タテジマフジツボ(Balanus amphitrite)に関する情報
●原産地と分布:
ハワイ原産といわれているが、詳細は不明。熱帯から温帯域に広く分布している。
●定着実績:
1937年にはすでに内湾の港で普通に見られていたことから、それ以前に侵入したと考えられる。1940〜1950年代には東京湾、三重県、大阪湾、九州西岸で確認されており、1960年代には全国的に分布が拡大した。
●評価の理由:
在来の固着生物と生息空間をめぐる競合があると考えられるが、被害に係る知見が不足している。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
在来のサラサフジツボと競合し減少させたと考えられている。
他の在来固着生物と生息空間をめぐり競合すると考えられる。
農林水産業に係る被害
フジツボ類は養殖カキや真珠の生育に影響を及ぼすことが知られている。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
タテジマフジツボは在来のサラサフジツボよりも広い範囲の塩分濃度で生息可能であり、乾燥耐性も高い。
タテジマフジツボの繁殖期は他の内湾棲フジツボ類よりも長く、また抱卵率も高い。
春に新規加入した集団は秋に繁殖に参加することができるため、個体群増加速度が速いと考えられる。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
殻長約1cmの小型のフジツボ。殻表面は平滑で縦縞模様がある。シロスジフジツボは殻表面に白色の肋があり、サラサフジツボは表面は平滑で縦縞と横縞模様がある。いずれも内湾潮間帯に産する。
●その他の関連情報
外来フジツボは特に、低塩分の水域でも生息が可能であるため、河口域での取水施設等に汚損被害を与えている。
フィリピンから船体付着により非意図的に侵入したと考えられている。
幼生の着底は湾外よりも湾内の、水深1m付近に多く見られる。
繁殖に適する水温は18〜28℃で、それ以上になると繁殖が阻害される。
●注意事項
他の在来固着生物を駆逐するなど、生態系に被害を与える可能性が指摘されているが、被害に係る知見が十分ではなく、種の同定も難しいため、他種と識別できる人材の育成が必要と考えられる。
●主な参考文献
(1) 荒川好満. (1974) 付着生物による水産業の被害. 海洋科学. 6: 258-263.
(2) 弘 冨士夫. (1938) Balanus amphitrite DARWINの日本産品種に就て. Zool. Mag. (Japan). 50(6): 299-313.
(3) 岩崎敬二他. (2004) 日本における海産生物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査結果から.
日本ベントス学会誌. 59: 22-44.
(4) 塚本博一. (1982) 温排水域におけるタテジマフジツボの繁殖. 付着生物研究.
4(1): 5-8
(5) Utinomi, H. (1960) On the world-wide Dispersal of aHawaiian Barnacle, Balanus amphitrite hawaiiensis Broch. Pacific Science. 14: 43-50.
(6) 山口義之. (1989) 外国から日本に移住したフジツボ類、特に地理的分布および生態の変化.
神奈川自然誌資料, 10:17-32.
(7) 安田 徹. (1968) 福井県丹生浦湾における汚損生物III. タテジマフジツボの生態について.
Japanese Journal of Ecology. 18(1): 27-32.
チチュウカイミドリガニ(Carcinus aestuarii)、ヨーロッパミドリガニ(Carcinus maenas)に関す情報
●原産地と分布:
地中海、大西洋東岸(ヨーロッパ北部〜アフリカ北部)原産。
●定着実績:
チチュウカイミドリガニは1984年に東京湾で初めて記録され、1990年代には相模湾、大阪湾、洞海湾に分布が拡大し、2000年以降は浜名湖、伊勢湾、瀬戸内海でも確認されている。東京湾では明らかに定着しており、大阪湾、伊勢湾においても定着している可能性が高い。
●評価の理由:
自然度の高い海岸に侵入すれば在来生物群集に被害を与える可能性があるが、現在の国内での侵入域においては生態系等への影響は明らかでない。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
チチュウカイミドリガニは在来カニ類と同所的に生息するため、何らかの競合が生じている可能性もあるが、その影響は不明である。
チチュウカイミドリガニは捕食により海岸の生物群集に影響を及ぼす可能性も考えられるが、現在の国内における侵入域は他の外来生物が多く生息する内湾域であることから、在来生物への影響を確認することは難しい。
ヨーロッパミドリガニは原産地では、岩礁潮間帯の固着生物の優占種であるヨーロッパイガイと補食性巻貝の優占種であるヨーロッパチヂミボラ、さらにヨーロッパザルを含むその他の二枚貝類に対する強い補食作用によって、在来種の分布と密度に大きな影響を与え、生物群集全体にも強い作用を及ぼしている。
侵入地である北米大西洋岸では、ヨーロッパミドリガニの侵入後に在来二枚貝と在来巻貝、ニッチを同じくする在来カニ類の密度を大きく減少させたことが示唆されている。
ヨーロッパミドリガニは摂食行動の際に砂泥を掘り返すため、埋在生物群集の種組成を攪乱し密度を減少させるなどして、砂泥干潟の生態系を攪乱している。
