カリフォルニア州ロサンゼルスのネットフリックス本社。
撮影:西田宗千佳
ネットフリックスの決算が好調だ。
1月23日(現地時間)に公開した2023年度第4四半期決算では、全世界契約者数が2億6000万を超え、年率12.8%の成長率。2023年10月から12月での伸び幅は過去最高を記録した。第4四半期決算は、売上高88億ドル(約1兆3000億円)、営業利益15億ドル(同2216億円)、純利益9億ドル(同1329億円)だった。
出典:Netflix 2023 Fourth Quarter Earnings
その好調を支えている要因は2つある。
- 世界で大ヒットした実写版『幽☆遊☆白書』をはじめとするアジアコンテンツの伸び
- 「アカウント共有の禁止」厳密化に伴うユーザーの増加
この2つが、好調な決算をけん引した。
そして、ネットフリックスが今後成長の柱と期待しているのが「ライブスポーツ」と「広告事業」だ。
ライブスポーツについては、アメリカのプロレス団体「WWE」との間で、10年間で50億ドル(約7380億円)もの巨額を投じ、2025年1月からアメリカなどで配信を開始する。
配信サービスの競争が激化する中で、同社はどのような生き残り策を模索しているのか。3つの観点から分析した。
(1)『幽☆遊☆白書』も大ヒット、国際的コンテンツ調達が強みに
ネットフリックスはこれまで、多数のオリジナル作品を作ることで差別化し、成長してきた。現在もその方針は継続中だが、特に大きな差別化になり始めているのが「非英語」コンテンツだ。
ネットフリックスは多くのコンテンツをハリウッドから調達しているが、日本や韓国など、それ以外の国々からの調達も多い。
これまでは『イカゲーム』をはじめとした韓国コンテンツが強かったが、2023年に入り、より多彩な国々からのヒットも増えている。
中でも日本が関わる大きなヒットとしては、実写ドラマ版『幽☆遊☆白書』(2023年12月14日から配信開始)の人気だ。
同作品は公開後、ネットフリックスの視聴時間ランキングでも初登場で1位を記録。1月21日までの視聴量が1930万ビューに到達したという。
実写ドラマ版『幽☆遊☆白書』は公開翌週に全世界トップ視聴量を記録した。
出典:ネットフリックス
『幽☆遊☆白書』の記録は非英語作品としてはトップクラスの人気であり、決算資料の中でも言及されている。
公開から時間が経っておらず、長期の人気シリーズに比べると累計視聴量で劣るものの、国際的なヒットという意味では、『今際の国のアリス』に続くものと言える。
その他、日本発のアニメ作品も非常に好調。1月15日から21日までのランキングでも、グローバルの非英語・TV部門には『鬼滅の刃』と『ダンジョン飯』の2作品がランクインしている。
1月23日付の世界トップ10ランキングでも、日本のアニメ作品が好調。
出典:ネットフリックス
同社はグローバルにコンテンツを調達しつつも、「まず個々の国でヒットする良い作品を作る」ことにフォーカスしており、『幽☆遊☆白書』についても、その方針が貫かれたことが、筆者の取材の中でも語られている。
この方針は、同社の軸である足元の強化、という点で有効に作用している。
(2)WWEとの契約獲得、ライブスポーツ配信へ
ネットフリックスはアメリカのプロレス団体WWEと提携、2025年より独占配信を始める。
出典:ネットフリックス
コンテンツ施策として、今後の大きな投資となるのが「ライブスポーツ」への取り組みだ。
ネットフリックスはプロレスリング団体のWWE(World Wrestling Entertainment)と提携。2025年1月より、WWEの人気シリーズである「RAW」をはじめとしたシリーズを、アメリカ、カナダ、イギリス、ラテンアメリカなどで独占配信する。
他の国々にも配信を拡大していく予定で、WWEの主力パートナーとして、WWEの様々なコンテンツがネットフリックスを介して提供されていくという。
ネットフリックス共同CEOであり、コンテンツ施策の責任者でもあるTed Sarandos(テッド・サランドス)氏は、「WWEの人気は北米が中心。我々とのパートナーシップにより、世界中にファンを増やせる」と自信を見せる。
