※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲ロールス・ロイス伝統の優雅なスタイルをもった主力モデル「シルヴァークラウド」の三世代目として1962年から1966年まで4年間生産された。メカニカルな部分では真空進角ディストリビュータの採用や100オクタン燃料の使用を前提とした圧縮比9:1仕様の投入、キャブレターの口径拡大、パワーステアリングの改良が行われ、ボディ周りでは4灯ヘッドライトの採用やラジエターグリルの小型化、フロントフェンダーのデザイン変更を実施。その他、内装にも細かな変更が加えられた。コーチビルド・モデル375台を含む2297台を生産。 ロールス・ロイス伝統の優雅なスタイルをもった主力モデル「シルヴァークラウド」の三世代目として1962年から1966年まで4年間生産された。メカニカルな部分では真空進角ディストリビュータの採用や100オクタン燃料の使用を前提とした圧縮比9:1仕様の投入、キャブレターの口径拡大、パワーステアリングの改良が行われ、ボディ周りでは4灯ヘッドライトの採用やラジエターグリルの小型化、フロントフェンダーのデザイン変更を実施。その他、内装にも細かな変更が加えられた。コーチビルド・モデル375台を含む2297台を生産。

ファントムよりもキャビンが後方に感じる独特のスタイル

松本英雄(以下松本) 以前に環状八号線沿いの中古車屋さんで、紺色の“ロールス・ロイス・シルヴァーシャドウ”を覗いていたら「徳大寺さんが乗っていた車です」って言ってました。
徳大寺有恒(以下徳大寺) ロールスは何台か所有したが、さすがにメンテナンス費が馬鹿にならないんだよ。ロールスのような高級車は最高のコンディションで走らせないと意味がないからな。
松本 今回はロールス・ロイス・シルヴァークラウドⅢです。乗られたことはありますよね。
徳大寺 もちろん。シルヴァークラウドⅢだからV8だな。トルクは凄かった。上品に走らせるためのトルクなんだ。Dレンジの時のクリープは相当なものだったよ。
松本 ブレーキを踏んでいても前に出てっちゃうんじゃないかと思うほど強力ですね
徳大寺 確か機械式のブレーキサーボで、走らないと利きが悪いんだよ。だから停まっているときはパーキングにするかサイドブレーキを使うと便利なんだ。
松本 エンジンの吸気を利用しないでサーボ効果を得るところがロールスらしいですね。
徳大寺 ロールスはエンジンにとてもうるさいメーカーだから、ブレーキを踏むとアイドリングが安定しないなんて許せなかったんだな。
松本 吸気の負圧を使ったサーボは、アイドリングでブレーキを踏むとエンジンに多少の影響が出るということですよね。
徳大寺 ロールス・ロイス・シルヴァークラウドのエンジンは初めは6気筒だったが、後にV型8気筒になるんだ。6気筒もよかったけどな。
松本 このV型8気筒は6.2L。伝統のOHVですよね。パワーよりもフレキシブルなトルクとOHV特有のバルブ系の打点を低くして静粛性に貢献しているといわれます。しかもOHVはエンジン搭載位置を低く出来る利点もありますね。
徳大寺 エンジン搭載位置を見るとバルクヘッド側に寄ってるのがわかるだろう。車軸よりも後ろだからそのあたりも考えていたんだろうな。
松本 そういえばロールスというとFヘッドのシリンダーヘッドが特殊でしたね。シルヴァークラウドの初期の6気筒にはおそらく使われていました。燃焼のスペシャリスト“ハリー・ウェスレイク”の設計ですから、一家言ありますよ。
徳大寺そうそう、ローバーP5にも同様のエンジンを使っていたな。
松本 話はシルヴァークラウドに戻りますが、横から見るとスポーツカー並みにフロントロングノーズ、ショートデッキですよね。
徳大寺 その辺りは昔からだね。戦前のロールスからの形だな。現在のファントムよりも、キャビンが後方に感じるよな。
松本 ちょっと後部座席に乗ってみましょう。
徳大寺 さすがコノリーのマグノリアは雰囲気がいい。カーペットの毛足が長いのも高級車らしい。後ろにもたれるようなバックレストはストロークもたっぷり。テーブルのローズウッドの木目もいいな。だと思う。デビュー当時モナコGPの前座を走り、世界のVIPにそのカッコ良さを強烈にアピールした時から、この車はそういう運命だったのかもしれないな。
松本 この乗り心地はサスペンションというよりもシートのストロークが担っている印象を受けます。40年以上前の車ですが乗り心地は最高ですね。
徳大寺 うん。これだけ重量があってホイールベースもあるしな。
松本 でも運転するのは慣れてないとスムーズに走れませんよね。特にこのころのロールスやベントレーのパワステは軽くてフワフワで扱いづらい。三船敏郎さんはよく乗ってましたよね。
徳大寺 三船さんは学生のときから知っていて、俺もよく車を借りたな。たしか三船さんが乗っていたのはシルヴァーシャドウじゃなかったかな。
松本 僕も子供の頃、走る姿を見たり、機会があってその車に乗せてもらったこともあります。
徳大寺 当時ロールスに乗っていたのはそれなりに名声と財のある人ばかりだったよな。
松本 この時代のロールスならオーナーをたどっていくと、必然的に大人物にたどり着くということですよね。
徳大寺 ロールス・ロイスを購入するということはそういうヒストリーも併せて買う。これもロールスならではの楽しさだと思うな。

ロールスロイス シルヴァークラウドⅢ エンブレム
ロールスロイス シルヴァークラウドⅢ  エンジン
ロールスロイス シルヴァークラウドⅢ  運転席周り
ロールスロイス シルヴァークラウドⅢ 後席
ロールスロイス シルヴァークラウドⅢ リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:5380×1840×1630(mm)
■車両重量:2110kg
■ホイールベース:3124.2mm
■エンジン:V型8気筒OHV
■総排気量:6230cc
■最高出力:-ps/-rpm
■最大トルク:-kg-m/-rpm

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2009年12月号(2009年12月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています