食料問題を解決？昆虫食

　昆虫食（こんちゅうしょく）が今（いま）、食料問題（しょくりょうもんだい）を解決（かいけつ）するカギとして世界（せかい）の注目（ちゅうもく）を集（あつ）めています。日本（にっぽん）では、一部地域（いちぶちいき）で昔（むかし）から食（た）べられてきた伝統食（でんとうしょく）でもあります。昆虫食（こんちゅうしょく）って、一体（いったい）どんなものなのでしょうか。「おいしい昆虫記（こんちゅうき）」（ナツメ社（しゃ））の著者（ちょしゃ）で、日本一昆虫（にほんいちこんちゅう）を食（た）べているという佐伯真二郎（さえきしんじろう）さん（３５）に話（はなし）を聞（き）いたんジャー！【長尾（ながお）真希子（まきこ）】

昆虫食（こんちゅうしょく）にはどんなものがあるの？

　昆虫食（こんちゅうしょく）への関心（かんしん）が高（たか）まったのが、昨年（さくねん）５月（がつ）に「無印良品（むじるしりょうひん）」を展開（てんかい）する「良品計画（りょうひんけいかく）」がコオロギパウダーを使（つか）った「コオロギせんべい」をインターネット限定（げんてい）で発売（はつばい）したことです。コオロギの粉末（ふんまつ）パウダーを練（ね）り込（こ）んでいるせんべいは、「えびせんみたいで食（た）べやすい」と話題（わだい）になり、その日（ひ）に完売（かんばい）しました。今（いま）でも、ネットストアと店舗（てんぽ）で売（う）り出（だ）すたびに、完売（かんばい）する人気（にんき）だそうです。

　１２月（がつ）には敷島製（しきしませい）パンがコオロギを原材料（げんざいりょう）にした新（しん）ブランド「Ｋｏｒｏｇｉ（コオロギ）　Ｃａｆｅ（カフェ）シリーズ」として、フィナンシェ（お菓子（かし））とバゲット（パン）をネット限定（げんてい）で発売（はつばい）しました。広報担当者（こうほうたんとうしゃ）は「予想以上（よそういじょう）の売（う）れ行（ゆ）きと反響（はんきょう）で驚（おどろ）いています」とコメントしています。今年（ことし）７月（がつ）ごろには、コオロギパウダーを使（つか）ったパンづくりを楽（たの）しみながら、昆虫食（こんちゅうしょく）など未来（みらい）の食（しょく）についても考（かんが）えることができるというパンキットの発売（はつばい）も予定（よてい）しています。

　そのほか、昆虫食（こんちゅうしょく）レストランや昆虫食（こんちゅうしょく）の自動販売機（じどうはんばいき）も登場（とうじょう）するなど、昆虫食業界（こんちゅうしょくぎょうかい）は、少（すこ）しずつ活性化（かっせいか）。今（いま）までは、罰（ばつ）ゲームに登場（とうじょう）するなど、ゲテモノ扱（あつか）いだった昆虫食（こんちゅうしょく）が、動画（どうが）サイトやテレビ番組（ばんぐみ）でもグルメの一品（いっぴん）として紹介（しょうかい）されるようになっています。

なんで今（いま）、昆虫食（こんちゅうしょく）が話題（わだい）なの？

　２０１３年（ねん）にまとめた報告書（ほうこくしょ）で国連食糧農業機関（こくれんしょくりょうのうぎょうきかん）（ＦＡＯ）は、世界（せかい）の人口（じんこう）が５０年（ねん）には９０億人（おくにん）に達（たっ）すると推定（すいてい）されるなか、食料不足（しょくりょうぶそく）を解決（かいけつ）する「有望（ゆうぼう）な食材（しょくざい）」として昆虫食（こんちゅうしょく）を提案（ていあん）しました。飼育（しいく）に必要（ひつよう）なエサや排出（はいしゅつ）する温室効果（おんしつこうか）ガスが、牛（うし）や豚（ぶた）の家畜（かちく）よりも少（すく）なく、短期間（たんきかん）で育（そだ）つため、環境（かんきょう）にやさしいうえ、栄養価（えいようか）も高（たか）いと指摘（してき）したのです。

　すると、世界各国（せかいかっこく）で昆虫（こんちゅう）の食用化（しょくようか）の研究（けんきゅう）が加速（かそく）し、１５年（ねん）からヨーロッパ連合（れんごう）（ＥＵ）では新（あたら）しい食材（しょくざい）「ヌーベルフード」として審査（しんさ）が始（はじ）まり、いくつかの国（くに）では販売（はんばい）も解禁（かいきん）されました。いまでは昆虫食（こんちゅうしょく）の商業化（しょうぎょうか）が世界（せかい）に広（ひろ）がりつつあります。

　一足（ひとあし）遅（おく）れて、日本（にっぽん）でも、昨年（さくねん）、農林水産省（のうりんすいさんしょう）のフードテック官民協議会（かんみんきょうぎかい）が設立（せつりつ）されました。民間企業（みんかんきぎょう）や研究機関（けんきゅうきかん）と行政（ぎょうせい）がタッグを組（く）み、食料（しょくりょう）の安定的（あんていてき）な確保（かくほ）など食料問題（しょくりょうもんだい）の解決（かいけつ）に向（む）け、安全性（あんぜんせい）に関（かん）するルールやガイドラインづくりの検討（けんとう）も始（はじ）まっています。

