音楽ナタリー PowerPush - 高橋洋子

ボーカリストとして、母なる者として 今、伝えたいこと

難曲を1時間で歌いきる技術

──「真実の黙示録」では大森俊之さんとコンビを組まれていますが、その大森さんの曲を最初に聴いたときの感想はいかがでしたか?

今回は、あらかじめ大森さんが何曲か用意されていたんです。私は、どの曲にするかという方向性を決めることを一緒にやらせていただいたんですが、どれも面白かったんですね。今までにないパターンの曲だったり、想像を超えるようなテンポ感の曲だったり。でも、私たちのコンビでやらせていただく以上「この人だからこうくるだろう」という予想はいい意味で裏切りつつも「やっぱりこの人たちだったね」という期待には応えたい。その両方の側面を考えたとき、この曲を選ぶということでお互いの意見が一致しました。

──本当に歌うのが難しそうな曲だと思いますが。

本当に。これはイジメかな?と(笑)。まあ大森さんの曲はたいてい難しいんです。たまに歌いやすい曲がくると「本当にこの曲でいいのかな?」と思ってしまうくらい(笑)。でも、ただ難しいだけじゃないんですよね。大森さんのすごさは、どんな曲を書いても絶対に80点を超えてくるところなんです。実はこれってなかなかできないことなんですよ。どんな方にも当たり外れってあるものだったりするんですが、大森さんにはそれがないんです。今回も「きた!」という感じでした。

──イジメであり「きた!」曲だったということはレコーディングはずいぶん時間がかかったのではないですか?

それがかからないんですよ(笑)。メロディラインの歌入れだけなら1時間かかってないくらいです。

──この曲の歌入れに1時間かからないんですか!?

マネージャー いつも1時間以上かかったことはないと思います。だからはたから聴いていると「そんなに難しいんだ」っていう感じですね。本当に難しそうに歌わないので。

いや、難しいですよ!(笑)

──でも歌入れに時間はかかっていない。もともとスタジオミュージシャンとしてたくさんの曲をレコーディングしてきた高橋さんの職人ぶりを彷彿とさせます。

確かにその頃の経験が生きているんでしょうね。渡された譜面を見て、その場で歌って、ハイさようなら、というスタジオの仕事が長かったので(参照:高橋洋子「暫し空に祈りて」インタビュー)。

プレッシャーに打ち勝つ「高橋洋子らしさ」

──ただスタジオミュージシャン時代の楽曲と違って、この曲はご自身で作詞をなさっています。楽曲に臨むときの気合いの入り方は違ったのではないでしょうか。

それもその通りですね。特に今回はひさびさの地上波アニメの主題歌なので、皆さんにいい意味で「あっ、高橋洋子だ!」と言ってもらえるような曲にしなければ、という気持ちがありました。レコーディング自体は時間がかからなかったのですが、その高橋洋子らしさをどうやって表現するかということについてはかなり話し合いました。

──しかもこの曲のシンフォニックでありつつ、エスニックな要素もある点は、志方あきこさんの劇伴音楽と通じる部分を感じました。そのあたりも高橋洋子らしさや「クロスアンジュ」らしさを意識された結果なのでしょうか?

アニメの中に、北欧をイメージしている部分があるというお話を聞いていたんです。その北欧感を意識しつつ曲を作ったから、エスニックな部分があるように聞こえたのかもしれませんね。シンフォニックな部分でいうと、オープニングということもあるので、どれだけ観る人のイメージを喚起できるかということを意識しました。あと、前クールのオープニングでは、水樹奈々さんがものすごく躍動感のある曲(「禁断のレジスタンス」)を歌われていて。しかも水樹さんはアンジュを演じてもいらっしゃる。つまり主人公が自分の物語を歌っているわけですよね。「はい! じゃあその次どうしますか?」と話を振られた感じなんですよ。

──それはプレッシャーですよね。

だから高橋洋子らしさ、自分が持っているテクニックを生かす方向で行こう、と。

──アニメの制作陣にも水樹さんの主題歌を迎え撃てるのはキャリア豊富な高橋さんしかいない、という判断があったのでしょうね。

迎え撃つだなんて滅相もないんですけど……。ただおっしゃる通り誰もがプレッシャーを感じるだろう「2クール目の主題歌、誰にする?」っていう場面で選んでいただけたのは、すごく光栄なことだと感じています。

──あとアニメファン的には「クロスアンジュ」はキングレコード内の2つの部署の初の合作。高橋さんや林原めぐみさんや堀江由衣さんが所属するスターチャイルドレコードと、水樹さん、田村ゆかりさん、宮野真守さんの在籍する第三クリエイティブ本部が一緒に手がけていることで話題にもなっています。

私も「いいんだ!?」って思いました。社内の人に確かめちゃいましたから(笑)。

──そういう意味では、高橋さんがスターチャイルドの代表選手という捉え方もできるんですよね。

そうでした! それは気付きませんでした(笑)。

母の言葉を歌うための神なる世界

──ボーカルスタイルについても聞かせてください。歌い出しの部分はクワイアテイスト。クラシック音楽、コーラス隊からキャリアを始めたからこそのテクニックが生かされているんじゃないかと感じました。

実はこの冒頭の部分は、母の目線で歌っているんじゃないんですよ。

──あっ、そうなんですか。「祈りたまえ 闇を……」という部分ですよね。そう言われてみれば、母親の言うことではないような気がします。

もっと天の声ですね。その天の声のあとに、さっきお話させていただいた「どんなことがあっても生き続けなさい」という母の言葉が続くという展開なんです。

──では母親の気持ちをストレートに表現したとは言うものの、ここでいう“母”には北欧神話に登場する地母神のようなイメージも付与されているのではないでしょうか?

まさにそういう設定です。なんせ、この母は亡くなっていますから(笑)。亡くなっている人が歌うとなると、なんらかの超現実的な舞台を用意しないと歌うことはできないんですよ。そのなんらかの舞台というのが神々の世界観なんです。

高橋洋子(タカハシヨウコ)

8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストやボイストレーナーなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2015年1月21日にはニューシングル「真実の黙示録」をリリース。表題曲はテレビアニメ「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)」の後期オープニングテーマに採用されている。