ヨーロッパミドリガニは、侵入地では餌生物である巻貝の表現型を変える(殻が厚くなり殻へのエネルギー投資が増加する一方、軟体部重量が減少し、産卵数を減少させる)ほどの強力な補食圧を被食者群集に与えている。
ヨーロッパミドリガニは鉤頭虫の中間宿主であり、スコットランドでは鉤頭虫の寄生がケワタガモの死亡率を高める原因になっている。
農林水産業に係る被害
侵入地である北米太平洋岸では、ヨーロッパミドリガニの侵入と水産物である在来二枚貝の減少との関連性が示唆されている。
ヨーロッパミドリガニは原産地、侵入地において、エビ・カニ捕獲用の餌を奪い取って漁獲量を減少させたとされている。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
国内での侵入場所が、都市部の環境悪化が進んだ内湾域であることから、水質汚濁に耐性があると考えられる。
内湾域が貧酸素状態にならない冬季に繁殖することから、国内では貧酸素化の影響を受けることなく個体群を維持することができる。
交尾は雌の脱皮直後に行われるが、交尾に際し雄が雌をガードするため、脱皮直後の雌の生存率を高め、繁殖の成功を確実にすると考えられる。
浮遊幼生期を持つことから、海域を通じて広範囲に拡散できる。
二枚貝、巻貝、多毛類、小型甲殻類などの多様な生物を補食する。
塩分・温度耐性が高く、岩礁、転石、干潟、塩性湿地などの様々な環境で確認されており、生息場の選好性が幅広い。
鉤頭虫の中間宿主である。
社会的要因
原産地では食材として利用されており、国内でも漁獲量が増加すれば食用にされる可能性もあると考えられる。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
チチュウカイミドリガニとヨーロッパミドリガニは現時点では2種に分けられているが、国内に定着しているものは雑種である可能性があり、形態での区別が困難なうえ生態特性は類似すると考えられるため、2種を同一に扱うことが適切だと判断される。
甲幅約5〜6cm。外部形態はチチュウカイミドリガニとヨーロッパミドリガニとはよく似ているが、交接器の形状で区別できる。遺伝的には亜種レベルでの違いであるとも言われている。
日本国内に侵入しているものは、チチュウカイミドリガニであるとされているが、とヨーロッパミドリガニとの雑種であるとも言われており、種の実態に関しては今後議論される必要がある。
●その他の関連情報
バラスト水または船体付着により国内に侵入したと考えられている。
ヨーロッパミドリガニは1817年に北米大陸東岸に、1980年代に北米大陸東岸および南アフリカに侵入し、オーストラリアでも1900年にはすでに生息していたと言われている。船体付着、バラスト水、水産物種苗や釣り餌を運ぶ海藻への混入などにより、非意図的に移入されたと考えられている。
ヨーロッパミドリガニはIUCNの「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されている。
●注意事項
自然度の高い海岸に侵入すれば在来生物群集に被害を与える可能性があり、今後の分布拡大を防ぐためにも海岸域におけるモニタリング体制を整備する必要がある。効果的な防除は困難だが、今後は他の地域へ侵入を早期に発見するための注意が必要である。
●主な参考文献
(1) Carlton, J. T. and Cohen, A. N. (2003) Episodic global dispersal in
shallow water marie organisms: the case history of the European shore crabs
Carcinus maenas ans C. aestuarii. Journal of Biogeography, 30, 1809-1820.
(2) 陳 融武・渡邊精一・横田賢史 (2003) 日本における外来種チチュウカイミドリガニCarcinus maenas の分布拡大. Cancer, 12: 11-13.
(3) Cohen, A. N., Carlton, J. T. & Fountain, M. C. (1995) Introduction,
dispersal and potential impacts of the green crab Carcinus maenas in San
Francisco Bay, California. Marine Biology, 122: 225-237.
(4) Ebling, F. J., Kitching, J. A., Muntz, L. & Taylor, M. C. (1964)
The ecology of Lough Ine, XIIII. Experimental destruction of Mytilus edulis
and Nucella lapillus by crabs. Journal of Animal ecology, 33: 73-82.
(5) Eriiksson, S., Evans, S. & Tllmark, B. (1975) On the coexistance of scavengers on shallow, sandy bottom in Gullmar Fjord (Sweden): activity patterns and feeding ability. Zoon, 3: 121-124.
(6) 風呂田利夫. (2002) チチュウカイミドリガニ. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック.
地人書館, p.184.
(7) 風呂田利夫, 木下今日子 (2004) 東京湾におけるイッカククモガニとチチュウカイミドリガニの生活史と有機汚濁による季節的貧酸素環境での適応性.
