米国初の海底美術館がオープン、なぜ海底なのか?

単なる芸術鑑賞を超える、海底ならではの意味

2018.06.07
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メキシコにはすでにカンクン海底美術館がある。(PHOTOGRAPH BY LUIS JAVIER SANDOVAL, VWPICS/REDUX)
メキシコにはすでにカンクン海底美術館がある。(PHOTOGRAPH BY LUIS JAVIER SANDOVAL, VWPICS/REDUX)
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 海底の砂地は、アートとは無縁と思われるだろう。だからこそ、美術館を設置するのにふさわしい場所となった。

 米国フロリダ州、ウォルトン郡の海岸から約1.2キロの沖合に2018年6月末、米国初の海底美術館「UMA(Underwater Museum of Art)」がオープンする。(参考記事:「【動画】深海2300mにサンゴの群体、まさかの発見」

 海底に設置された美術館の例としては、メキシコ、カンクンの海底美術館とスペイン、カナリア諸島のランサローテ島にある「アトランティコ海底美術館」がある。UMAもこれらと同じく、ダイバーにうってつけの観光スポットになるだろう。水深約18メートルの海底に設置された7個の像を訪れれば、芸術作品を鑑賞しながら、環境を守ることの大切さを感じることができる。

 この美術館は一般に開放され、無料で楽しめる。今回の計画は、ウォルトン郡の芸術機関CAAと人工魚礁を設置する環境保全団体SWARAとが協力し、同郡の観光開発審議会と全米芸術基金(NEA)の支援を得て実現された。

アートであり、魚のすみかでもある

 今回の展示物には、海洋学者ジャック・クストー氏が発明した潜水器材「アクアラング」へのオマージュ作品、編みかごのようなパイナップル、巨大な頭蓋骨などがある。いずれもサンゴや魚などの海洋生物が集まりやすいように作られている。(参考記事:「クストー生誕100年、その功績と影響力」

 芸術機関と人工魚礁を作る環境保護団体とが、なぜ手を組むことになったのか、不思議に思われるかもしれない。だが、芸術はそもそも予測不可能で、直感に基づいているものだ。 今回の場合、CAAの役員で芸術家のアリソン・ウィッキー氏が2017年にカメの形をした人工魚礁の上でシュノーケリングをしたことがきっかけだった。その人工魚礁は、SWARAが設置したものだった。(SWARAは周辺の海底に合計で13の魚礁を設置している。いずれの魚礁も多くの構造物からなり、2015年以降だけで700個が設置されている)

「突然ひらめいたんです」と語るウィッキー氏は、魚礁の輸送手段についてSWARAと相談したのち、CAAにこのアイデアを提案した。「部屋にいた人たちの表情がパッと明るくなりました。この計画を聞いた人はみな、同じように顔を輝かせてくれます」

 UMAに展示される像は、重さ1500キロから2300キロのコンクリートの台に置かれる。プラスチックなどは含まない。作業に適した天気の日を選んで、はしけを使って展示物を最終目的地まで移動。それからクレーンで海中へとそっと吊り下ろし、6メートルの間隔をあけてメキシコ湾の海底に据える予定だ。展示物の移動が終了次第、このユニークな美術館はオープンする。(参考記事:「使い捨てプラスチックの削減を、米版編集長が声明」

「海に潜って展示物の周りに海洋生物が群がっている様子をご覧になれば、その素晴らしさを体感できます」と語るのは、SWARA理事長アンディ・マックアレクサンダー氏。今後も、毎年新しい展示物を追加する予定だ。「小さな魚が芸術作品に隠れたりする様子を見ることには、単に芸術作品を鑑賞すること以上の意味があるんです。生命の美を経験することで、私たちにはこうしたはかないものを保護する義務があるのだと気づかされるんです」

ギャラリー:世界のベスト・ダイビングスポット8選(写真クリックでギャラリーページへ)
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マレーシア、シパダン島(PHOTOGRAPH BY AQUASCOPIC/ALAMY)

文=ALEX CREVAR/訳=潮裕子

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