「ビクトリーロード」生みの親はW杯直前代表落ち　「この道ずっと行けば」に自ら重ね

　ラグビー・ワールドカップ（W杯）で、日本代表のチームソング「ビクトリーロード」が日本中で歌われた。考案したのはトップリーグ・ヤマハ発動機（静岡県磐田市）の山本幸輝選手（29）。最後に代表から落選し、表舞台に立てない悔しさもあったが、世界の壁に挑む仲間の姿に次第に心は晴れていった。1月に開幕するリーグ戦で、今度は自身が主役になることを目指している。

　ビクトリーロード　この道　ずっと　行けば　最後は　笑える日が　来るのさ　ビクトリーロード

　曲は、海外で作られ、国内では1995年に公開されたアニメ映画「耳をすませば」の主題歌として知られる「カントリーロード」の替え歌だ。2月の代表候補合宿で、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ（HC）が「選手が一つになれる歌がほしい」と呼びかけ、リーチ・マイケル主将（31）＝東芝＝がムードメーカーだった山本選手に依頼した。

　当時の練習は走り込みなどの基礎練習ばかり。誰が代表に選ばれるか分からず、苦しい練習が続く状況が、カントリーロードの元の歌詞にもある「この道　ずっと　行けば」に重なった。「これだ」。皆の前で披露すると、歌詞などが外国人選手にも好評で、合宿終了時などの節目で歌われるようになった。

　8月下旬にあった最終合宿終盤のW杯メンバー発表。候補選手41人が31人に絞られた中に山本選手の名前はなかった。失意の中、堀江翔太選手（33）＝パナソニック＝が宿舎の部屋を訪ねてきてくれた。「お前はようやった。お疲れさん」。涙が止まらなかった。

　「しんどいことをみんなで乗り越えてきた。一つの家族だと、初めてそんな感情を持った」。合宿を締めるビクトリーロードを感謝の思いを込めて思い切り歌った。

　日本代表は9月20日の開幕戦で、プレッシャーをはねのけてロシアに勝利。試合後、堀江選手から選手が合唱する動画とともに「お前の文化残ってるで」とスマートフォンにメッセージが届いた。同28日に強豪のアイルランドを倒すと、田村優選手（30）＝キヤノン＝からも「幸輝の作ってくれた歌をめっちゃいいタイミングで歌えた」と、お礼のメッセージが届いた。

　快進撃とともに、ビクトリーロードもテレビで取り上げられ、多くの人が口ずさむようになっていた。「やはりグラウンドで勝利の喜びを分かち合いたかった」。目標の舞台に立てなかったことにさびしさが込み上げた。

　静岡スタジアムで観戦した10月4日の南アフリカ―イタリア戦の試合前、自身が歌う様子を動画撮影し、ツイッターに公開した。元日本代表主将の広瀬俊朗さん（38）らから「歌い方を知りたいファンがたくさんいる」との呼びかけに応えたもので、動画は瞬く間に広がった。

　日本代表は快進撃を続け、W杯で初の8強入りを達成。優勝した南アフリカに敗れた準々決勝は力の差を見せつけられたが、「代表はベストメンバーだった。後悔はない」と仲間を誇りに思った。

　プロップの山本選手は現在、1月12日開幕のリーグ戦に向けてフィジカルトレーニングやスクラムの強化に取り組む。「W杯で活躍した選手、出られなかった選手、いろいろな選手が本気でリーグ戦でぶつかり合う。ハイスタンダードなプレーをしたい」。次の舞台での活躍を誓う。【古川幸奈】