日本ベントス学会誌, 59: 96-104.
(8) Gee, J. M., Warwich, R. M., Davey, J. T. & George, C. L. (1985) Field experiments on the role of epibenthic predation in determining prey densities in an estuarine mudflat. Estuary, Coastal, Shelf Science, 21: 429-448.
(9) Glude, J. B. (1955) The effects of temperature and predators on the
abundance of the soft-shell clam Mya arenaria in New England. Transactions
of American Fisheries Society, 84: 13-26.
(10) Grosholz, E. D. & Ruiz, G. M. (1995) Spread and potential impact
on the abundance of the soft-shell claim Mya arenaria in New England. Transactions
of American Fisheries Society, 84: 13-26.
(11) Grosholt, E. D. & Ruiz, G. M. (1996) Predicting the impact of introduced marine species: lessons from the multiple invasions of the European green crab Carcinus maenas. Biological Conservation, 78: 59-66.
(12) Illinois-Indiana Sea Grant HP. Exotic Aquatics on the Move: Green
Crab (Carcinus maenas) . http://ag.ansc.purdue.edu/EXOTICSP/green_crab.htm
(13) 岩崎敬二他. (2004) 日本における海産生物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査結果から.
日本ベントス学会誌, 59: 22-44.
(14) Jensen, K. T. Jensen, J. N. (1985) The importance of some epibenthic predators on the density of juvenile benthic macrofauna in the Danish Wedden Sea. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 89: 157-174.
(15) Kitching, J. A., Sloane, J. F. & Ebling, F. J. (1959) The ecology
of Lough Ine, VIII. Mussels and their predators. Journal of Animal Ecology,
28: 331-341.
(16) Laffeerty, K. D. and A. M. Kuris. (1996) Biological control of marine
pests. Ecology, 77: 1989-2000.
(17) Megan McCormick's homepage. A Study of a Marine Invasive Species:
The European Shore Crab Carcinus maenas. http://www.tiltedworld.com/memcc/carcinus/index.html
(18) Muntz, L. Ebling, F. J. & Kitchhing, J. A. (1965) The ecology
of Lough Ine, XIV. Predatory activity of large crabs. Journal of Animal
Ecology, 34: 315-329.
(19) 村岡健作. (1996) チチュウカイミドリガニが東京湾で発見されたのはいつか.
Cancer. 5: 29-30.
(20) 鍋島靖信, 日下部敬之, 大美博昭, 山下隆司. (1997) 大阪湾で見つかったチチュウカイミドリガニ. Nature Study. 43(7): 3-6.
(21) 大谷道夫. (2004) 日本の海洋移入生物とその移入課程について. 日本ベントス学会誌, 59: 45-57.
(22) 酒井 恒. (1986) 珍奇なる日本産蟹類の属と種について. Researches on
Crustacea. 15: 3-11.
(23) Seeley, R. H. (1986) Intense natural selection caused a rapid morphological
transition in a living marine snail. Proceedings of the Natural Academy
of Science of USA, 83: 6897-6901.
(24) 田村俊一. (1999) 逗子市田越川で採集されたチチュウカイミドリガニ. 神奈川自然誌資料. 20: 81-84.
(25) Trussell, G. C. (2000) Phenotypic clines, plasticity, and morphological
trade-off in an intertidal snail. Evolution, 54: 151-166.
(26) Vermeij, G. J. (1982) Phenotypic evolution in a poorly dispersing
snail after arrival of a predator. Nature, 299: 349-350.
(27) Yamada, S. B. and Hauch L. (2001) Field Identification of the European Green Crab Species: Carcinus maenas and Carcinus aestuarii. Journal of Shellfish Reseach, 20(3): 905-912.
(28) Yamada, S. G. 2001. Global Invader: The European Green Crab. Oregon
Sea Grant, 123pp.
(29) Washington Department of Fish and Wildlife HP. Aquatic Nuisance Species:
European Green Crab (Carcinus maenas). http://wdfw.wa.gov/fish/ans/greencrab.htm
(30) Washington Sea Grant Program HP. Non-Indigeneous Species Facts: Green Crab. http://www.wsg.washington.edu/outreach/mas/aquaculture/crab.html
(31) 渡邊精一. (1995) 外来種のチチュウカイミドリガニが東京湾に大発生. Cancer.
4: 9-10.
(32) 渡邊精一. (1997) チチュウカイミドリガニの日本への侵入と繁殖. Cancer.
6: 37-40.
