[女性性器の構造]

 女性性器は外から見える外性器と見ることができない内性器とに分類されます。

■外性器
 外陰(がいいん)ともいい、恥丘(ちきゅう)、大陰唇(だいいんしん)、小陰唇(しょういんしん)、陰核(いんかく)、腟前庭(ちつぜんてい)、会陰(えいん)、外尿道口(がいにょうどうこう)などにより構成されます。外性器は小児期、性成熟期、老年期といった生涯の各時期により変化します。
 恥丘は恥骨の前方(腹部側)にあり、思春期以降に脂肪組織が厚くなり、皮膚の表面に陰毛が生じます。大陰唇は、腟のまわりを取り巻く左右対称の厚い皮膚のひだであり、男性の陰嚢(いんのう)に相当するものです。左右のひだは腟の上下(前後)で接し、おのおの前陰唇交連(ぜんいんしんこうれん)、後陰唇交連(ごいんしんこうれん)といいます。大陰唇の表皮は厚く、色素が豊富であり、さらに皮脂腺や汗腺も多数みられます。小陰唇は左右の大陰唇の内側にあり、大陰唇より薄く花弁様の構造をしています。この部分の皮膚はなめらかで色素沈着がありますが、陰毛はありません。小陰唇の内側は粘膜に移行します。
 左右の小陰唇に囲まれた舟型のくぼみを腟前庭といい、その中心は腟口です。左右の小陰唇が前方で融合する部分に陰核があり、これは男性の陰茎海綿体(いんけいかいめんたい)に相当するものです。神経や血管が豊富であり、性的刺激により拡張します。陰核の下方で腟口の上方には尿道が開口しています。尿道口の左右には、スキーン腺(尿道傍管)が存在しています。
 左右の腟前庭下側方にバルトリン腺が開口し、これは別名・大前庭腺ともいい、性的興奮時に粘液を分泌し腟をなめらかにする機能があります。バルトリン腺はしばしば感染を起こし、中にうみがたまり、表面よりかたまりとして触れるようになり、痛みを伴います。これはバルトリン腺炎といい、切開し排膿(はいのう)することが必要となります。
 腟口の一部またはかなりの部分をおおう膜状の構造を処女膜といい、その中央には腟が開口し、月経血はそこより流出します。お産を経験すると大部分は脱落し、処女膜痕(こん)としてわずかの部分が残ります。処女膜が完全に閉鎖していると、月経血が排出できず、初経に一致して下腹部に強い痛みを訴えます。
 後陰唇交連と肛門(こうもん)との間を会陰といい、この部分の皮膚は薄く陰毛を欠きます。分娩(ぶんべん)時、会陰はいちじるしく伸ばされ、しばしば裂けることがあり(会陰裂傷)、修復が困難な裂傷の発生を予防するため、そこにあらかじめ切開を入れることがあります(会陰切開)。


■内性器
 内性器は腟、子宮、卵管、卵巣からなります。
 腟は、外陰と子宮との間にある長さ7~8cmの管状の構造物で、その壁(腟壁)は腟粘膜でおおわれており、そのさらに外方は筋層からなっています。腟の前方には、膀胱(ぼうこう)や尿道があります。また、後方には直腸と肛門があります。卵巣がはたらいている女性は、腟内は乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)で占められており、そのため腟内は酸性に保たれ、病原菌が繁殖できないようになっています。腟は上方で子宮につながっており、腟の奥に一部飛び出している子宮の最下端の部分を子宮腟部といいます。その中心には小さい穴が開口しており、これを外子宮口といいます。月経血は、ここから腟に流れていきます。
 子宮は、前後に扁平(へんぺい)な西洋梨の形をした内腔(ないくう)を有する器官であり、子宮体部と子宮頸(けい)部からなり、その内腔をそれぞれ子宮内腔、子宮頸管(けいかん)といい、両者の境目は内子宮口と呼びます。それらの内側の壁は、それぞれ子宮内膜、頸管内膜からなります。それらの外方には、平滑(へいかつ)筋という厚い筋組織(子宮筋層)があります。なお、子宮内膜は、子宮内腔と子宮頸管の形態上の境目を越えて子宮頸管内に入り込んでいます。子宮内腔と子宮頸管の形態上の境目を解剖学的内子宮口(かいぼうがくてきないしきゅうこう)と呼び、子宮内膜と頸管内膜の境目を組織学的内子宮口(そしきがくてきないしきゅうこう)と呼びます。この2つの内子宮口の間の子宮頸部は子宮峡部と呼ばれ、妊娠時には開大して子宮体部の一部になり、子宮下節と名前が変わります。通常の帝王切開では子宮下節を横切開します。
 妊娠が成立すると、受精卵は子宮内膜に付着、侵入し(着床)、子宮体部で発育します。子宮体部の最外層は、子宮漿膜(しきゅうしょうまく:子宮外膜)という薄い膜に包まれています。子宮体部の先端の部分は、子宮底(てい)といいます。なお、子宮頸部の下方は前述の子宮腟部に相当します。成人女性では、子宮の長さは7~8cmでありニワトリの卵程度の大きさですが、妊娠すると、上腹部に達するような大きさになり、かたちは卵円形になります。
 子宮体部上端の左右は、卵管につながっています。卵巣より排出された卵は卵管に吸い込まれ、そこで精子と合体(受精)し、受精卵は卵管内を通り子宮内腔へ移送されます。卵管の長さは7~12cmで、その内側の壁は卵管内膜といい、線毛を有する細胞や分泌液を出す細胞が豊富にあり、受精卵が運ばれるのを助けています。卵管内膜の外側には平滑筋があり、表面は卵管外膜でおおわれています。
 卵管の通過が不良だと受精卵は子宮に達することができず、不妊になります。この場合、妊娠するためには体外受精が必要です。また受精卵が卵管内にとまり、そこで発育してしまうことを卵管妊娠といい、子宮体部内腔以外の部位に妊娠が起こる異所性妊娠の大部分を占めます。
 卵管の先端部分に存在する親指の頭ほどの楕(だ)円形(卵型)の器官は卵巣です。卵巣は、女性ホルモン(エストロゲン)を分泌する内分泌臓器であるとともに、卵をつくり排出するという、生殖にもっとも重要な臓器といえます。

(執筆・監修:医療法人財団順和会 山王病院 病院長/国際医療福祉大学大学院・医学部 教授 藤井 知行