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コオロギを食べて起こるアレルギーは、エビやダニアレルギーと関係する?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
イラストAC

2050年までに、世界では90億人まで人口が増える可能性があるとされています。

そのような中で、昆虫がタンパク源として有望なのではないかと解決策として考えられており[1]、北米などでも広がっているそうです[2][3]。

昆虫を食べる…というとびっくりしますが、昆虫食は、1877年に出版されたHalf Hours with Insectsのなかで、インドにおけるアリ、中国におけるハチのサナギ、アフリカにおけるバッタ、西インド諸島のヤシゾウムシを食べる文化について紹介されています[4]。

そもそも、昆虫を食べる文化がある、ということですね。

そして昆虫は、ウシやブタなどを育てるよりも、環境への影響が少ないという利点もあるとされていて、特に食用コオロギは世界の食用昆虫の3割以上を占めています[5]。

世界最大の食用コオロギの生産国であるタイでは、2013年に年間7000トンのコオロギが生産されたとされています[6]。

もちろん、課題も残されています。

私はアレルギー専門医ですので、ここでは『昆虫を食べることによる食物アレルギー』が報告されており、それはエビアレルギーの人に多いこと、そしてその理由に関して解説してみたいと思います。

コオロギアレルギーは、エビアレルギーやダニアレルギーのある人に多い?

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コオロギは、エビやダニとアレルギー的に重なることが知られています[7][8]。

これは、アレルギーを起こすタンパク質が同じような性質を持っているためで、このように性質が重なっていて症状を起こすことを『交差反応する』といいます

鶏の卵にアレルギーになった人がうずらの卵にアレルギーになる…といわれると、そうだろうと思いますよね[9]。それだけではなく、シラカバ花粉症の人がリンゴアレルギーになったり[10]、はたまた、クラゲに刺されると納豆アレルギーになったりするリスクが上がるのも、その交差反応性によるものです[11]。

イラストACの素材を利用して筆者作成
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意外なところでアレルギーが重なってくることがあるのですね。

交差反応を起こすタンパク質『トロポミオシン』。

コオロギアレルギーになる場合の原因になるアレルゲンはトロポミオシンという筋肉に含まれるタンパク質と考えられています[11]。

同じトロポミオシンでも生物により構造に差があります。

コオロギのトロポミオシンとエビのトロポミオシンは良く似た構造を持つので、エビアレルギーのあるひとは、コオロギアレルギーを起こしやすくなるといえます[12]。

さらに言えば、エビとダニは、一部の人で交差反応することもわかっていて、コオロギアレルギーとダニアレルギーも関係することがあるようです[13]。

イラストACの素材を利用して筆者作成
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コオロギアレルギーが、加工(加熱など)で、アレルギーを起こしにくくなるかどうかは、現状では十分わかっていません。

昆虫食を受け入れている地域や文化もあり、今後、研究が進められるテーマかも知れません。

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ざっくりまとめると、食べられる昆虫は、地域や文化により受け入れられている地域もあり、現在、人口増加への対策を背景に広がろうとしています。

しかし、そのうち多くを占めるコオロギアレルギーに関しても情報は不十分です。

一方で、ダニに対するアレルギーの治療をすると、エビアレルギーが軽くなった…といった報告もあります[14]。交差している片方を治療することで、もう一方のアレルギーを改善させる可能性もあるということです。

コオロギを食べていると…エビアレルギーも…そううまくいくかどうかわかりませんが…まだまだ研究が必要ということですね。

参考文献

[1]Int J Mol Sci 2022, 23(3), 1801

[2]Cricket kick: Newest health food craze is bugs

(2023年2月25日アクセス)

[3]Can You Eat Crickets? All You Need to Know

(2023年2月25日アクセス)

[4]Packard AS. Half hours with insects: Estes and Lauriat; 1877.

[5]TOP 5 EDIBLE INSECTS MARKET

(2023年2月25日アクセス)

[6]INSECT FARMING IN THAILAND

(2023年2月25日アクセス)

[7]Curr Allergy Asthma Rep 2021; 21:35.

[8]Mol Immunol 2019; 106:127-34.

[9]Allergologia et immunopathologia 2020; 48:265-9.

[10]Allergology International 2018; 67:341-6.

[11]Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 2020; 8:2396-8.e1.

[12] Allergy Asthma Clin Immunol 2017; 13:5.

[13]Annals of Allergy, Asthma & Immunology 2022; 129:S92.

[14]Eur Ann Allergy Clin Immunol 2011; 43:162-4.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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