カラムシロ(Nassarius sinarus)に関する情報
●原産地と分布:
中国原産。
●定着実績:
2001年に初めて有明海で漁業被害をもたらした事が報告されていることから、2000年頃に侵入したと考えられている。現在は有明海、瀬戸内海で生息が確認されている。
●評価の理由:
在来種との競合や水産業への被害が指摘されているが、被害の程度等に関する知見が不足している。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
絶滅のおそれがあるウネハナムシロ、ヒロオビヨフバイと同所的に生息するため、競合によりこれらの個体群に悪影響を及ぼす可能性がある。
農林水産業に係る被害
大量発生し、かご漁などでかかった魚を食い荒らす被害が発生している。特にハゼ漁への被害が最も大きいとされている。
現在はまだ分布域は限られているが、今後有明海を含めた広い範囲に分布を広める可能性があり、それに伴い漁業被害がさらに拡大する危険性がある。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
カラムシロは砂質干潟、泥質干潟の両方に見られることから、底質環境に関わらずさまざまな環境に適応できると考えられる。
原産地では体内に毒性物質をため込んでいる可能性が示唆されていることから、水質汚染で悪化した環境に生息していると予測され、水質汚濁への耐性が高いと考えられる。
社会的要因
大規模干拓などの物理的改変や科学物質などによる水質汚濁により減少した、食用在来種であるアゲマキの中国大陸からの移植の際に混入したと考えられている。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
殻長約2cmの腐肉食性の巻貝。多数の個体が魚などに群がり食い尽くす。
●その他の関連情報
インポセックスの症状である、雌個体に雄の陰茎が生じる現象が確認されている。
原産地の中国東シナ海側では食用にされているが、これを食べて精神障害、呼吸麻痺をおこし死亡した例がある。本種は腐肉食者であることから、摂食活動を通して毒性物質をため込んでいたのではないかといわれている。
●注意事項
有明海は広大な干潟を有し固有種が多数生息する、日本を代表する貴重な海域であり、貴重な在来生物群集に被害を与える可能性がある。現時点では輸入水産物の取り扱いに際しては、混入に注意する必要がある。
●主な参考文献
(1) 福田 宏 (2004) 外来種と同定の問題. 日本ベントス学会誌, 59: 68-73.
(2) 岩崎敬二他 (2004) 日本における介意賛成物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査結果から. 日本ベントス学会誌. 59: 22-44.
(3) Tamaki, A., Mahori, N., Ishibashi, T., Fukuda, H. (2002) Invasion of
two marine alian gastropods Stenothyra sp. And Nassarius (Zeuxis) sinarus
(Caenogastropoda) into the Ariake Inland Sea, Kyushu, Japan. The Yuriyaga:
J. Malacozool. Ass.Yamaguchi, 8(2): 63-81.
コウロエンカワヒバリガイ(Xenostrobus securis)に関する情報
●原産地と分布:
オーストラリア、ニュージーランド原産。
●定着実績:
1970年代に静岡県、大阪湾、瀬戸内海で確認され、1980年代には東京湾から高知県までの太平洋岸および山口県の日本海側で確認された。1990年代には西日本の日本海側の各地で確認され、2000年以降は新潟県、茨城県以北を除いた、九州、瀬戸内海、東海地方、関東地方の各地に分布域が拡大している。
●評価の理由:
自然度の高い地域での生態系に影響をもたらす可能性があるが、被害に関する知見が不足している。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
海岸動物群集の優占種となっている場所も多く存在する。
他の固着生物と固着空間をめぐり競合する恐れがある。
国内で個体数が激減しているウネナシトマヤガイと同所的に見られることがあり、競合する可能性があるといわれている。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
水質汚濁に耐性があり、塩分の変化に対する耐性も高い。
浮遊幼生期を持つことから、海域を通じて広範囲に拡散できる。
付着基盤を高密度に被覆する。
成長速度が速く、最短1年で成熟する。
洞海湾においては年2回の新規加入があることが示唆されており、汚濁海域における個体群維持に有利であるとされている。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
殻長約2〜3cmの固着性二枚貝。足糸という繊維状物質を分泌して付着基盤に固着する。
寿命は1〜2年。
形態はカワヒバリガイに似ており、当初、亜種として記載されたが、その後別属別種であることが判明した。
殻の色彩は、コウロエンカワヒバリガイは赤みがかった黒褐色で、カワヒバリガイは黄緑色がかった黒褐色。
Xenostrobus(クログチガイ)属は7種が知られており、日本在来種にクログチガイX. atratusがある。
●その他の関連情報
原産地から直接、バラスト水を介して侵入したと考えられており、その後の国内での分布拡大は、幼生の自然分散や船体付着によるものだと推測されている。
マガキやアメリカフジツボとともに水路へ固着し、汚損被害を与えている。
1990年代にヨーロッパに侵入したが、日本が供給源となっている可能性がある。
ムラサキイガイよりもやや高潮位に付着する場合が多いが、これは付着場所をめぐる競争の結果であろうといわれている。
●注意事項
国内各地の都市部の内湾域に定着しており、今後も分布を拡大させる可能性がある。自然度の高い海岸への定着を防ぐためにも海岸域におけるモニタリング体制を強化する必要がある。さらに、日本がバラスト水を介しての諸外国への供給源となっている可能性があることを認識し、必要な配慮を検討する必要がある。
●主な参考文献
(1) CIESM. The Mediterranean Science Commission HP. CIESM Atlas of Exotic
Species in the Mediterranean Sea. Xenostrobus securis (Lamarck, 1819).
http://www.ciesm.org/atlas/Xenostrobussecuris.html
(2) 福田 宏, 福田敏一. (1995) 阿知須干拓にコウロエンカワヒバリガイ出現. 山口県の自然. 55: 16-20.
