1万人以上の科学者が訴えた「緊急事態」…気候変動対策の1つは人口を減らすこと

南極デニソン岬のランズエンド。崖の表面にある氷が溶けているのがわかる。2010年2月撮影。

南極デニソン岬のランズエンド。崖の表面にある氷が溶けているのがわかる。2010年2月撮影。

Pauline Askin/Reuters

  • 地球の気候が「緊急事態」にあるとする声明に、世界の1万1250人を超える科学者が署名した。
  • 同声明は、気候変動を示す指標として、海水温の上昇氷床の融解、温室効果ガスの排出量増加などを挙げている。
  • また、気候変動への対策として、排出量を減らすだけでなく、出生率を減らし菜食中心に切り替えることを提案している。

「地球の気候が緊急事態に直面していることは、明白で疑いようがない」と警告する声明が、世界153カ国、1万1250人を超える科学者の署名とともに発表された。

気候変動の原因となっている人間の活動を根本から永続的に変えなければ、「人類に甚大な苦難」がもたらされることは避けられないと声明は主張している。

声明は、11月5日付でBioScience誌に掲載された。主張の根拠となっているのは、温室効果ガスの排出量増加や、海水温の上昇、極地の氷の融解を示す、過去40年分のデータの分析だ。科学者たちは、「何らかの破滅的な脅威があれば、それをはっきりと人類に警告する道義的責任が自分たちにはある」と述べている。

さらに、「地球の気候をめぐって40年のあいだ議論が行われてきたにも関わらず、わずかな例外を除いて、企業活動はこれまでと同様に続いており、この危機への対応はほとんどなされていない」と声明は述べている。

科学者は、緊急事態を宣言しただけでなく、気候変動に対してとるべきいくつかの方策を提案した。「気候変動を憂慮する人は、以下の3つの対策を検討すべきだ。第1に化石燃料の使用を減らすこと。第2に菜食中心の食生活を送ること。そして、子どもを持つ数を減らすことだ」と、声明の筆頭著者である生態学者のウィリアム・リップル(William Ripple)氏はBusiness Insiderに対して述べた。

この声明が発表されたのは、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が、気候変動への取り組みを定めた「パリ協定」からの離脱を正式に通告した翌日のことだ。パリ協定は、温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動を緩和することを目指す国際協定で、200近い国が参加している。

温室効果ガスの排出量と地球の表面温度はともに上昇を続けている

ドイツ東部にあるイェンシュヴァルデ褐炭火力発電所。冷却塔から煙が出ている。2009年12月2日撮影。当時は、スウェーデンに本社を置く大手電力会社バッテンフォール(Vattenfall)が所有していた。

ドイツ東部にあるイェンシュヴァルデ褐炭火力発電所。冷却塔から煙が出ている。2009年12月2日撮影。当時は、スウェーデンに本社を置く大手電力会社バッテンフォール(Vattenfall)が所有していた。

Reuters/Pawel Kopczynski

科学者たちは、気候の緊急事態を適切に監視するためには、地球の気温変化を追跡するだけでは不十分だと主張する。人口増加や森林の消失、肉の消費、異常気象による経済的損失といったものはいずれも、1979年以降、気候の危機的状況が高まっていることを示す「非常に不穏な兆候」だと、彼らは述べている。彼らが分析に用いた過去40年分の公開データには、エネルギー使用量、地球の表面温度、人口増加、森林破壊、極地の氷の量、出生率、温室効果ガス排出量などの数字が含まれている。

「われわれは、緊急行動の必要性を示す知見をシェアし、向こう数年間の進捗状況を評価するための達成目標を提示するために多様な分野から科学者の声を集めている」とリップル氏は話す。

特に気がかりな点として声明が挙げているのは、複数の気候データが一致した傾向をみせていることだ。具体的には、3つの主要な温室効果ガス(二酸化酸素、メタン、亜酸化窒素)の排出量が、地球の表面温度と並行して上昇し続けている。

同時に、グリーンランドと南極の氷床が急速に消失し、氷河の厚さが減少し、北極の海氷が過去最小レベルになってきている。さらには海洋の温度と酸性度も上昇しており、異常気象とそれに伴う損害額が上昇傾向にあることを明らかにした。

