PS4にも対応するLuminous Studio、次世代を担う学生にその最先端のゲームテクノロジーを披露

 スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部は、2013年2月16日、都内東新宿にある同社社屋内イベントスペースにて、“スクウェア・エニックス オープンカンファレンス for Students ~ゲームテクノロジーが切り開く未来~”を開催した。

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 テクノロジー推進部は、スクウェア・エニックスの新世代ゲームエンジン“Luminous Studio”の開発などを手掛けている部門。昨年は同社のCGムービーを手掛けるヴィジュアルワークス部との共同プロジェクトとして、最先端のリアルタイムCG技術をつぎ込んだテクノロジーデモ作品『Agni's Philosophy』を公開し、世界から高い評価を得た。

 そんなテクノロジー推進部が開催する技術公開カンファレンス“スクウェア・エニックス オープンカンファレンス”は、これまで2011年と2012年に開催された。対象はゲーム開発者を中心としたもので、最先端のCG技術やノウハウが学べるカンファレンスとして人気も高く、学生はわずかしか参加できない現状があった。そこで今回は、CGやAIなど未来のゲーム開発に関する技術を学んでいる人向けに、スクウェア・エニックスの持つ技術、思想、理念などを知ってもらう機会として開催。当日参加した人の多くは、コンピューター系を学んでいる大学生や専門学生などが中心で、学生を教える教員や研究生も参加していたようだ。

 本カンファレンスのプログラムは下記の4つ。

・リアルタイムCGデモ
・リアルタイムCG技術紹介
・Animation&AI技術紹介
・ゲームエンジンってなに?

 それぞれのプログラムの技術的な内容は、過去のオープンカンファレンスリポート記事と重複する部分が多いため、今回は概要をざっと紹介しよう。詳しく知りたい方は、リンク記事を参照していただきたい。

 スクウェア・エニックスでは、リアルタイムCG(注1)の映像品質をプリレンダーCG(注2)のそれと同等レベルに近づける研究を積み重ねてきた。その成果を効率よくゲーム開発に落とし込めるよう開発しているゲームエンジンが“Luminous Studio”で、同エンジンのポテンシャルを示す、別の言いかたをすれば、次世代『ファイナルファンタジー』のリアルタイムCG映像の品質を示す作品が『Agni's Philosophy』というわけだ。実際に『Agni's Philosophy』内のカメラを動かしたり、登場キャラクターのヒゲや肌の質感などをリアルタイムに調整するデモが行われると、参加者からは感嘆の声があがっていた。次世代では、(ちょっと前まで夢だった)プリレンダーCG品質の映像をプレイヤーが動かせるようになる。橋本善久氏(スクウェア・エニックスCTOで、新世代ゲームエンジン“Luminous Studio”の開発リーダーなどを務める)は、リアルタイムCGの可能性はむしろこれがスタート地点で、「目指せ実写。映画みたいな映像品質で冒険できる日も来るでしょう」と述べた。

注1……その瞬間、瞬間でコンピューターが絵を生成し、モニターに出力するCG。映像は通常、1秒間に30枚から60枚の絵を生成する必要があるため、コンピューターには膨大な計算量が求められる。よって、リアルタイムCGは、高精細な絵になるほど高度な計算性能を求められるため、絵のクオリティーを上げづらい。

注2……あらかじめコンピューターで生成した映像をフィルムにしたり動画ファイルに変換し、再生するCG。前もって生成できるため、リッチな絵にしやすく、出力先の機器の性能に左右されない。

