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あのとき「アニメ」が変わった 1981年アニメ新世紀宣言

2009年10月17日

写真拡大1981年、東京・新宿駅東口で開かれた「2・22アニメ新世紀宣言大会」で、壇上からあいさつする富野由悠季総監督=野辺忠彦さん提供年表拡大  写真切通理作さん

 アニメはかつて「漫画映画」「テレビまんが」などと呼ばれ、子供のものだった。いまや世界の若者の心をとらえ「日本が誇る文化」に。大人が見るのも当たり前、首相就任直前の鳩山さんがふらりと映画館にアニメを見に来るくらいだ。振り返れば「ヤマト」「ガンダム」で盛り上がるアニメブームただ中の81年、アニメが若者の新しい文化であることを、新宿に1万5千人を集めて高らかに宣言したイベントがあった。

■「趣味こそ僕らの主義」の時代に

 81年2月22日、新宿駅東口のアルタ前広場はアニメファンで膨れあがった。翌月公開の「機動戦士ガンダム」劇場版第1作の宣伝イベント「2・22アニメ新世紀宣言大会」。主催者の予想をはるかに超えて集まった1万5千人を前に、総監督・富野由悠季(とみの・よしゆき)さんらがあいさつした後、「私たちは、アニメによって拓(ひら)かれる私たちの時代とアニメ新世紀の幕開けをここに宣言する」という宣言文が読み上げられた。

 77年の劇場版「宇宙戦艦ヤマト」が230万人もの観客を動員して以来、「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」「銀河鉄道999」などの大ヒットが続き、若者向けアニメとそのファンがマスコミの関心を集めていた。

 「でもスポーツ新聞かなんかに、先着プレゼントのセル画目当てに映画館に徹夜の行列、といった記事が出るばかり。そこで宣伝屋としては、朝日新聞の文化欄に取り上げてもらえるようなイベントを、と狙った。だから今、こうして取材していただけるのは感無量ですよ」。宣伝プロデューサーとしてイベントを企画し、宣言文も書いた野辺忠彦さんは、こう言ってほほえむ。

 イベント成功で勢いづいた「ガンダム」は劇場版3部作がヒットし、「新世紀宣言」はアニメブームを象徴する記念碑的な出来事になった。

 「新世紀宣言は、子供のものと思われていたアニメを若者文化の一つとして世間に認知させた。『歴史に立ち会った』という感想を何人ものファンから聞いた」。当時アニメ雑誌編集長で、ボランティアとしてイベントの企画・運営に奔走した小牧雅伸さんは話す。「フォークも政治運動ももうない時代、若者の共通体験はアニメになった」

 テレビアニメ「鉄腕アトム」が始まった63年に生まれた子が、この年18歳になっていた。ブームを担った若者たちは、アニメと共に育った世代だ。「ヤマト」や「ガンダム」はそんな世代の欲求にこたえ、深みのあるドラマ、リアルな描写、壮大な世界観といった新たな表現を切り開いた作品だった。

 「新世紀宣言は、『主義』から『趣味』の時代に移ったことを象徴的に示した」とアニメ評論家の藤津亮太さんは指摘する。

 「『趣味こそ僕らの主義だ』と言い換えてもいい。あの場に集まったファンは、そんな思いを共有していたはず。『新世紀宣言』は宣伝文句ではあったが、新しい時代が始まるというファンの気持ちと合致していた」

 若者という観客層を獲得したアニメは、80年代半ばにブームが終わった後も、彼らの欲求にこたえようと表現の可能性を追求し続けてきた。メカ描写はより複雑にスピーディーになり、CGまで使われるようになった。キャラクターの外見を美麗に磨き上げ様々な性格のタイプを用意し、「萌(も)え」を生み出した。過激なバイオレンスもグロテスクなホラーも、「18禁」ポルノもある。DVD、CD、書籍、ゲーム、フィギュアなど関連商品もよりどりみどり。

 だが「アニメファンのための内向きの作品ばかりで、広い層へメッセージを訴えかけようとする作品がほとんどない」と、富野さんは日本アニメの現状に不満を抱く。

 「ガンダム」第1作のテレビ放映から30周年の今年、東京・お台場に建てられた高さ18メートルの「実物大」ガンダムを見に415万人が来場し、スイスのロカルノ国際映画祭で日本アニメの大回顧上映に欧州の観客が集まるのを目にした。

 「アニメはその記号性、象徴性のおかげで国境や文化圏を超えていく力があると感じた。『人類の未来』のような大きな問題も、フィクションに乗せて語れば伝わりやすいことが分かった。アニメ制作者はそれを自覚し、『有限の地球で人類が生き延びる方法は何か』といった今考えるべき問題を、アニメで訴えるべきです」と富野さん。

 「新世紀宣言から約30年、アニメというものがようやく一般の媒体として認められてきた。これから本当の新世紀が始まる。30年なんて助走期間ですよ」

■分岐する物語を楽しむ 切通理作さん(批評家)

 「ガンダム」の主人公は戦争に参加しているだけで、それを解決できる力を持っていない。ロボットも兵器であり量産可能で、それは架空の戦争の一局面を「たまたま」見ているという臨場感を生み、同じ世界の中の「描かれていない別の物語」を想像させる広がりを持つ。

 大きな世界観の下で、様々に分岐していく物語を楽しみ、ファンもまた想像力を使って参加していく。「ガンダム」は、パロディーなどの2次創作やゲーム、ライトノベルなどで広がっている楽しみ方の原点でもある。(小原篤)

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