撮影:西田宗千佳
7月20日午前(日本時間)に発表されたネットフリックスの第2四半期決算(4月〜6月)が注目を集めている。
同社は3カ月前の第1四半期決算で、会員数が200万人減少し、続く第2四半期もさらに200万人減少する、と公表。株価は一時、2021年秋の最高値付近から70%以上下落し、コンシューマ向けのストリーミングビジネス全体の先行きへの懸念が拡大する結果ともなった。
サマリーは次のとおりだ。
- ユーザー数「維持」モードへの移行が鮮明
- 為替影響が大きい。ユーロ安ショックは3億ドル以上の影響
- 「広告モデル」開始はもはや主要な収益拡大プランの1つに
発表された第2四半期決算の結果と経営陣の発言は、ネットフリックスをとりまく状況が、次のフェーズに移行したことを強く感じさせるものだ。
ネットフリックスの急成長期は終わった
ネットフリックスの2022年度第2四半期業績。会員数は予想の半分、97万人の減少にとどまった。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
結果的に言えば、第2四半期の結果は、前期の予想よりは「良好」ではあった。
「会員数は280万人の大幅減もありうる」(英銀大手バークレイズ)との悲観的予想まであった会員数は、97万件減少の2億2067万人と、前期予測に対し半分の減少幅にとどまり、2億2000万加入割れをなんとか回避した。
ネットフリックスは、第3四半期の会員数予測は100万人増加の2億2167万人と、ふたたび増加へ転ずる、との見立てを公表している。ただし、前年同期比では3.8%の増加と、大幅なものではない。
これは成長というよりも、ネットフリックスが「大幅な会員増のフェーズ」から、「会員数維持のフェーズ」に移行したことを鮮明に印象づける。
売上高は前年同期比8.6%増加の79億7000万ドル。前期に対しても1億200万ドルの増加となっている。
一方で、ネットフリックス会長で共同CEOのリード・ヘイスティングス氏は、
「リニアTVの時代(オンデマンドでない放送)は、あと5年から10年で終わる。
我々はストリーミングに対して強気であり、マネタイズの方法についても改善を進める。一時的にお金を失っても成功、ということはあるわけで、来年に向けたいい準備ができたと考えている」
と、あくまで強気の姿勢を崩さない。
ネットフリックス会長で共同CEOのリード・ヘイスティングス氏。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
資料の中では、アメリカのテレビ局や他の配信事業者に対し、「視聴時間シェアで優位にある」グラフを示し、自らの強みを強調した。
ネットフリックス IR資料より。ニールセンの資料を引用する形で、アメリカでの視聴時間について、ライバルを凌駕していると強調。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
この結果を米株式市場はプラスと判断したようで、業績発表後の株価は一時、時間外取引で12%上昇した。
成長率を鈍化させた「ユーロ安」リスク
とはいうものの、ネットフリックスの「前年同期比8.6%増」という売り上げ成長は、2021年度に比べかなり見劣りする。前年同期は19.4%、2021年度末にも16%成長だったからだ。
さらに同社は、第3四半期には売上成長率が4.7%へと下がる、とも予測している。
これはどういうことなのか。
背景にあるのは為替市場の動向だ。
ネットフリックスの売り上げの60%はアメリカ以外からもたらされているが、経費のほとんどはドル建てだ。ネットフリックスのアメリカでの会員数は、第2四半期現在約7328万人。ヨーロッパ・中東地域の会員数も7297万人とほぼ同等。そこで起きた「ユーロ安」は、同社の収益に大きな影響を与える。
今期の為替による影響はマイナス3億3900万ドルと大きい。これを加味しない場合、今期の収益は前年同期比で13%増収になる、とネットフリックス側は発表している。第3四半期の売り上げ成長予測も4.7%とされているが、前年の為替レートで計算すると12%の増収になるという。
コンテンツの強さで顧客維持、アメリカやヨーロッパでの値上げは「しない」
マクロ経済の状況は依然不透明であり、さらには今後、アメリカの景気後退の懸念もある。個人向けのサブスクリプション・ビジネスにとっては、契約見直しによる減収が懸念される逆風状態だ。
