魚のイラストをあしらった「ファストフィッシュ」ロゴマーク

最近、スーパーなどで「ファストフィッシュ」なるマークの付いた商品を見かけます。ハンバーガーなどの「ファストフード」から連想すると、手軽にすばやく食べられる魚。そんな意味合いの商品だとは思うのですが、一体いつから、どんな目的で誕生したのでしょうか。「ファストフィッシュ」の仕掛け人である水産庁に聞いてみました。

日本人の魚離れに歯止めをかけるプロジェクト

水産資源の適切な保存及び管理、水産物の安定供給の確保などを任務とする水産庁は、"stop魚離れ"のプロジェクトを推進しています。その名も「魚の国のしあわせ」プロジェクト。平成13年には40.2kgだった日本人一人当たり年間の水産物消費量は、平成22年には29.5kgにまで減少。急激に進む魚離れに歯止めを掛けようというのが狙いです。

なぜ、これほどまでに魚離れが進んでいるのか。別に日本人が魚を嫌いになったわけではないようです。骨があって食べるのが面倒、調理方法が分からない、焼くと煙が充満する、生ゴミが臭いなどなど、現代のライフスタイルに適合しにくい部分があることが魚離れの原因となっているようです。

そんな魚の欠点を取り除き、もう一度魚食に戻るきっかけをつくることを目的として、「ファストフィッシュ」の取り組みは進められています。この取り組みは、「魚の国のしあわせ」プロジェクトの一環として平成24年から開始したとのこと。

「水産庁の水産基本計画では、10年後の平成34年の水産物消費量を、平成22年の消費量と同じ水準に維持することが目指されているんです」(水産庁「魚の国のしあわせ」事務局担当者)

それでは一体、どんな商品が「ファストフィッシュ」と呼ばれるのでしょうか。条件は下記の通りです。

1)手軽:料理時間、買い物時間の短縮が想定されるもの
2)気軽:日常の食生活において、反復継続して購入することが可能な価格帯であるもの
3)そのほか:新規需要の開拓の可能性があるものなど

魚の新たな需要を掘り起こす

ということは、お刺身やお寿司は立派な「ファストフィッシュ」だと思うのですが…。これについて、水産庁に尋ねたところ、次のような回答を頂きました。

「お刺身やお寿司は、お手軽に素早くおいしく食べられる水産物商品ですから、従来から日本人の生活に定着しているファストフィッシュと言えるでしょう」(前出の担当者)

また、「ファストフィッシュ」商品には、新しい需要喚起のための創意工夫が求められており、選定商品には魚のイラストをあしらった「Fast Fish」ロゴマークの使用が認められています。

ちなみに、選定に当たるのは水産庁が設置した「わたしたちのファストフィッシュ委員会」。メンバーは、料理専門家や公募で選ばれた主婦、女子大生など。無報酬のボランティアなのだそうです。

伝統の魚食文化の破壊? それとも主婦の「助かります」商品?

さて、「ファストフィッシュ」の具体的な商品ですが、例えば大手スーパーのイトーヨーカドーを例にとれば、「銀鮭のバジルオイル焼用」や「むきえびのレモンペッパー焼用」などのレンジアップ商品がそれに当たります。電子レンジで簡単に調理できる水産物加工商品が、「ファストフィッシュ」の主流のようです。

そのほか、これまでに384社から選定された2,123の「ファストフィッシュ」商品の一覧を見ていくと、魚肉ソーセージ、いわしのせんべい、電子レンジ調理の煮魚、ひもを引っ張ると加熱されるマグロのカマなどが挙げられます。

「『現代用語の基礎知識』に収録されたり、『これは助かった!』と思うものに読者が投票する『助かりました大賞』(サンケイリビング新聞)に選ばれたり、『ファストフィッシュ』もだんだんと認知されてきていると思います」(前出の担当者)

ファストフィッシュの普及により、「伝統的な魚食文化が破壊されるのでは」といった懸念の声もあるようですが、魚を食べる方法や調理の選択肢が広がることは、特に忙しい主婦の方にとってはうれしいメリットなのではないでしょうか。

参考:水産庁「魚の国のしあわせ」プロジェクト

(OFFICE-SANGA 日下部商店)