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一人のゲイから見る、腐女子とボーイズラヴ作品

円山てのる2008/05/28
腐女子とは、男性同性愛を描いた小説やコミックを好んで読むような女性のこと。筆者は、一人のゲイとして、できるだけ多くの人たちに現実のゲイについて知って欲しいと考えています。
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 近頃、“腐女子”なる人たちの存在が、かなり広く知られるようになってきたと感じます。かく申す筆者は、腐女子ではありません。むしろ、彼女たちが強い関心を抱く男性同性愛者=ゲイの側に属する者の一人なのですが、さりとて、あいにくBL=ボーイズラヴの範疇からは外れております。

 筆者は、もう40代も後半となり、いわゆるチュウネンの域に達しておりますので、同じゲイと称しても、まるで腐女子の皆さんが好まれる部類ではありません。

 あらためて定義をしまするに、腐女子とは、男性同性愛を描いた小説やコミックを好んで読むような女性を指します。とりわけBL=ボーイズラヴ作品、すなわち、設定上、おおむね10代の年長を中軸とし、しかも美形/イケメン系のゲイ少年〜青年たちが営む男同士の恋愛物語を、夢中になって貪り読まれる方たちを意味しています。

 登場人物たる同性愛の少年たちは、ことごとく美少年として描かれなくてはならないとの、絶対の不文律が存在するようです。

 いっぽう、腐女子の皆さんは、美少年同士の恋愛を描いた書籍を好むこと自体を、独特な感覚であると自己認識されているようで、ご自身がいわゆる“オタク”ないしは“オタク的なるもの”に属していることを、しっかり、ご承知のご様子です。

 要するに、腐女子の皆さんは男性同性愛に関心を持たれているとは言え、その対象は極めて限定的であり、しかも往々にして、創り出された非現実的/幻夢的なゲイ世界の中だけで、いかにもオタクらしく、単なるファンタジーを愉しまれているというのが、標準的な様相かと想われます。

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 こうした腐女子の動向と、ボーイズラヴ作品の侮れない人気ぶりについて、“本物のゲイ”はさまざまな反応を示しています。

 冷たい反応を示すゲイは、多くのボーイズラヴ作品があくまで夢想としてのゲイ世界を描いていることに痛々しさを感じています。男性同性愛の広範な実態を無視し、美少年同士の恋愛に矮小化するとともに、過度とも言える同性愛の美化/純化を伴って表現されていることに、空々しさを覚えるのです。

 たしかに、現実の男性同性愛は、決して、腐女子の皆さんが好むような、まさしく絵になる美少年たちだけで構成されているわけではありません。それこそ、絵空事です。

 デブもいれば、チビもいる。
 ノッポもいる。
 ガリガリなのもいれば、むっちりガッチリもいる。
 オッサンくさいのもいれば、本物のオッサンもいて、ヲネエさまもいれば、オバサンまで存在する。
 お爺さん世代にだってゲイは存在する。
 イモ系も、ブス系も、わんさかいる……。

 そして、どんなゲイにも、それなりの需要がしっかりとあるのです。
 ゲイに捨てる者なし――と、決して、いわゆる若くてハンサムで美しいとされる少年・青年たちばかりが、現実のゲイ世界で、モテはやされているわけではないのです。案外、上手くできているのです。ここが、極めて重要なポイントです。

 もし、腐女子の皆さんが、ゲイの恋愛に純粋性を見ておられるのだとしたら、筆者を含め多くのゲイは、そう聞いて悪い気はしないでしょうし、ささやかな幸せさえ感じましょうが、現実はやはり、ゲイの恋愛とてドロドロとした愛憎渦巻く坩堝の中にあります。

 愛は、異性愛であろうと同性愛であろうと、純粋なものはとことん純粋でしょうし、濁ったものはどこまでも濁っておりましょう。同性愛だから純粋だとの短絡的な感覚が、まず以て同性愛を誤解していると申せます。

 ひるがえって、腐女子の動向、ボーイズラヴ作品の侮れない人気ぶりについて、好意的な反応をするゲイもおります。ゲイの中にも、腐女子の皆さんと同じく、ボーイズラヴ作品の独特な世界を愉しんでいる人たちがいるのです。

