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この国に、女優・木内みどりがいた

「アベ政治を許さない」と書かれたプラカードを国会前で掲げた女優、木内みどりさん。その足跡をたどります。

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この国に、女優・木内みどりがいた

「規格外の演技」をする天才/44

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朗読劇「ロッコ・ダーソウ」に出演した、左から安藤玉恵さん、古舘寛治さん、原サチコさん、木内みどりさん=東京都港区のドイツ文化会館ホールで2016年7月(ゲーテ・インスティトゥート東京提供)
朗読劇「ロッコ・ダーソウ」に出演した、左から安藤玉恵さん、古舘寛治さん、原サチコさん、木内みどりさん=東京都港区のドイツ文化会館ホールで2016年7月(ゲーテ・インスティトゥート東京提供)

 女優の木内みどりさんは2017年4月、有限会社「マッシュ」(東京都渋谷区)の太田雄子代表にマネジメントを依頼した。「私のマネジメントしてくれない? マッシュに所属してもいいわよ。私、もっと女優の仕事がしたいの」。そして、二人三脚で晩年の仕事に臨んでいった。【企画編集室・沢田石洋史】

マネジメントを依頼した理由

 依頼を受けた太田さんは、大きく心を動かされたという。前年の16年夏、東京・赤坂のドイツ文化会館ホールで、木内さんの生の演技を見ていたからだ。演目は、前回の連載43回目に登場したドイツの劇作家、ルネ・ポレシュさんの朗読劇「ロッコ・ダーソウ」。木内さんの長年の友人で、ハンブルク・ドイツ劇場の専属俳優、原サチコさん(ドイツ在住)が翻訳・演出を手掛けた。出演者は木内さん、原さん、古舘寛治さん、マッシュ所属の安藤玉恵さんの4人。

 主催者のホームページによると、この朗読劇の舞台は「ロッコ・ダーソウ録音スタジオ」。巨大なケーキの上に、ターミネーターの頭が載った奇抜なセットが置かれている。ここで、スタジオの持ち主のロッコら4人が「突然の愛の告白の凶暴性」「友情を保つための無意味な仕草」などをテーマに、全員で一つの脳になったかのようにスパイラル状に考察を高めていく――という粗筋だ。太田さんは原さんの日本のエージェント(代理人)で、この作品の制作協力もしていた。木内さんの演技をこう評した。

 「めちゃくちゃうまい。自然体だから、くさくない。劇作家・演出家の平田オリザさんが1990年代半ば、現代口語演劇理論という演技・演劇論を唱えて、演劇界に大きな影響を与えましたが、木内さんはそれ以前からこの理論を先取りしていた。時代の最先端を走ってきた女優だと思います」

 現代口語演劇理論については後述する。まずは、太田さんが木内さんの依頼にどう応えたか紹介したい。木内さんは連載42~43回目に登場した演劇プロデューサーの奥山緑さんと、演劇ジャーナリストの伊達なつめさんの2人から太田さんを紹介されたのだという。奥山さんによると、①マネジャーがいれば出演条件の交渉がスムーズになる②マネジャーの人脈が仕事を引き寄せる――の2点がメリットだ。ただし、事務所に所属すると、自由な行動が制限されかねない。

米国式エージェントで

 太田さんは、米国の俳優とエージェントの関係に近い提案をした。事務所に所属せず、太田さんが個人的にマネジメントを引き受けるというものだ。

 「当時、脱原発集会で司会を引き受けたり、政治的発言をためらわなかったり、著名な女優としては、稀有(けう)な存在でした。自由度が高く、自分のスケジュールは自分で管理できる形がいいと思いました。事務所に所属すると、彼女らしく動けなくなる可能性がある。私が個人的にお手伝いすることになったのは、女優としての仕事をもっと見てみたいと思ったからです」

 マネジメントの主な仕事は、スケジュール調整と出演依頼の橋渡し。台本は太田さんがまず読み、木内さんに渡す。依頼された作品に参加したいか2人で話し合う。必要があれば、2人でプロデューサーや監督と会って話を聞き、最終判断する。従来のように木内さんに直接依頼が来て、木内さんが1人で判断する場合もあった。その時は太田さんにひと言、「私、このドラマに出演することになったから」と伝える。

政治的発言は映画出演に不利?

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