(3) 古瀬浩史、風呂田利夫. (1985) 東京湾奥部における潮間帯付着生物の分布生態.
付着生物研究, 5: 1-6.
(4) 岩崎敬二他. (2004) 日本における海産生物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査結果から.
日本ベントス学会誌. 59: 22-44.
(5) 木村妙子 (1994) カワヒバリガイとコウロエンカワヒバリガイの形態的な識別点. ちりぼたん. 25(2): 36-40.
(6) Kimura, T., Tabe, M. and Shikano, Y. (1999) Limnoperna fortunei kikuchii
Habe, 1981 (Bivalvia: Mytilidae) is a synonym of Xenostrobus securis (Lamarck,
1819): Introduction into Japan from Australia and/or New Zealand. Venus
(Jap.Jour. Malac.) 貝雑. 58(3): 101-117.
(7) 木村妙子. (2001) コウロエンカワヒバリガイはどこから来たのか?−その正体と移入経路−.
黒装束の侵入者−外来付着性二枚貝の最新学. 日本付着学会編. 恒星社厚生閣.
p.47-69.
(8) 木村妙子. (2002) コウロエンカワヒバリガイ. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック. 地人書館, p.188
(9) 小濱 剛, 門谷 茂, 梶原葉子, 山田真知子. (2001) ムラサキイガイおよびコウロエンカワヒバリガイの個体群動態と過栄養海域における環境との関係.
日本水産学会誌. 67(4): 664-671.
(10) 植田育男, 萩原清司, 崎山直夫. (1999) 相模湾江ノ島で観察されたコウロエンカワヒバリガイ.
神奈川県自然誌資料. 20: 77-80.
イガイダマシ(Mytilopsis sallei)に関する情報
●原産地と分布:
メキシコ湾、カリブ海原産。
●定着実績:
1974年に静岡県清水港で確認され、1980年代には東京湾、北九州市の洞海湾に散在して生息が確認された。1990年代には大阪湾や瀬戸内海にそそぐ河川でも確認され、大阪湾岸一帯に分布を広めたうえ、日本海側の富山県にも確認された。2000年以降には新たに名古屋港と和歌山市で確認され、国内に定着していると判断された。
●評価の理由:
熱帯種であるため低水温に弱く、寒冷年には壊滅状態になるため、わが国での被害に関する知見は不足している。しかし、近年になって国内での分布を拡大しており、また温暖化により生存可能になる場合が増えることも予想されることから、注意して監視していく必要がある。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
インドでは1平方メートルあたり年間100kgを越える生物体量に達し、固着性生物群集の均質化をもたらした。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
塩分耐性が高く、沿岸海域の広範囲にわたり生息が可能であるうえ、貧酸素に対する耐性が高く、汚濁海域においても生息が可能である。
成長速度が速く、早期に成熟し繁殖可能となり、繁殖能力が高い。
着底基盤を被覆するため、在来の付着生物との競合が懸念される。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
殻長約2cmの固着性二枚貝。足糸により着底基盤に固着する。熱帯から亜熱帯の浅海域に生息する。
形態はイガイ科の貝類に似るがカワホトトギス科に属し、殻は薄く、殻表は殻皮で覆われ褐色を呈し、線状の成長線が多数刻まれる。
これまで日本でイガイダマシとして報告されていた種のなかに、近縁種のアメリカイガイダマシが混入していた可能性がある。
●その他の関連情報
輸入木材への付着とバラスト水により、非意図的に侵入したと考えられている。
諸外国では船舶や取水施設において甚大な汚損被害を与えた。
オーストラリアではイガイダマシが侵入したマリーナを閉鎖し、塩素および硫酸銅の散布により駆除に成功している。
日本では他の外来固着性二枚貝が優勢である場所では、本種の個体数は少なく、クロダイなどが好んで捕食することから、河口域や汽水域で優占する可能性は低いと考えられている。
日本に移入したイガイダマシは場所による形態変異が大きい。
●注意事項
オーストラリアでの取り組みは、外来生物の撲滅に成功した数少ない例として、参考にすべき点が多いと思われる。侵入状況の監視が必要であるが、種の同定が難しいため、他種と識別できる人材の育成が必要と考えられる。
●主な参考文献
(1) 古瀬浩史, 長谷川和範 (1984) イガイダマシ東京湾に産す. ちりぼたん 15(1):
18.
