルというものに全力を賭ける『シャインポスト』の子たちには、すごく“青春”を感じるなと思うんです。

石原ああ……。

増尾ステージでのキラキラした輝きって、舞台裏の泥臭い頑張りがあるからこそみたいな。「そのためにどれだけ努力したんだろう?」と考えると、そのときしかできないことを一生懸命表現しているんだなぁと思うので、そこに惹かれます。やっぱり青春、ですよね。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

石原僕もねぇ「アイドルとは青春です」っていま言おうとしたんですよ。先に言われちゃった。

増尾すみません(笑)。

石原「あれっ、増尾さんとちょっとだけ通じ合えてるぞ」って思った(笑)。

――共同作業を続けてシンクロ率が高まりましたか。

増尾ふたりでたくさん話し合いましたからね……。

石原リアルアイドルとしてがんばっている子たちって、本当ならもっと遊んだり、それこそアニメを見たりゲームを遊んだりして楽しみたい中高生の時期を、アイドルとしてフルパワーでがんばっているんですよね。

 “青春”と言ってもただ“若いから”という意味じゃなくて、何かに一生懸命、全身全霊賭けて、そこで輝こうとしている姿に僕はすごくドラマを感じるし、それが青春だと思います。

 そのキラキラしたエネルギーみたいなものが作品からお客さまに伝われば、アイドルが好きかどうかとか関係なく、なにか人間としての大事なものが伝わるんじゃないかなと思っていますね。

 アイドルには、みんな最初はかわいいとか歌やダンスがうまいというところに惹かれると思うんですけど、追っていくとその子の生き様の物語になっていくので、それは青春であり、存在が人間ドラマそのものになるんですよね。

 うまくいったこともいかなったこともファンといっしょにわかち合って、ライブ会場がひとつ大きくなったら泣いて喜んで……みたいな。そういうことを『シャインポスト』では描こうとしてきました。

『シャインポスト』小説&アニメ&ゲーム&リアルライブの一大プロジェクトを生み出すコナミの張本人に直撃。プロデュースの秘訣は「がんばる」【アニメの話を聞きに行こう!】

――その生き様に胸を打たれたり、違う輝きを感じたりすると、人はそのアイドルのファンになるわけですよね。

石原やっぱりそれが根幹にあるんですよね。かわいい子を事務所がスカウトして「アイドルです!」って言えばアイドルなんだと思っている方も多いと思うんです。でも私はちょっと違うと思っていて。

 事務所や誰かにプロデュースされたわけじゃなくても、「私、アイドルやります!」と言っている子がいて、「応援します!」と言ってくれるファンがいる。そうなったら、アイドルってそこで成立しているんです。ビジネス的なことはともかくアイドルという概念としては。もうそのふたりっていうのがアイドルの最小単位だと思っているんです。

 そう思うようになったのは、先ほど話した“地下の中の地下”のアイドルと、そのファンの姿を見たからなんですけどね。

――アイドルになりたい子と応援したいファンがひとりでもいれば、それでアイドルは成立する。

石原と、僕は考えているというわけです。

 原作小説も含めてそのアイドル観はちょこちょこ入っていると思いますね。アニメだと杏夏自身は漠然と「誰かの特別な存在になりたい」と思っているんですけど、第6話でトッカさんにとってはもう杏夏が特別な存在になっているんだということがわかるんですよね。それに気付けるかっていうのが重要な“何か”なんじゃないかなと思います。

増尾それに気付くということ自体が難しいのかもしれないですよね。

石原“灯台もと暗し”じゃないですけどね。けっこう『シャインポスト』ってふつうの、ありきたりな話しかしてないんですよ。

増尾些細なことだけどでも本人にとってはすごく大きな悩みで、それをひとつひとつ解決していくという青春物語を、アイドルものとして掘り下げていっている作品なんだと思います。

石原根幹がヒューマンドラマで、ただ“アイドル”という服を着ていると言いますか。だからアイドル自体にそこまで興味がない人でも、観たらけっこうジーンと感動してもらえるっていうのは、駱駝さんや、増尾さんもそうだし、関わっている人たちがブレてないからだと思うんですよね。たとえば甲子園を観たら、野球のルールをそこまで知らなくても感動できるじゃないですか。

――それはすごくわかりやすいですね。

 後編へ続く!(2022年11月20日公開予定)

作品情報

  • アニメ『シャインポスト』

メインスタッフ

  • 原作:KONAMI / ストレートエッジ
  • 世界観設定/小説執筆:駱駝
  • 監督:及川啓
  • シリーズ構成:SPP
  • 脚本:駱駝/樋口達人
  • キャラクターデザイン原案:ブリキ
  • キャラクターデザイン/ 総作画監督:長田好弘
  • サブキャラクターデザイン / 総作画監督:宗圓祐輔
  • 総作画監督:坂本俊太、清水慶太
  • 美術監督:松本浩樹
  • 色彩設計:中野尚美
  • 撮影監督:松井伸哉
  • CGディレクター :吉良柾成
  • 編集:髙橋歩
  • 音響監督:森下広人
  • 音響制作:ビットグルーヴプロモーション
  • 音楽:西木康智、伊藤翼
  • 音楽プロデューサー:木皿陽平(Stray Cats)
  • アニメーション制作:スタジオKAI

メインキャスト

  • 青天国春:鈴代紗弓
  • 玉城杏夏:蟹沢萌子
  • 聖舞理王:夏吉ゆうこ
  • 祇園寺雪音:長谷川里桃
  • 伊藤紅葉:中川梨花
  • 螢:大橋彩香
  • 黒金蓮:芹澤優
  • 唐林青葉:高瀬くるみ
  • 唐林絃葉:久保田未夢
  • 氷海菜花:高柳知葉
  • 苗川柔:香里有佐
  • 兎塚七海:野口衣織
  • 陽本日夏:木野日菜
  • 梨子木麗美:ファイルーズあい
  • ナターリャ:古賀葵
  • 広瀬実唯菜:齋藤樹愛羅
  • 日生優希:小松未可子
  • 虎渡誉:富田美憂
  • 菊池英子:種崎敦美 ※

※崎はたつさき

アニメの話を聞きに行こう!これまでの連載はこちら

連載【アニメの話を聞きに行こう!】