サメの歯の武器から地域絶滅が明らかに

2013.04.08
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ギルバート諸島の住民が戦いに用いていた、サメの歯でできた武器。枠内は、取り付けられた歯のクローズアップ。

Images courtesy Drew J., Philipp C., and Westneat M.W.
 かつて中部太平洋で使われていたサメの歯を用いた武器の調査から、2種のサメが周辺海域から既に姿を消していることがわかった。 現在キリバス領であるギルバート諸島の先住民は、木製の剣や槍、短刀のほか、この一帯に生息していたサメの鋭利な歯を武器に利用していた。

 アメリカ、イリノイ州シカゴのフィールド自然史博物館が保管している120点の武器類では、17種以上のサメが使われている。

 だがこのうち2種は、ギルバード諸島沖では生息が確認されていないメジロザメ属のホウライザメ(学名:Carcharhinus sorrah)とドタブカ(学名:Carcharhinus obscurus)だった。

「当初の目的は、周辺のサメの目録作成だった。絶滅した種が見つかるとは思ってもいなかった」と、研究チームの一員で、ニューヨークにあるコロンビア大学とシカゴの自然史博物館に所属する生物学者ジョシュア・ドリュー(Joshua Drew)氏は驚く。

 他の海域では両種とも生息が確認されており、ギルバート諸島の海域だけ絶滅した可能性が高いという。

◆歯で武装

 調査の対象となった武器は19世紀中頃のもので、イギリスやアメリカの宣教師や捕鯨船が初めて同諸島に訪れた頃にあたる。

 武器の本体部分は木製で、サメの歯はココナツの線維と人毛から作られた糸で縁に沿って丹念に縫い付けられている。同諸島は金属を産出しないので、貝の殻で縫い穴を開けている。

 実際に目にした宣教師たちの記録によると、先住民たちはこの武器で激しい領土争いを繰り広げ、時には命を落とす者もいたという。「同諸島では土地が最も重要な問題だった」とドリュー氏は説明する。

 領土争いでは、2人の戦士が1対1で戦う場合が多かったようだ。「ココナツの縄できつく編んだ甲冑をまとい、イタチザメの歯の“メリケンサック”や、乾燥させたハリセンボン(フグの仲間)で作られたトゲ付きのかぶとを身に付けていた」とドリュー氏は話す。

 アカエイの皮に3種のサメの歯をちりばめた精巧な剣も戦士の武器の1つだった。一方、1対1の戦闘の背後では、従者同士の戦いが繰り広げられていたという。

 宣教師たちの記録によると、「従者はサメの歯でびっしり覆われた長槍を持ち、戦士2人が闘い始めると、敵に向けて槍を突き出し刺そうとした。戦士たちの頭上では約4.5メートルの槍の戦いが繰り広げられていた」と同氏は説明する。

 武器には欠かせないサメだが、記録によると、歯のためだけに殺すことはなかったという。「民俗学的文献によると、食料のほか、盾や日用品に加工するなど、すべてを余すことなく利用していた」と同氏は指摘する。

◆歴史を残す

 ドリュー氏ら研究チームは現在、新たなプロジェクトの資金を募っている。昔の生活様式や習慣が完全に失われる前に、今も暮す先住民から聞き取り調査を行い、文書や音声記録を残すという。

「ギルバート諸島は気候変動の影響に脅かされている。今後100年以内に居住できなくなる可能性もある。先住民がオーストラリアや他の地域に移住してしまったら、何世代にもわたるサンゴ礁や生物との関わりが失われてしまう」と、同氏は危惧する。

 また、研究チームは今回の研究が海洋保全のきっかけとなることを期待している。「地元住民が海洋生態系の保全を優先してくれれば、このサンゴ礁の海を次世代にも受け継ぐことができる」。

 今回の研究結果は、オンラインジャーナル「PLOS ONE」に4月3日付けで掲載されている。

Images courtesy Drew J., Philipp C., and Westneat M.W.

文=Ker Than

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