栄養（えいよう）はある？

　昆虫食（こんちゅうしょく）は、良質（りょうしつ）なたんぱく質（しつ）や脂肪（しぼう）のほか、亜鉛（あえん）や鉄（てつ）などのミネラルも豊富（ほうふ）です。特別（とくべつ）な栄養素（えいようそ）がたっぷり、というよりは、栄養（えいよう）バランスの良（よ）さが特徴（とくちょう）です。コオロギは豚肉（ぶたにく）と同（おな）じぐらいの栄養（えいよう）バランスと評価（ひょうか）した論文（ろんぶん）もあります。

　これから注目（ちゅうもく）されそうな成分（せいぶん）としては、植物（しょくぶつ）とは異（こと）なる食物繊維（しょくもつせんい）です。昆虫（こんちゅう）の殻（から）に「キチン」という成分（せいぶん）があり、ヨーグルトにコオロギの粉末（ふんまつ）を入（い）れた実験（じっけん）をしたところ、何（なに）も入（い）れないヨーグルトより腸内細菌（ちょうないさいきん）の状態（じょうたい）が良（よ）くなったとの報告（ほうこく）もあります。

味（あじ）はどうなの？

　今（いま）まで食（た）べた昆虫（こんちゅう）は４２１種類（しゅるい）にのぼるという佐伯（さえき）さんに、日本（にっぽん）でも手（て）に入（はい）りやすいおいしい昆虫（こんちゅう）トップ３を教（おし）えてもらいました。

　１位（い）は、トビイロスズメの幼虫（ようちゅう）です。「ゆでると枝豆（えだまめ）のような香（かお）りがあり、食感（しょっかん）はまるでウインナーのようです」

　２位（い）は、トノサマバッタの成虫（せいちゅう）を挙（あ）げました。基本（きほん）はゆでるのがよいそうですが、２００度（ど）の油（あぶら）でサッと揚（あ）げると、トウモロコシのような香（かお）りがするそうです。ちなみに「卵（たまご）を抱（かか）えたメスは身（み）が詰（つ）まっていておいしい」とのこと。

　そして、３位（い）はアブラゼミの幼虫（ようちゅう）です。ナッツの香（かお）りがして、食感（しょっかん）は鳥（とり）のむね肉（にく）のようだといいます。

注意（ちゅうい）する点（てん）はあるの？

　初（はじ）めての人（ひと）向（む）けに「昆虫食（こんちゅうしょく）の注意（ちゅうい）７か条（じょう）」（＝表（ひょう）参照（さんしょう））をつくった佐伯（さえき）さんは、「昆虫（こんちゅう）を食（た）べてみたいと思（おも）うことは決（けっ）して、変（へん）なことではありません」と話（はな）します。

　しかし、昆虫（こんちゅう）だけでなく、野生（やせい）の生（い）き物（もの）は安全（あんぜん）に食（た）べる知識（ちしき）と手順（てじゅん）が必要（ひつよう）です。特（とく）に昆虫（こんちゅう）はたくさんの種類（しゅるい）があり、食（た）べられる昆虫（こんちゅう）、おいしい昆虫（こんちゅう）は図鑑（ずかん）にも書（か）いてありません。新（あたら）しい昆虫（こんちゅう）を日々（ひび）味見（あじみ）している佐伯（さえき）さんは、昆虫（こんちゅう）を食（た）べる時（とき）には必（かなら）ず、安全性（あんぜんせい）などについて論文（ろんぶん）を調（しら）べているといいます。変（へん）な味（あじ）がしたら、味（あじ）を見（み）てから吐（は）き出（だ）すようにしているそうです。

　通販（つうはん）などで売（う）られている昆虫（こんちゅう）食品（しょくひん）は、安全（あんぜん）に食（た）べられるよう管理（かんり）されていると考（かんが）えられますが、アレルギーの注意書（ちゅういが）きをする製品（せいひん）もあります。野外（やがい）の昆虫（こんちゅう）はむやみに食（た）べずに、大人（おとな）の人（ひと）と話（はな）し合（あ）って、「食中毒（しょくちゅうどく）の知識（ちしき）を踏（ふ）まえて、安全（あんぜん）に食（た）べられるかをしっかり調（しら）べて、説明（せつめい）できるようになってほしい」と佐伯（さえき）さんは訴（うった）えます。

昆虫食（こんちゅうしょく）の注意（ちゅうい）７か条（じょう）

・必（かなら）ず火（ひ）を通（とお）す

・新鮮（しんせん）なものを食（た）べる

・アレルギーに注意（ちゅうい）する

・かぶれやケガに注意（ちゅうい）

・「ゲーム」や「サプライズ」に使（つか）わない

・種類（しゅるい）のわからない昆虫（こんちゅう）は食（た）べない

・虫（むし）を捕（と）る時（とき）のルールにも注意（ちゅうい）する

佐伯真二郎（さえきしんじろう）さん

　神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学（こうべだいがくのうがくけんきゅうかはくしこうきかていたんいしゅとくたいがく）。２０１４年（ねん）よりＮＰＯ法人食用昆虫科学研究会理事長（ほうじんしょくようこんちゅうかがくけんきゅうかいりじちょう）。現在（げんざい）、東南（とうなん）アジアのラオスで国際協力機構（こくさいきょうりょくきこう）（ＪＩＣＡ（ジャイカ））の助成（じょせい）を受（う）けながら、ラオスの保健行政（ほけんぎょうせい）を長年（ながねん）サポートしてきた非政府組織（ひせいふそしき）（ＮＧＯ）ＩＳＡＰＨ（アイサップ）と一緒（いっしょ）に昆虫養殖（こんちゅうようしょく）で母子（ぼし）の栄養（えいよう）を支援（しえん）するプロジェクトを運営（うんえい）しています。