●ソーシャルゲーム業界の風雲児、gloops

00

▲gloops梶原吉広社長。世界進出も視野に入れ、2011年8月29日にGMSより社名を変更した。

大争奪!!レジェンドカード』、『大進撃!!ドラゴン騎士団』を始め、100万人以上の登録者を獲得した人気ソーシャルゲームを連発しているgloops。Mobageの人気ゲームランキングTOP20でも最大で4作品を同時にランクインさせるなど、SAP(ソーシャル・アプリケーションプロバイダー)としてトップクラスの実績を誇る。まさにソーシャルゲーム業界の“成功者”だ。

 そこで今回、同社の創業者でもある梶原吉広社長へのインタビューをお届けする。2010年3月にはたった10人の小さな企業だったgloops(当時はGMS)が、わずか1年半のあいだに150人超の企業にまで成長した経緯や今後の展望、同社の事業に必要とされる人材の話まで、ソーシャルゲーム業界に興味がある人なら必見の内容となっている。

●小さな広告代理店が成功をつかむまで

03

――ソーシャルゲームのトップランナーとして押しも押されぬ存在となったgloopsですが、現在に至るまでどんな道のりを歩んできたのでしょうか?
梶原吉広氏(以下、梶原) もともとは2005年に、私を含む3人で広告代理店として創業しました。当初はゲームはおろかインターネット媒体でもなくて、紙の広告を扱っていました。

――どういったことがきっかけで、インターネットに携わることになったんですか?
梶原 当時、ちょうどmixiを始めとしたSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が流行りだしたころだったのですが、それを見て「これだ」と思ったのが始まりです。広告業事態もかなり好調で、初年度で2億5000万円くらい売上が出ていました。そこで得た資金を投入してSNSの分野に乗り込もうと思ったわけです。

――3人で始めた会社で初年度2億5000万! インターネット事業をやらずにそのまま広告代理店でやっていこうとは思わなかったんですか?
梶原 どう転ぶかわからない分野でかなり冒険でしたが、人生一度しかないし、どうせなら何かの一番になりたかったので。ただ食べていくだけだったら広告だけやっていればよかったんですけどね。

――覚悟をもって始めたインターネット事業ですが、具体的にはどんなプロジェクトを手掛けてきたのでしょうか?
梶原 最初は、Adobe社のFlex(フレックス)という技術を使ってパーソナルホームページとSNSの機能を組み合わせた“nendo.tv”というサービスを作りました。が、それが見事に外れて(笑)。その後、現在のMobageやGREEのような携帯電話向けのSNSである“REAL”というサービスの展開を始めました。それが2008年のことです。

――創業してから3年目で、現在のモバイル事業にたどり着くわけですね。
梶原 ユーザーを求めて試行錯誤をくり返すうちに、そういうことになりました。ただ、REALもただのSNSではユーザーがまったく集まらなくて、テコ入れのために2009年に入ってから『渋谷クエスト』というゲームを始めたんです。当時は“ソーシャルゲーム”という言葉がなかったので、“本格ゲーム”と名乗っていましたが。

――ソーシャルゲームの先駆け的存在だったわけですね。
梶原 2009年の春にはすでにゲームを出していた、という点では、ほかのメーカーさんよりも早くから手掛けていたと言えるでしょうね。REALでの『渋谷クエスト』は、そこそこのヒットを記録しました。ただその後、はるかに大きな波がやってきました。それが、Mobage(当時モバゲータウン)のオープン化でした。われわれもその直後に『渋谷クエスト』をリリースしたのですが、わずか数日で会員が30万人も集まりました。

――30万人も!?
梶原 そのおかげで、サーバがたいへんなことになりまして。3日間で30回か40回くらいサーバがダウンしたんですが、そのたびに手動でアップをくり返しました。数日間はまったく寝られませんでしたね。当時は10人くらいでやっていて、そのメンバーで「俺、朝5時から10時まで見てるから、お前は10時から15時まで頼む」みたいな感じで、24時間体制で管理していました。

――10人で30万人分の対応をしていた、と。ひとり3万人という計算になりますね。
梶原 (笑)。その後、海外で借りていたサーバを国内に全部移して増強したり、試行錯誤をくり返しました。あのころがいちばんたいへんでしたね。それからは広告もやめてソーシャルゲーム1本に事業を集中することになりました。

――その後、『大乱闘!!ギルドバトル』を始め、ヒット作を連発されましたが、そこでの成功の秘訣はどこにあるのでしょうか?
梶原 ソーシャルゲームの魅力というのは、いろんな人がひとつの目的のために気軽にコミュニケーションを取ることができる、という要素が大きいと思います。早くからソーシャルゲームを手掛けてきたノウハウを活かしながら、そういった“つながり”を重視したゲームを作ってきたことは成功の一因になっているかもしれませんね。

●gloopsがソーシャルゲームを選んだ理由とは

01

――梶原社長は、ふだん家庭用ゲームなどされるんでしょうか?
梶原 僕、ふだんはほとんどゲームしないんですよ。やるとしてもスポーツゲームくらいですね。

――それでもWebでゲームを選んだのはどういった理由からなのでしょうか?
梶原 先ほど言ったように、ウェブコミュニケーションの手段として最適であったことと、マネタイズがしやすいということが大きな理由ですね。直接ユーザーにアイテムを販売できるというのはビジネスモデルとして理想的です。

