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センバツ抽選会、究極の抽選方法

森本栄浩毎日放送アナウンサー
センバツは最初の抽選で決勝までの対戦が決まる

センバツの抽選はわかりにくいと言われる。テレビ中継こそないが、毎日新聞のサイトでは会場の模様を同時進行で見ることができる。わかりにくいのはその方法があまりに複雑すぎるからであって、甲子園ならではのカードばかりになるはずだから、抽選結果には胸を張れる。センバツは夏の選手権の後発ということで、抽選会ひとつをとっても、工夫が凝らされている。

センバツ抽選会の変遷

抽選会は以前、毎日ホールという大きな会場で全選手を集めて開会式の2日前に行われていた。その後同ホールがなくなって、兵庫の西宮市鳴尾浜にある県立体育館で行われていたこともあったが、19年前の震災を機に、主将だけが参加する現在の形になった。それでも当初は、東西対抗に近いアバウトな抽選方法を採っていた。32校出場なら、東西を基本に16校ずつに分けて抽選する。西日本が多い場合は、九州と四国を東ブロックに入れ、北信越と北海道を西に入れるといった按配で数合わせの調整をしていた。したがって2回戦からは隣県の強豪同士や秋の同地区対決の再現などもあった。主催者は、「よりセンバツらしく、甲子園でしか実現しないカード」を提供すべく、思案に思案を重ねた賜物が現在の抽選方法である。

できるだけ分散させる

現在の抽選方法をご紹介する。ここでトーナメントの櫓(やぐら)を表記することができないため、順に1~32までの番号をつけてご自身で櫓=トーナメント表のイメージを写真のように思い浮かべていただきたい。

上から2分割、4分割、8分割に分散させてできるだけ同地区同士が当たらないよう配慮
上から2分割、4分割、8分割に分散させてできるだけ同地区同士が当たらないよう配慮

・これを上から順に、1~16までをX。17~32をYとする。=2分割

・さらにその下、1~8までがまずA。9~16までがB。17~24までがC。そして25~32までをDとする。=4分割

・最後にAのうち1~4が「イ」、5~8が「ロ」。Bのうち9~12が「ハ」、13~16が「ニ」。Cのうち17~20が「ホ」、21~24が「へ」。Dのうち25~28が「ト」、29~32を「チ」とする。=8分割

抽選は出場校の多い地区から順に行う。今年の抽選方法は最終決定していないため昨年までの経験をもとに詳述するが、今回は7校出場の近畿か関東・東京のいずれかが最初の抽選になる。できるだけ同地区のチーム同士が上のステージまで当たらないようにするため、5校以上出場する地区は2分割(X、Y)したあと、8分割(イ、ロ、ハ、ニ、ホ、へ、ト、チ)の中から本抽選の番号札を引く。つまりこれら地区同士は少なくとも準々決勝までは当たらない。4校、3校の地区は2分割(X、Y)したあと、4分割の札(A~D)を引いてから本抽選する。最終的には本抽選も含めて3回も札を引くことになる。また同一県2校出場のチーム同士は決勝まで当たらないようにするために必ずXとYに分ける。これはずっと以前から行われていた。ちなみに試合順は本抽選番号の「1」対「2」が開幕試合になるので、Xに入った方が日程的には有利である。抽象的な説明ではわかりにくいので、具体的に説明する。

近畿勢でシミュレーション

抽選前日、集合場所の日本高野連への到着順に予備抽選を行う。これには1~32までの番号がふってあって、このあとの全ての抽選はこの番号の若い順に引いていく。実はこの予備抽選番号はとても重要である。最後に引く地区は、「ここしか残っていない」という憂き目に遭うからだ。近畿を例にとってシミュレーションしてみよう。全て架空の話である。予備抽選の番号は、龍谷大平安(京都)=14、福知山成美=3、履正社(大阪)=30、報徳学園(兵庫)=13、智弁学園(奈良)=11、智弁和歌山=29、海南(和歌山)=9であった。このうち、2校出場の京都と和歌山をXとYに分ける作業が最初になる。便宜上、近畿はXに4校、Yに3校とする。まず京都を分ける。予備抽選番号の若い成美が最初にYの札を引いた。平安はXになる(一応引いてもらう)。和歌山は海南が先でXを引く。智弁和歌山はYになる。残る3校も予備番号順に智弁学園、報徳、履正社が引く。智弁学園がY、報徳と履正社がXを引いた。このとき主将たちにはまたも予備番号の若い順に並んでいてもらう。Xには、海南、報徳、平安、履正社の順。Yは、成美、智弁学園、智弁和歌山の順で並んでいる。Xの海南が、8分割のイ、ロ、ハ、ニを引いたあと、本抽選する。ロを引いて本抽選した。6を引いた。初日の第3試合だ。続いて報徳がイを引き、本抽選で2になった。開幕試合である。平安はニを引き、15を引いた。履正社は必然的にハになるが本抽選の札は4枚残っている。9を引いた。Yは3校である。まず成美がチを引き本抽選した。31を引く。全チームで最後の登場になる。続いて智弁学園がホを引き、20に入った。最後に智弁和歌山がヘを引いて23になった。これで両智弁が2つ勝てば準々決勝での対戦が実現する。関東も同様に行うが、ここは近畿との数合わせがあるからXが3校でYが4校になる。関東のXの最初のチームが引いた時点で、対戦相手の決まる可能性がある。6校出場の九州も8分割してから本抽選する。