(2) 木村妙子, 堀井直二郎. (2004) 伊勢湾に移入したイガイダマシ. ちりぼたん. 35(2): 37-43.
(3) 増田 修, 湯浅義明 (1993) 揖保川水系中川で採集されたイガイダマシ.
阪神貝類談話貝会誌 かいなかま 27(3): 14-16.
(4) 鍋島靖信 (1995) 大阪府沿岸に分布を広めるイガイダマシ. Nature Study
41(10): 3-6.
(5) 波部忠重 (1980) 新移入二枚貝イガイダマシ(新称). ちりぼたん 11(3): 41-42.
(6) National Introduced Marine Pest Information System HP. Black striped
mussel Mytilopsis sallei (Recluz, 1849). http://www.marine.csiro.au/crimp/nimpis/spImpact.asp?txa=8064
(7) Willan, R. C., et al. (2000) Outbreak of Mytilopsis sellai (Recluz,
1849) (Bivalvia: Dreissenidae) in Australia. Molluscan Reseach 20(2): 25-30.
(8) 山西良平, 有城寿信, 金子寿衛男 (1985) 洞海湾から見つかったイガイダマシ. 南紀生物 27(1): 64.
(9) 山西良平, 内川隆一, 大谷道夫, 横山 寿 (1992) 道頓堀川で見つかったイガイダマシ.
Nature Stady, 38(7): 8-10..
タイワンシジミ種群(Corbicula fluminea)に関する情報
●原産地と分布:
中国、台湾原産。
●定着実績:
国内では1985年頃に確認され、1987年頃には岡山県の水路で繁殖が確認された。1996年に兵庫県加古川水系、岡山県旭川水系などで確認された後、関東・九州・四国の各地で定着していることが確認されている。
●評価の理由:
特殊な繁殖特性により、在来種であるマシジミの繁殖・生存を抑制してマシジミ個大群に影響を与える可能性があるが、マシジミとタイワンシジミは形態的に酷似しており、識別が困難であるうえ、外来シジミ類の分類も確定していない等、科学的知見の充実が必要である。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
近縁な在来種であるマシジミの生息場でタイワンシジミが見つかると、3〜4年でマシジミが消失し、タイワンシジミに置き換わる現象が確認されている。
農林水産業に係る被害
一般に食用として流通しているヤマトシジミは汽水産であるため、淡水に生息するタイワンシジミが影響を及ぼすことは無いと考えられる。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
タイワンシジミは精子を大量に持ち水中に放精する。マシジミやタイワンシジミは精子側の遺伝子のみが遺伝するため、タイワンシジミの精子をマシジミが吸い込み受精すると、子供はすべてタイワンシジミになる。
分布拡大する能力が高く、アメリカでは数十年で全米に分布が拡大した。
稚貝は粘液状の糸を分泌し物に絡みつくため、物資に付着して移動することができる。
社会的要因
食用に中国から大量に輸入されているシジミ類に混在していたタイワンシジミが、何らかの形で河川に投棄され、繁殖していると考えられている。
調理前に砂出ししたり洗ったりする際に、エラ内の稚貝を容易に吐き出してしまうため、下水処理施設へと流れ出ない場合は、溝や川へと流れ着底する。
ホタルを復活させる目的で幼虫やカワニナを放流する際に、カワニナとともにタイワンシジミを外来生物と知らずに採集・放流した例がある。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
在来種であるマシジミ、大陸産チョウセンマシジミに形態的に極めて類似している。
殻表面が黄から黄褐色のカネツケシジミと呼ばれる色彩型があるほか、殻形や成長脈などの彫刻にもかなりの変異がある。
雌雄同体で、水中に放出された精子を取り込んで体内で受精させ、エラ内で保育を行う。
●その他の関連情報
国外では、取水施設で大量発生して通水被害を与えたり、大量斃死後悪臭を放つなどの被害がある。
外来生物であるカワヒバリガイがタイワンシジミに混入しているのが確認されている。
大量の輸入シジミが全国的に流通しており、複数種存在することがわかっているが、その実態は明らかにされていない。
サギ類などの水鳥が分布拡大に貢献している可能性が示唆されている。
●注意事項
輸入シジミには、カワヒバリガイ等の生態系に被害を及ぼす他の淡水産外来生物が混入して外来生物の移入経路になっていることから、輸入シジミ類の取り扱いについては、混入を回避するよう利用関係者による十分な注意が必要である。また、ホタル保全のためのカワニナ放流に伴い、タイワンシジミが拡散した例もあることから、タイワンシジミの侵入している可能性のある水域におけるこれらの行為は慎重な対応が必要である。
●主な参考文献
(1) 古丸 明 (2002) タイワンシジ. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック. 地人書館,
p.174.
