徳島は「徳島らしく」決戦制し、J1へ

2013/12/09

「J1へ行こう。J1へ行こう」

徳島のゴール裏から誇らしげな凱歌が響きわたっていた。その反対側を支配していたのは、沈黙。歓喜と沈黙の残酷なコントラストが、J1昇格プレーオフの結末を言葉以上に強く物語っていた。

試合内容は予想どおりと言えば、予想どおりだった。徳島FW津田知宏の言葉を借りれば、「想定内」ということになる。立ち上がりから京都がボールを長く支配し、徳島を押し込む展開となる。だが、徳島の守備コンセプトである「後ろにコンパクト」(徳島・長島裕明コーチ)は揺るがない。ディフェンスラインは決して下げ過ぎず、しかし中盤のラインはディフェンスラインのすぐ手前まで下げて、そのスペースを限界まで狭める。厳しいプレッシャーでボールを奪えば、そこから一気に反転攻勢へつなげるスタイルだ。

それでも京都の高い技術を持ったアタッカーたちは、何度か危険なシーンを作っていた。ただ、決まらない。徳島は引き分けなら終了という状況だったが、慌てず騒がず、攻め急ぐことはない。前半は0-0でもいい。そういう割り切りが見えるサッカーだった。すると39分、点を取りに行こうと急いていたチームではなく、0点でもいいと割り切っていたチームにゴールが生まれる。CKから長身DF千代反田充が決めて、徳島が先制点。さらに43分には、相手のスキをついた津田が追加点を奪う。2010年から徳島でプレーし、最終節で昇格を逃した一昨年の悲劇も知るストライカー、津田。「こんなに素晴らしい舞台でやれるのは本当に幸せだと思っていた」という男の一撃が、試合の流れを決定付けた。

前半のシュート数はわずかに3本。それで2点を奪ってしまったのだから、徳島にとっては理想の流れだったと言えるだろう。あとは京都の攻勢を受けながら、ボールを奪っては速攻を繰り出すという徳島らしい展開に持ち込めばいい。津田が「京都は焦っていたと思う。焦って出てくるところをカットして裏へ抜ければいいと思っていた」と語るとおりだ。

それでも京都の反攻は目覚ましいものがあった。焦りはあったかもしれないが、同時に気迫もあった。ただ、届かなかった。DF橋内優也、途中投入のMF斉藤大介らが固める徳島の「後ろにコンパクト」な陣形を最後まで切り崩せず。国立の電光掲示板に表示された「0-2」の数字は、試合終了の笛が鳴り響くまで動くことはなかった。

今季のJ2前半戦終了時点での徳島の順位は「15位」だった。驚異的な巻き返しで4位に入った徳島は、苦しんだ試行錯誤の期間が長かっただけに、チームとしてのやり方が確立されていた。国立まで駆け付けた大勢のサポーターに、勝利の報告を終えたイレブンは来季からJ1での戦いに挑むことになる。「簡単でないことは分かっている」と津田は言い、「まだまだ通用しない部分がある」と斉藤は気持ちを引き締めた。四国初のJ1クラブ誕生。喜びは大きくとも、戦いがこれから始まるのだということを、選手たちはよく知っている。

そして、それは敗者の側にも言えること。崩れ落ちた京都イレブンもまた、歩き出さなければいけない。「来年の開幕はまたやって来る。前を向いて進んでいくしかない。自分たちに何が足りないのか。一人ひとりがそれを考えながら、『今日よりも明日』と成長していけるように、サッカーへ取り組んでいくしかない」。山瀬功治は、静かに、噛み締めるように、そう語った。

川端 暁彦 [Akihiko Kawabata]

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。
2002年から本格的にフリーライターとして育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。
創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。
古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボールチャンネル』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、
フリーの編集者としての活動も行っている。

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