抽選の欠点と緊張感

こうして、出場校の多い順に引いていくわけだが、出場校の少ない地区ほど対戦相手に制約がないから、後回しにされる。この抽選方法の欠点であるが、抽選には「残り福」もあるから我慢していただきたい。今回の北海道は1校なので、3校出場の四国と抱き合わせにする。この両地区だけ、2分割のあと4分割(A、B、C、D)してから本抽選となる。九州、四国&北海道のあとはすべて2校の東北、北信越、東海、中国で、これら4地区の抽選順は現段階で不明。予備抽選の若い番号を持っている地区からにしてはどうかと提言させていただいた。予備抽選が大事だと言った理由はここにある。これら4地区はお互いが決勝まで当たらなければいいわけだから、2分割(X、Y)したあとすぐに本抽選する。最後に残った地区の高校は、XとYが運命の分かれ道になる。開幕試合や強豪が残っていたりすれば、それはそれで悲喜こもごもだ。

本抽選して番号発表に向かう主将の後方は筆者。失敗の許されない緊張感は半端ではない
本抽選して番号発表に向かう主将の後方は筆者。失敗の許されない緊張感は半端ではない

毎年、抽選会の司会をやらせていただいているが、こんなに緊張するものはない。前日の夜に何度もリハーサルをして、矛盾がないか確かめる。以前、高校サッカーの公開抽選会で、ほとんど決まっていた組み合わせをご破算にしてやり直したことがあった。真面目な高校生たちの夢を、つまらない不手際で壊すことはできない。ここまでの方法を練り上げ、毎回好カードを生み出す毎日新聞事業局のスタッフに敬意を表する。

選手宣誓は機会均等

そして抽選会の最後に全主将で選手宣誓を決める。以前は、本抽選の「1」番を引いた主将になったり、高野連会長による抽選で決めていた。現在は全員の抽選で行う。順に札の入った封筒を取っていくが、その中に一枚だけ「当たり」が入っている。以前、「透けて見えた」と言った主将がいたように記憶しているが、それは二つ折りにしている封筒を広げたときに見えたのであって、封筒をどこからどう透かしてみても見えるはずがない。抽選前日のキャプテントークでは、「選手宣誓したい人」と挙手を求めるが、全体的に以前より消極的になった印象がある。夏は立候補制で、やりたくない主将は抽選しなくていいが、春は機会均等である。震災翌年の宣誓は、石巻工(宮城)の阿部主将が引き、すばらしい宣誓に全国の皆さんが感動した。司会を担当しているから、「うまいこと引かせたなあ」と冷やかされた。これは間違いなく、毎日新聞スタッフのこれまでの努力と熱意が引かせたものだと思っている。

夏の選手権はもっと工夫を

夏の抽選はつまらなくなった。これは一人の高校野球ファンとして断言する。春の抽選と対極をなすからではない。07年に導入された「完全フリー」の方がいいという意見があることは承知している。しかし、1回戦から近畿同士、九州同士の対戦を甲子園で見たいと思うファンの方が多いだろうか。浦和学院(埼玉)は毎年のように関東勢。滋賀代表は初戦の半分が近畿勢というのは興ざめだし、方法論そのものもおかしい。完全フリーと言っておきながら、東京と北海道は初戦で当たらないようにした時点で、矛盾している。北海道同士は面白くないが、近畿勢同士なら面白いとでも言うのだろうか。近畿大会で見た試合を地元のファンが期待するだろうか。去年夏、3試合日に2試合連続九州勢同士ということがあった。この対戦をわざわざ甲子園でやらなくてもいいだろう。ほかの理由として、東西対抗とするときの線引きが難しいという話を聞いた。境界にある富山と石川が2回ほど初戦で当たったりしていた(99年の新湊-小松、01年の滑川-金沢)からだ。秋の地区割りで言えば、境界にあるのは北信越だけで、この地区代表同士を当たらないようにシャッフルすればいいだけの話であろう。昨年からは、次回対戦も試合後に抽選することにしたが、日程に不公平がないように配慮したことから、対戦相手が限定されている。初日の3勝者の相手は、勝者同士か、対戦が唯一決まっていないチーム(49番クジ)のいずれかになる。ほとんど再抽選していないようなものである。これも選択の範囲を広げた方がいい。日程に配慮するのは、準々決勝までに前日からの連戦になる可能性があるチームだけでいい。少しの工夫で、魅力あるカードはいくらでも創出できる。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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