――自社のタイトルはプレイされているのでしょうか?
梶原 もちろん、全部プレイしています。自分で言うのも何ですが、僕はライトユーザーなので、かなりユーザー視点に近いものを持っている人間だと思うんです。だから、自分にとってわかりやすいゲームになっているかどうかをチェックして、プロデューサーにフィードバックしたりしています。

――1日どのくらいプレイされているんですか?
梶原 みなさんと同じで、仕事や人を待っているとき、トイレ休憩など、合間合間でプレイしています。時間を決めて、ガッツリという感じではありません。

――ちなみに、2011年8月29日から社名をgloopsに変更し、オフィスもかなり大きなフロアに移転されましたが、現在何人くらいの方が働いているんですか?
梶原 今日の時点(2011年9月14日)で約150名です。

――『渋谷クエスト』をMobageでリリースした2010年3月の時点で10名、ということでしたから、わずか1年半のあいだに約15倍に増えた、ということですね。
梶原 そう考えるとすごいですね。他人事のように言っていますけど(笑)。通年でどんどん人材を採用しているので、毎月10人くらいずつ増えていっています。

――創業して6年、3人で始めた会社が150人もの規模に成長して、感慨深いものもあるのではないですか?
梶原 まだぜんぜん満足していませんね。いま、世界では携帯端末が“革命”と言えるほどのものすごい勢いでスマートフォンに移り変わっています。ただ、海外では潜在的なユーザーの数に比べて、まだまだソーシャルゲームの市場は小さい。そこにウチのような小さなメーカーでも先駆者になれるチャンスがあると思っているので、しっかりとそれを活かしていきたいと思っています。

――それが、先日発表された『Legend Cards』につながるわけですね。
梶原 そうですね。ただ、われわれはゲーム会社だという思いはぜんぜんなくて、あくまでウェブコミュニケーションの手段のひとつとして捉えているんです。いきなり「さぁどうぞ」と言われても、他人と会話なんてできないと思いますが、何かテーマがあると会話もしやすくなるんですよね。いつ入ってきても、そのテーマに全員がひとつの目的に向かうゲームは最適なんです。スマートフォンでも、アプリ制作にこだわるのではなく、あくまでウェブにこだわってやっていきたいですね。

――具体的なサービスについては、何か新しいものは考えていますか?
梶原 当面はソーシャルゲーム1本でやっていこうと思っています。いずれは会社として違うサービスも考えたいところですが。

――現在開発・運営にはどのくらいのラインが動いているのでしょうか?
梶原 人もだいぶ増えてきましたし、10数本動いています。ただ、ソーシャルゲームって出しておしまい、というわけではないので、運営だけ行っているチームも含めての数字になります。

――いやいや、それでもすごい数字です! しかし、一方でスタッフの人数が増えるとコミュニケーションが取りづらくなりそうですが、gloopsでは何やらユニークな方法を取っているとお聞きしたのですが?
梶原 ウチではプランナー、エンジニアなどをプロジェクト単位で近くの場所に配置して、すぐに顔を突き合わせることができるようにしています。それから、社内のいたるところにホワイトボードを設置して、ほかのプロジェクトの人間でも近くを通りかかったら、そのプロジェクトの人たちが何をやっているのかがすぐわかるようにしています。社内で隠すような情報なんてあまりありませんから、極力ガラス張りにしています。

04
05
6枚目サシカエ案

▲社内のいたるところにホワイトボードが設置されており、自分の所属外の組織の様子も社内全員が把握できるようになっている。

▲座席表は顔写真付きで、とてもわかりやすい。「毎月のように新入社員がやってくるので、覚えやすいように工夫しています」(梶原氏)。

▲イラスト案用(!?)のホワイトボードも。『大争奪!!レジェンドカード』などのイラストがところ狭しと描かれていた。

――ホワイトボードだらけというのは斬新ですね。
梶原 そうですね。これは良いアイデアやひらめきを逃さないために設置したんです。いつでもどこでもホワイトボードを利用しながらアイデアミーティングを開くことできるので、思いついたアイデアをその場で整理し、まとめることができるんです。

――海外展開も控え、さらに多くの人材が必要となってくるかと思うのですが、gloopsとしてはどういった人材を求めているのでしょうか?
梶原 ソーシャルゲームには、ユーザーの動向をしっかりリサーチして、どういった施策をすればいいのかを体系立てて考えられるような、論理的な思考が必要な部分があるんです。そういった思考の持ち主であることに加えて、ほかの誰もが思いつかないようなおもしろい発想を持っている人……というのがベストなんですが、そういった言わば相反する思考を併せ持った人なんてそうそういないでしょうから、ウチとしてはどちらかの能力を持った人に入ってきてほしいです。

――最後に、ソーシャルゲーム業界は今後どのように変わっていくと思われますか?
梶原 近い将来、オンライン仕様が家庭用ゲーム機などに標準装備されるようになって、ゲーム自体がソーシャルゲームであることが当たり前になり、ソーシャルゲームというジャンル自体なくなっていくはずです。その中で、よりゲームにグラフィックやサウンド、物語の深さなどを求める人は家庭用ゲームに、ゲーム性よりもコミュニケーション性を求める人はいまあるソーシャルゲームのほうに住み分ける形になると思います。ウチはそのライトな部分を担い続けていきたいですね。