 彼ら、ボーイズラヴ好きなゲイたちによって――、

○ボーイズラヴ作品は、ことさら「絵になる美少年」のみを描こうとするものではない。
○ゲイメディアにおける表現とは多少異なるにしても、屈強な肉体美を誇る男性同士のセックスを描くようなボーイズラヴ作品も存在している。
○仮に、ボーイズラヴ作品が現実のゲイ男性を疎外するような内容を持っていたとしても、だからといって「絵空事」だとか「空々しい」とか「痛々しい」という断定はできない。
○なぜなら、ゲイへの配慮を感じさせるような表現を通して、優れた芸術性を湛えているボーイズラヴ作品も、多く存在しているからだ。
○ボーイズラヴ作品に接した現実の少年ゲイたちが、そのストレートな男同士の恋愛表現に感化され、とても励まされている実態もまたあり、こうしたポジティヴな可能性について、もっと理解が為されるべきだ。
○諸外国では日本と異なり、ボーイズラヴ作品が異性愛女性のために作られたジャンルであることを前提としながらも、ゲイ自身のアイデンティティ確立や異性愛者がゲイを理解するための、有益性を秘めているのではないかと、真剣に議論までされている。

 ――といった反論も提起されています。
  
 腐女子の皆さんは、おそらく、現実のボーイズ・ラヴ――若い男の子たちの同性愛を、決して卑下などしていないとおっしゃることでしょう。むしろ、若い男の子たちのゲイネスを賛美しているのだとさえ、おっしゃるのではないでしょうか。もちろん、それならそれで結構なことです。

 しかしながら、夢想の世界を愛する、その度が過ぎて、結果的に現実のゲイたちを不愉快な思いに陥らせているとするなら、如何なものでしょうか。ひどく無責任な話かもしれません。

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映画『BOYS LOVE ボーイズラブ 劇場版』
 とは申せ、いたずらに腐女子やボーイズラヴ作品を批判していても、つまらないのです。

 大きな書店に赴くと、必ずボーイズラヴ作品の書籍コーナーがあることに気付きます。インターネット上でも、しばしばボーイズラヴ作品の広告類を目にします。小説やコミックだけでなく、実写版のボーイズラヴ映画も、制作/公開されています。

BOYS LOVE ボーイズラブ 劇場版

 このように、相も変わらぬ高い人気ぶりをうかがわせています。

 これを裏付けるように、2008年3月に開設された「腐女子応援ポータルサイトfujyoshi.jp」上で、「腐女子宣言」をする女性たちの数が、すでに1万人を突破しているとの状況があります。

 筆者は、一人のゲイとして、できるだけ多くの人たちに現実のゲイについて知って欲しいと考えています。

 いっぽう、ゲイ/同性愛者でない人たちは、現実のゲイと面と向かって接する機会に乏しいと想われます。ゲイについて積極的に知ろうとなさらない傾向もあるでしょうが、たぶん、もっとゲイと接する機会があれば、さらなる関心/興味を示していただけるだろうと考えています。

 問題は、その興味の示し方なのですが、どうしても最初のうちは、「ゲイは、どうやってセックスをするのか?」「男役と女役は、つねに決まっているのか?」「ゲイは、必ずオネエ言葉を使うものなのか?」などなど、次元の低い下世話なことになりがちでしょう。

 しかし、いずれは「ゲイがどれだけ辛らい思いをしながら、この社会を生きているか」「現実の世の中が、どれだけゲイの存在に配慮を欠いたシステムで出来上がっているか」など、段々と次元の高い理解へ進んで行かれることを、心から希望しています。

 ボーイズラヴ作品が、ゲイ/同性愛者ではない人たちにとって、ゲイとはどういうものなのかを知るための、実は有力な情報源のひとつになりつつあるのかもしれないことと、ボーイズラヴ作品自体にもまた、さまざまな形に分派発展して、よりリアルなゲイ世界を描こうと、変容し続けている部分があることに、大きな可能性を見出したいところです。

 ボーイズラヴ作品があり、腐女子の皆さんをはじめとする読者がいます。100人の読者がいれば、きっと100通りの感じ方、思い入れが生じることでしょう。

 ◇ ボーイズラヴ作品のあり方が、幻夢としての、ちょっとあり得ないようなゲイ世界を描くに留まることなく、これからますます多様なスタイルで、ゲイの抱える難しい問題までをも描写/表現するよう、変化してゆくことを期待しながら――、

 ◇ 腐女子のみならず、ゲイ/同性愛者でない人たちがボーイズラヴ作品を通じ、現実のゲイを知り、現実のゲイに真摯な興味を抱き、ついには現実のゲイの存在や苦悩、また幸福までをも社会の中に投影/意識するようになって下さるのであれば――、

 ◇ 腐女子たる人々、そしてボーイズラヴ作品の存在に比較的、冷たい視線を送ってきた筆者は今後、むしろ――、

 ◇ <腐女子/ボーイズラヴ作品のポジティヴな可能性>を積極的に訴える側に廻っても良いとまで、考え方が転回することでしょう。

◇ ◇ ◇

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