けん玉はどうしてあの形なの？

　Q　けん玉（だま）はどうしてあの形（かたち）なの？（東京都練馬区（とうきょうとねりまく）、小（しょう）3、荒木奏穂（あらきかほ）さん）

大正時代（たいしょうじだい）に今（いま）の形（かたち）に　遊（あそ）びの幅（はば）増（ふ）え大（だい）流行（りゅうこう）

　A　けん玉（だま）が今（いま）のような形（かたち）になったのは、大正時代（たいしょうじだい）の1918年（ねん）です。広島県呉市（ひろしまけんくれし）の職人（しょくにん）、江草（えぐさ）濱（はま）次（じ）が考（かんが）えました。明治時代（めいじじだい）のけん玉（だま）は玉（たま）と棒（ぼう）だけでしたが、江草（えぐさ）は玉（たま）を受（う）ける大皿（おおざら）と小皿（こざら）をつけました。真（ま）っ赤（か）な玉（たま）を太陽（たいよう）、皿（さら）を月（つき）に見立（みた）て「日月（にちげつ）ボール」と名付（なづ）けられました。江草（えぐさ）は、技術（ぎじゅつ）の優（すぐ）れた広島県廿日市市（ひろしまけんはつかいちし）の木材（もくざい）会社（かいしゃ）に製造（せいぞう）を依頼（いらい）し、21年（ねん）ごろに「日月（にちげつ）ボール」の生産（せいさん）が始（はじ）まりました。24年（ねん）には、けん玉（だま）が大（だい）流行（りゅうこう）しました。

　「一般社団法人（いっぱんしゃだんほうじん）グローバルけん玉（だま）ネットワーク」代表理事（だいひょうりじ）の窪田（くぼた）保（たもつ）さんは「形（かたち）が変（か）わったことにより、できる遊（あそ）び方（かた）（＝技（わざ））が大幅（おおはば）に増（ふ）え、けん玉（だま）の持（も）つおもしろさが格段（かくだん）にアップしたという変化（へんか）がありました。遊（あそ）びの幅（はば）が増（ふ）え、人気（にんき）につながったのではないかと思（おも）います」と言（い）います。

　けん玉（だま）の起源（きげん）ははっきりしません。似（に）た遊（あそ）びは世界各地（せかいかくち）にあり、有名（ゆうめい）なのが16世紀（せいき）のフランスで流行（りゅうこう）した「ビルボケ」です。フランス国王（こくおう）のアンリ3世（せい）は、子（こ）どもたちが遊（あそ）んでいたビルボケを気（き）に入（い）り、自（みずか）らも遊（あそ）ぶようになったそうです。貴族（きぞく）や上流階級（じょうりゅうかいきゅう）のビルボケは象牙（ぞうげ）などを使（つか）い、彫刻（ちょうこく）がほどこされた高価（こうか）なものでした。フランスのビルボケがヨーロッパや、植民地（しょくみんち）だった中央（ちゅうおう）アメリカ、南（みなみ）アメリカにも伝（つた）わったと思（おも）われます。

　日本（にっぽん）でけん玉（だま）が誕生（たんじょう）したのは江戸時代（えどじだい）です。今（いま）のけん玉（だま）と違（ちが）い、ワイングラス状（じょう）の木製（もくせい）カップに玉（たま）をひもでつけたようなものでした。最初（さいしょ）は、大人（おとな）が酒（さけ）の席（せき）で遊（あそ）ぶものとして広（ひろ）がりました。外国（がいこく）との貿易港（ぼうえきこう）だった長崎（ながさき）から伝（つた）わったと言（い）われていますが、窪田（くぼた）さんは「けん玉（だま）が外国（がいこく）から来（き）たものかどうかは定（さだ）かではありません」と言（い）います。江戸時代（えどじだい）の風俗（ふうぞく）や習慣（しゅうかん）を集（あつ）めた「嬉遊笑覧（きゆうしょうらん）」には、1777年（ねん）ごろに「拳玉（けんだま）というものできたり」と書（か）かれています。「ヨーロッパの影響（えいきょう）を受（う）けた可能性（かのうせい）は高（たか）いと思（おも）いますが、証拠（しょうこ）になるような文献（ぶんけん）がありません。外国（がいこく）の実物（じつぶつ）が伝（つた）わったのか、伝（つた）え聞（き）いて似（に）たものを作（つく）ったのか、日本（にっぽん）でもっと古（ふる）くからあったのか、どの可能性（かのうせい）も残（のこ）されていると思（おも）います」

　けん玉（だま）は「スポーツ」「競技（きょうぎ）」として親（した）しまれるようになりました。競技（きょうぎ）用（よう）けん玉（だま）やルールができ、大会（たいかい）が開（ひら）かれています。2000年（ねん）代（だい）になると、日本（にっぽん）のけん玉（だま）は世界（せかい）に広（ひろ）がっていきました。「ユーチューブやSNSの影響（えいきょう）が大（おお）きいです」と窪田（くぼた）さん。アメリカのプロけん玉（だま）プレーヤーのコリン・サンダーさんは07年（ねん）ごろ、DVDで見（み）たけん玉（だま）に興味（きょうみ）を持（も）ちました。DVDには、アメリカのプロスキーヤーが来日（らいにち）した時（とき）、けん玉（だま）をする姿（すがた）が映（うつ）っていました。サンダーさんは技（わざ）を磨（みが）き、ユーチューブで配信（はいしん）すると、世界中（せかいじゅう）でけん玉（だま）プレーヤーが増（ふ）えました。14年（ねん）から廿日市市（はつかいちし）で「けん玉（だま）ワールドカップ」が開（ひら）かれています。昨（さく）年（ねん）7月（がつ）の「けん玉（だま）ワールドカップ廿日市（はつかいち）2022」には、12の国（くに）と地域（ちいき）から、過去最多（かこさいた）のプレーヤー725人（にん）が参加（さんか）しました。【篠口（しのぐち）純子（じゅんこ）】