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デビュー50年を迎えた歌手の小椋佳さん(77)が、秋のツアーを最後に芸能界を引退する。シンガー・ソングライターの先駆けである小椋さんは東京大法学部を卒業後、銀行員としても成功しながら、大学に戻って哲学を修めた偉才。ラストアルバムの曲の一節にはこうあった。♪鬼のままのわが生涯 流石(さすが)に喜寿 疲れました。老境の鬼が探し続け、見つけたものとは。
「僕も老いぼれました。もういいでしょ」。シュポッと音を立てて100円ライターでセブンスターに火を付けると、小椋さんは目尻を下げた。20代からたばこは1日2箱。コーラ(1・5リットル)は10日で半ダース。57歳でがんになり、胃の5分の4を摘出。68歳で劇症肝炎になり、もうすぐ足の静脈瘤(りゅう)の手術をする。「たばこもコーラも生活必需品。体にいいことは、一つもやっていない」。何だか不良仙人のようである。
これまで作った歌は2000曲近く。「シクラメンのかほり」「さらば青春」「愛燦燦(さんさん)」など多くの名曲を世に送り出した。目を閉じれば、誰しもが<優しく睫毛(まつげ)に憩う>思い出の曲が浮かぶのではないか。近年も映画「北の桜守」の主題歌で日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受賞し、業界の第一線で活躍している。
「若い頃は、こんなに続くはずないと思ってましたよ。歌い手なんて、ちょっと世に出て、すぐいなくなる」と小椋さん。デビューは、不遇時代を共に過ごした盟友の井上陽水さんと重なる。「ようやく売れてレコード会社に表彰された時、陽水が言いましたよ。『賞金はいいから年金をくれ。老後が心配だ』って。みんな先が見えなかったんだなあ」
デビューのきっかけは、寺山修司だった。…
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