「緊急事態」への対策は、出生率を減らし、菜食を増やすこと

声明では、世界中の人々や政府が、気候変動を食い止めるために今すぐ実践できる方策を提示している。中でもリップル氏が重視するのは、誰でも実行に移せる次の2つだ。

「自発的な家族計画によって出生率を下げ、菜食中心の食生活を送る必要がある」

温室効果ガス排出量の削減効果に関する2017年の研究によると、もうける子どもの数を1人減らすことには、リサイクルや電気自動車の利用、ベジタリアンへの転向、再生可能エネルギー利用を上回る効果があるという。「気候変動の抑止に最も大きく寄与できる個人の行動は、子どもをもつ数を1人減らすことだ」とリップル氏は話す。

「気候変動の抑止に最も大きく寄与できる個人の行動は、子どもをもつ数を1人減らすことだ」とリップル氏は話す

Anna_G/Shutterstock

リップル氏はまた、食生活を変えることの重要性も強調した。牛、ヒツジ、ヤギといった肉の消費量を全世界で減らすことで、人間の健康状態を改善すると同時に温室効果ガスの排出量を大幅に減らす効果が期待できるという。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が8月に公開した報告書によると、温室効果ガスの総排出量において、人類の食料システム(農耕牧畜、輸送、包装、飼料製造など)が占める割合は37%に上るという。中でも牛、ヒツジ、家禽類の生産は、排出量の18%という大きな割合を占めると、ザ・カンバセーション(The Conversation)の記事は報じている。この値は、船舶や航空機、トラック、自動車からの総排出量よりも多い

この問題への対策として、赤身肉の消費を減らすことをIPCCの研究者らは提案している。

IPCC報告書の共著者であるシンシア・ローゼンツワイグ(Cynthia Rosenzweig)氏によると、世界中のほとんどの人がヴィーガン(完全菜食主義)になった場合、2050年までに二酸化炭素にして最大8ギガトン(1ギガトンは10億トン)相当の温室効果ガスの排出が防げるという。

イリノイ州ミドルタウン近郊の牧草地で草をはむ牛。2011年9月12日撮影。

イリノイ州ミドルタウン近郊の牧草地で草をはむ牛。2011年9月12日撮影。

Seth Perlman/Associated Press

同じく8月に発表された別の研究でも、アメリカ人全員が食べるすべての牛肉、鶏肉、豚肉を植物性食品に置き換えた場合、毎年2億8000万トン相当の二酸化炭素が削減されるとの計算結果が出ている。これは、道路を走る自動車を約6000万台減らすのと同等の効果だ。

カーボン・プライシングや森林再生も有効

子どもをもつ数や肉食を減らすほかに、今回の声明が提案している方策は、化石燃料の使用による炭素排出量に価格付け(カーボン・プライシング)すること、メタン排出量を削減すること、また森林などの二酸化炭素吸収源を再生・保全することだ。

リップル氏は、自然を用いた気候変動対策を強く支持すると述べている。すなわち、排出量の削減と並行して、森林、草地、湿地の保全と再生に力を入れることだ。

しかし、植林や森林の保全は、気候変動対策の万能薬ではない。現実には、人類が過去250年間に行った二酸化炭素排出の効果を相殺するのに必要な樹木を植えようとしても、地球上には土地が足りないのだ。2017年の論文によると、温暖化を摂氏2度以内に抑えるのに必要な本数の樹木を植えるには、森林以外の土地のほとんどを使わなくてはならないという。

ニューヨーク州アマガンセットにある「アンバー・ウェイブズ・ファーム(Amber Waves Farm)」で、草取りと作物の植え替え作業をする人々。2019年7月11日撮影。

ニューヨーク州アマガンセットにある「アンバー・ウェイブズ・ファーム(Amber Waves Farm)」で、草取りと作物の植え替え作業をする人々。2019年7月11日撮影。

Lindsay Morris/Reuters

リップル氏らは声明の中で、人間社会の構造を根底から変革することも必要だという姿勢を示した。

気候変動による危機は、富裕層のライフスタイルである過剰消費と密接に関連しているため、世界は経済成長と豊かさの追求から目標を変更するべきだと、声明は訴えている。

[原文:More than 11,000 scientists have declared a 'climate emergency.' One of the best things we can do, they say, is have fewer children.

(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)

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