ネットフリックスは「エンターテインメントのサブスクリプションは(景気減退に対し)粘り強い傾向がある」ともコメントしているが、対策は必要になる。
ネットフリックスとして、まずはコンテンツの強さをアピールしていくしかない。
最新の「シリーズ4」が世界92カ国で再生時間ランキングトップ10入り、シリーズ1から3までもランキングを席巻している「ストレンジャー・シングス」のようなヒットが続くよう、投資と開発を続ける他ない。
公開以来、「ストレンジャー・シングス シーズン4」は世界中で視聴が続く。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
ネットフリックスのIR資料より。「ストレンジャー・シングス シーズン4」のTwitterでの言及は、他のヒット作よりも多いことを強調した。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
会員拡大の切り札「広告モデル」は2023年にスタート
一方で、ネットフリックスのスペンサー・ニューマンCFOは「第2四半期や第3四半期の予測からも、アメリカやヨーロッパでのさらなる値上げからは遠ざかる状況」ともいう。収益性改善は、単価アップによる収益拡大とは、別の流れを目指すということになる。
そこで注目されるのが「広告モデル」の導入だ。
ネットフリックスのグレッグ・ピーターズ CPO(Chief Product Officer:最高製品責任者)は、広告導入について次のように述べる。
ネットフリックスのグレッグ・ピーターズ CPO。
出典:Netflix 2022第2四半期決算より
「広告主などとの初期の話し合いでは、非常に良い反応をいただいている。彼らは我々の強いコンテンツとつながりを持ちたい、と考えていたからだ。パートナーとしマイクロソフトを選んだのは、技術力やプレミアムのあるコネクテッドTV向けの広告エコシステムなどのビジョンについて整合性を見出したためだ」(ピーターズCPO)
広告モデル利用者と従来課金モデル利用者の比率予測について、直接的な言及を避けた。しかし、「(広告収益は)我々のビジネスの総収入から見れば小さなものから始まるが、年を経るごとに増えていくだろう」(ピーターズCPO)と話す。
前述のように、導入時期は「2023年前半」とされている。現状の検討状況について、ピーターズCPOはもう少し、詳しく語っている。
「広告モデルによって会員をどのように増やしていくかは検討中だが、重要な構成要素となるのはもちろん『国』。まずは広告市場が成熟している国々で開始し、収益拡大の状況を見て、来年は国ごとに状況を見ながら進めていくことになる」(ピーターズCPO)
また、今とは価格モデルがかなり変わっていく可能性は高い。
「幅広い顧客に対応するため、それぞれの価格帯に特徴的な機能をさらに追加していく予定だ。その上で、価格プランはできるだけシンプルにしたい。導入時期についても色々と検討している」(ピーターズCPO)
ただし、「広告なしで見ている人々が、急に広告ありに切り替わることはない」(ピーターズCPO)とも明言する。
ニューマンCFOは、収益拡大基調への回帰について、次のように言及する。
「広告モデルの導入と、アカウントをシェアしている人々への追加課金の導入は、同時に進められている。構築に際しての費用増加などで複数年に渡り影響は出るが、2023年から2024年にかけて、収益拡大を進める」(ニューマンCFO)
つまり、今のネットフリックスにとって、会員数の増加・安定こそが重要な指標であり、そのためには多少の時間をかけることはいとわない。
一方、この2年ほどをかけてでも広告導入を進める裏側には、「広告収益」という選択肢がネットフリックスの利益拡大の大きなピースになっており、もはや「消極的な広告」という選択肢は考えづらいことも示している。
振り返れば、ネットフリックスは1年半前の通期決算で、こんな言葉を語った。
「我々は、広告なし・追加料金なしのシンプルなプランこそが、世界中の消費者にとって魅力的なものだと信じている」(グレッグ・ピータース氏、2021年1月)
今日の決算発表で語られた数々を思うと、今や同社は次の段階に差し掛かったと思わずにはいられない。
(文・西田宗千佳)