(2) 増田 修, 波部忠重 (1988) 岡山県倉敷市に住み着いたカネツケシジミ. ちりぼたん, 19: (2) 39-40.
(3) 増田 修, 河野圭典, 片山 久 (1998) 西日本におけるタイワンシジミ種群とシジミ属の不明種2種の産出状況.
兵庫陸水生物, 49: 22-35.
(4) 増田 修 (2003) 外来シジミ−タイワンシジミの侵略−. 姫路市立水族館だより,
山の上の魚たち, No.43: 4-5.
(5) 西村 正, 波部忠重 輸入シジミに混じっていた中国産淡水二枚貝. ちりぼたん
(6) Non-Native Aquatic Species in the Gulf of Mexico and South Atlantic
Regions HP. Corbicula fluminea (Muller, 1774) http://nis.gsmfc.org/nis_factsheet.php?toc_id=128
(7) 園原哲司, 藤原靖夫, 針谷 応, 吉田直史. (2005) 相模川水系、金目川水系におけるタイワンシジミの出現状況. ちりぼたん.
36(1): 18-25 .
(8) 園原哲司. (2005) シジミの稚貝は空を飛ぶか?サギ等の水鳥による分布拡大の可能性. ちりぼたん. 36(1): 31-32.
シナハマグリ(Meretrix petechialis)に関する情報
●原産地と分布:
北朝鮮、韓国、中国からベトナム北部原産。
●定着実績:
1969年に三重県で、1975年頃には香川県で蓄養され始めたと言われており、東京湾では1997〜2001年にかけて北朝鮮産および中国産の種苗が放流されている。1990年代以降各地で確認されているが、定着を示す情報は得られていない。
●評価の理由:
日本への定着の状況、交雑の実態に関する知見が不足しており、今後の知見の充実が必要である。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
在来ハマグリとの交雑が懸念されている。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
浮遊幼生期を持つことから、蓄養場から野外に流出した幼生が定着する可能性がある。
社会的要因
国内の内湾干潟における水質悪化が在来ハマグリの激減を招き、需要を満たせなくなった結果、1960年代から国内の食用ハマグリ類の需要を満たすためにシナハマグリが輸入されるようになった。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
最大殻長約15cmに達する、食用二枚貝。
形態は在来ハマグリに似るが、殻が厚く、膨らみが弱く、前後に短い。
チョウセンハマグリは外洋に面した砂浜に生息し、在来ハマグリとは分布が異なるため、交雑などの影響は無いと考えられる。
●その他の関連情報
野外でシナハマグリと在来ハマグリとの中間的な形質を持つ個体が採集されることがあるが、交雑により生じた個体であるかは不明である。
原産地の韓国においては、干潟の干拓による影響で減少傾向にある。
●注意事項
在来ハマグリとシナハマグリの分布の現状、遺伝的手法によるシナハマグリと在来ハマグリの交雑の可能性の解明を進めるとともに、シナハマグリの稚貝放流のあり方について考慮する必要がある。
●主な参考文献
(1) 岩崎敬二他. (2004). 日本における海産生物の人為駅移入と分散:日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査の結果から.
日本ベントス学会誌, 59: 22-44.
(2) 小菅丈治 (2002) シナハマグリ. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック. 地人書館, p.190.
(3) 山下博由, 佐藤慎一, 逸見泰久 (2005) 日本周辺のハマグリ属(Meretrix)
の分布の現状と保全. 日本生物地理学会第60回年次大会要旨.
カニヤドリカンザシ(Ficopomatus enigmaticus)に関する情報
●原産地と分布:
原産地はヨーロッパ大西洋岸またはインド洋・オーストラリア周辺と推測されているが、確定されていない。現在、世界中の温帯から亜熱帯域の河口周辺で確認されている。
●定着実績:
国内では1966年に岡山県で確認され、1969年には浜名湖で大発生し、その後河口を中心とした汽水域の各地で確認されている。
●評価の理由:
一部の地域で養殖カキへの被害等をもたらしており、わが国の生態系にも影響を与える可能性があるが、今後被害に関する生態学的知見や分布状況に関する知見の充実が必要である。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
石灰質の棲管により礁構造を形成することから、他の生物に新たな生息空間を提供し、生態系の構造を変化させる恐れがある。
在来の生物と生息空間をめぐり競合し、生息域を圧迫する恐れがある。
濾過摂食者と餌をめぐり競合する可能性がある。
農林水産業に係る被害
静岡県の浜名湖では、異常繁殖して養殖カキに被害を与えた。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
群体を作ることが多く、カキ殻や人工物を固着基盤として塊状または球状になり、さらに発達すると礁構造を作るまでになる。
1〜55%0の塩分で生存が可能であり、広い塩分耐性を持つことから、広範囲に生息が可能である。
浮遊幼生期を持つことから、水域を通じて広範囲に拡散することができる。
海水濾過能力が高い。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
体長3〜10mm、体幅1mmのカンザシゴカイ科の一種。石灰質の棲管で付着基盤に固着する。棲管は白色または茶褐色。管にリング状のひさしを持つことで他種と区別できる。
寿命は4〜8年。
棲管内にオウギガニ科の一種が好んで共生する。
ヤドカリカンザシとの異名がある。
●その他の関連情報
オーストラリア周辺から船体付着またはバラスト水により、非意図的に移入したと推測されている。
ヨーロッパでは大発生し、取水施設等に甚大な被害を与えている。
成熟個体は干出や物理的刺激により容易に抱卵・放精することから、除去する際には繁殖期後あるいは、成熟個体の少ない時期に行う必要がある。
熱帯域においては、他のFicopomatus属3種と置き換わっている。
●注意事項
今のところ、主に太平洋岸の汽水域で確認されているが、調査によりさらに新たな分布域が確認される可能性が高い。大発生すれば、生態系、水産業、取水施設等に対して大きな被害を与える可能性もあるが、種の同定が難しいため、他種と識別できる人材の育成が必要と考えられる。
●主な参考文献
(1) 岩崎敬二他. (2004) 日本における海産生物物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査結果から.