ネットフリックス共同CEOのテッド・サランドス氏。
出典:ネットフリックス
過去にも、ネットフリックスはF1のドキュメンタリーシリーズを制作、アメリカ国内でヒットさせることで、F1自体の人気をアメリカで広げた経験を持つ。今度はその逆のことをやろうとしているわけだ。
WWEとのパートナーシップは10年間にわたる契約で、契約料は50億ドルとされる。
この巨額の契約は、ネットフリックスにとって象徴的なことだ。これまで同社は、スポーツドキュメンタリーなどは配信していたものの、「スポーツ中継」はやってこなかった。
数年前まで、創業者であるリード・ヘイスティングス氏が「弊社がやらないこと」としてリストアップするくらいだったほどだ。
だが現在、配信事業者の中では、競争軸は「スポーツ」になりつつある。アマゾンはプロフットボールリーグであるNFLの放映権を、11年間・130億ドルで契約している。競合がスポーツを武器にする中で、ネットフリックスも必要と考えたのだろう。
また象徴的なのは、WWEがずっと「アメリカでの放送」を主戦場としてきた点だ。ネットフリックスと契約するのは、「放送から配信へ」という流れを意識させる要素も大きい。
ネットフリックスは決算資料の中で以下のような資料を示した。これは各国のリビングでの映像配信の視聴シェアを示したものだ。
ネットフリックスの決算資料より。ストリーミングの利用量は暮らし全体ではまだ半分にも満たず、「ライバルは放送である」と主張する。
出典:ネットフリックス
全体を足しても100%にならないが、それ以外の部分は「放送」だ。放送がまだ多くのシェアを持ち、そこを各社が奪っていくのがこれからの成長源泉である……という主張なのだ。
(3)アカウント共有問題終結でユーザー数増、広告の利益貢献は25年から
ネットフリックス自体の契約者数は2億6000万を超えた。以下は同社決算資料より作った会員数の推移だが、2023年秋以降ユーザー数の伸びが回復しているのがわかる。
図版:ネットフリックスの情報から筆者による作成。
地域別に見ると欧州の伸びが大きく、日本を含むアジアもラテンアメリカの国々に追いついて来ている。ただし、アジアの会員数成長は鈍化傾向にある。
図版:ネットフリックスの情報から筆者による作成。
会員数が伸びた理由は、「アカウント共有」の明示的な禁止に伴う追加加入ユーザーの増加だ。
ネットフリックス共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏。
出典:ネットフリックス
この時期、ネットフリックスは目立った値上げ施策をしておらず、アカウント共有行為の減少に力を入れた。この施策が特に欧州などで効果を発揮した結果、利用者増に結びついたと推測される。
ネットフリックス共同CEOでシステム施策・ユーザーエクスペリエンスを担当するGreg Peters(グレッグ・ピーターズ)氏は以下のように同社の方針を語った。
「ここからはユーザー数を増やし、広告ビジネスを拡大する必要がある。しかし、あくまで数年にわたって体験を改善し、サービスを良いものにしていくことが重要。
より良いエンゲージメントを得たその先で、大規模で収益性の高い広告ビジネスを構築できる」(ピーターズ氏)
ネットフリックスは日本を含めた広告サービス展開国では、広告のない「ベーシックプラン」を廃止する。低価格プランは広告ありが基本になり、広告のない形での視聴はスタンダード(月額1490円)もしくはプレミアム(同1980円)のみとなる。
日本で提供されている3つのプラン。
出典:ネットフリックス
前出のようなコンテンツ施策の強化を進め、サービス改善を進めた上で会員を増加させていき、その結果として広告からの収入が拡大していく……という長期戦略を取る。
そのためネットフリックスとしては、広告からの本格的収益拡大は2025年以降としている。WWEの配信開始も2025年からであり、同社が「まだ放送を軸にしている顧客」の刈り取り時期をこの時期と見積もっている……という予測も成り立ちそうだ。