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▲スクウェア・エニックスCTOで、新世代ゲームエンジン“Luminous Studio”の開発リーダーなどを務める橋本善久氏。
▲実際に『Agni's Philosophy』をリアルタイムで操作するシニア R&D エンジニア ドリアンクール・レミ氏。
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 ここまでCG技術が日々進化すると、もはやゲーム開発にはその技術と高度な学術研究を深いレベルで統合させる必要が出てくる。
 本カンファレンスでも『Agni's Philosophy』で使われた技術解説や、今後のハイエンドゲーム開発のトレンドやさらなる研究が必要なものとして触れられた。たとえば、フォトリアルなCGを扱おうとすると、光がオブジェクトに対してどう反射・吸収されるかをシミュレートするなど物理学的な知識も必要だったり、リアルな瞳や髪を表現する手法、さらには、キャラクターのアニメーションやNPCやモンスターが意思を持っているかのように動かすAIの考えかた、といったものだ。
 ハイエンドのゲーム開発は「アートとサイエンスが融合し、初めてゲームが作られる、という高度な世界」(橋本)に突入したという。実際にスクウェア・エニックスのテクノロジー推進部も、ゲーム開発出身者以外の知識を持った専門的なスタッフも増えてきているとのこと。もはや、ハイエンドのゲーム開発に携わるには、かなりのハードルを越える必要がある、といった印象も受けるが、単純にそうとも言い切れないようだ。ゲームは、物語や映像や音、そしてゲームとして(おもしろく)成り立たせる技術などから成り、よく“総合芸術”だと言われる。しかも、題材は豊富で何がゲームとしておもしろくなるかは、わからないといった側面もある。
 つまり、どんな人材もゲーム開発に携われる可能性を持っている。ただ重要なのは、尖っている部分(得意分野)があり、それをゲーム業界(ほかの業界にも通じるが)でどう活かし、どう貢献できるか、といったビジョンを持っていることだという。ゲーム業界に興味を持っている人は、いまのうちから、自分の得意分野を磨き、自分なりのビジョンを持っておくといいかもしれない。

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▲左からアニメーション リードリサーチャー 向井智彦氏、アニメーション リサーチャー 川地克明氏、リード AI リサーチャー 三宅陽一郎氏。グラフィックがリアルになるほど、アニメーションやAIも高度なものが求められ、今後の研究成果がさらに注目を集めそうだ。

 本カンファレンスのまとめとして橋本氏は、Luminous Studioというゲームエンジンを開発する意義、同エンジンが切り開く未来について語った。Luminous Studioが目指すところは、ゲーム品質の向上はもちろん、開発の効率化も大きなポイント。他のゲームエンジンもそういったことがおもな目的だが、Luminous Studioはそれが高いレベルで徹底している印象だ。
 細かい説明は省くが、Luminous Studioは、トライ&エラーがしやすく(試したいことがすぐに反映され、調整がしやすい)、グラフィカルなインターフェイスで扱いやすい(プログラマーだけではなくアーティストも操作しやすい)。「効率化は2倍、3倍といったレベルではなく、工程によっては1000倍くらい労力や時間を短縮できます」(橋本)。AAAクラスの作品でも短期間で、しかも作り手の意図したとおりのクオリティーで作ることができれば、リスクは低くなるうえ、いいものも生まれやすい(つまりヒットにつながりやすい)。「我々は遊び手はもちろん、作り手も楽しめるゲームエンジンを作っています。楽しんでゲームを作れることで品質が上がり、結果的に遊び手が楽しめるゲーム作りにつながると思うんです」(橋本)。
 続けて橋本氏は「我々は海外スタジオにも勝つつもりで、とことん追求して研究・開発しています。人を楽しませるために、本気でとことん追求できる、というのがゲーム開発だと思いますし、それが楽しいところでしよ」と学生にゲーム開発の魅力を語り、カンファレンスを締めくくった。

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 本カンファレンスから数日後の2013年2月20日(現地時間)、アメリカのニューヨークでPlayStation Meeting 2013が開催され、次世代機プレイステーション4が発表された。同発表会には、橋本善久氏も登壇し、Luminous StudioがPS4に対応することをアナウンス。さらにPS4で動作させた『Agni’s Philosophy』の映像を公開した。その映像は、これまでPCベースで動作していた映像と違いがまったくわからないほど。PS4であのクオリティーのものがゲームとして楽しめる。そんな現実が、もうすぐくることにワクワクせずにいられないし、PS4でLuminous Studioの実力をいかんなく発揮してほしい。

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