日本ベントス学会誌. 59: 22-44.
(2) Mak, P. M. S. and Huang, Z. G. (1980) the salinity tolerance of the serpulid Polychaete, Hydroides elegans (Haswell, 1883), and its possible applications in bio-antifouling. Proceeding of the First International Marine Biological Workshop: The Marine Flora and Fauna of Hong Kong and Southern China, Hong Kong, 1980. Morton, B. S. and Tseng, C. K. (ed.). Hong Kong University Press. p.817-823.
(3) 西 栄二郎. (2002) カニヤドリカンザシ. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック.
地人書館, p.181.
(4) 西 栄二郎. (2003) 関東近海におけるカニヤドリカンザシゴカイ(環形動物門、多毛綱、カンザシゴカイ科)の分布.
神奈川県自然史資料. 24: 43-48.
(5) 西 栄二郎、加藤哲哉. (2004) 環形動物多毛類の移入と移出の現状. 日本ベントス学会誌, 59: 83-95.
(6) Schwindt, E. and Iribarna, O. O. Settlement sites, survival and effects
on benthos of an introduced reef-builder polychaete in a SW Atlantic coastal
lagoon. Bulletin of Marine Science, 67: 73-82.
(7) Ten Hove, H. A. (1979) Tube worm. McGraw Hill Yearbook Science and
Technology. p.400-402.
ムネミオプシス・レイディ(Mnemiopsis leidyi)に関する情報
●原産地と分布:
北大西洋、南米原産。
●定着実績:
なし。
●評価の理由:
開放的な水域では定着するおそれは少ないと考えられるが、温暖の内湾域では定着の可能性がある。わが国に進入・定着して被害をもたらすおそれについては、知見が不足している。
●被害の実態・被害のおそれ
生態系に係る被害
黒海では大量発生し、プランクトン、魚類の卵・幼生などを捕食し減少させるとともに、プランクトン食の魚類と競合し個体数を減少させ、生態系の構造を変貌させる被害を与えた。
農林水産業に係る被害
黒海の生態系を変貌させたことで、魚類等の水産物にも影響をあたえた。
●被害をもたらす要因
生物学的要因
肉食で食物に対する選好性が幅広く、様々な生物を捕食する。
同時的雌雄同体で自家受精を行うため、繁殖能力が高い。
広い範囲の温度、塩分に耐性があるが、地域により生態特性は異なる。
●特徴ならびに近縁種、類似種について
亜熱帯産のツノクラゲの一種。
生殖腺の成熟と放卵放精は、餌生物が集中して存在する、水温19〜23度の状況で起こる。
●その他の関連情報
黒海には、バラスト水によって非意図的に侵入した。
黒海では、周年生息と繁殖が可能だが、地中海など他の地域では、温暖な時期にのみ発生している。
●注意事項
バラスト水に混入する可能性はあり、日本沿岸域に持ち込まれるおそれがある。バラスト水の適切な管理による侵入の防止が期待される。
●主な参考文献
(1) GESAMP (IMO/FAO/UNESCO-IOC/WMO/WHO/IAEA/UN/UNEP Joint Group of Experts
on the Scientific Aspects of Marine Environmental Protection). (1997) Opportunistic
settlers and the problem of the ctenophore Mnemiopsis leidyi invasion in
the Black Sea. Rep. Stud. GESAMP, (58): 84pp.
(2) Shiganova, T. A. (1998) Invation of the Black Sea by the ctenophore Mnemiopsis leidyi and recent changes in pelagic community structure. Fish. Oceanogr, 7: 3/4, 305-310.
|