〘助動〙 (活用は「られ・られ・られる・られる・られれ・られろ(られよ)」。下一段型活用。上一段・下一段活用、カ変・サ変活用の動詞、および使役の助動詞「せる」「させる」の未然形に付く) らる
(活用は「られ・られ・らる・らるる・らるれ・られよ」。下二段型活用。上一段・下一段活用、上二段・下二段活用、カ変・サ変活用の動詞、および使役の助動詞「す」「さす」の未然形に付く)
① 自発を表わす。ある動作、主として心的
作用が自然に、無意識的に実現してしまうことを示す。命令形は用いられない。
※
源氏(1001‐14頃)
帚木「かく数ならぬ身を見も放たで、など
かくしも思ふらむと心苦しき折々も侍りて、自然
(じねん)に心を
さめらるるやうになむ侍りし」
※
徒然草(1331頃)一九「梅の匂ひにぞいにしへの事もたち返り恋しう思ひいでらるる」
② 受身を表わす。他から何らかの動作・作用の影響を受ける意を表わす。作用の受け手、すなわち受身形の主語は、人間・動物など
有情のものであるのが普通である。動作を直接に受け、またその影響をこうむることによって、被害や迷惑、または
恩恵などを受ける感じをも含むことが多い。ふつう、動作・作用の行ない手は、「…に」の形で表現される。
※
落窪(10C後)四「かの
典薬の助は蹴られたりしを病にて死にけり」
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小説神髄(1885‐86)〈
坪内逍遙〉上「さてかくの如き変化を経て、小説おの
づから世にあらはれ、またおのづから重んぜられる」
③ 可能を表わす。ある動作をすることができる意を表わす。
古代には、否定の表現を伴って不可能の意を表わすのに用いられるのが普通で、
中世末以降、打消を伴わないで可能の意を表わすのにも用いられる。命令形は用いられない。
※古今(905‐914)恋二・六〇五「手も触れで月日経にける白まゆみ起き伏し夜は眠(い)こそ寝られね〈紀貫之〉」
※歌舞伎・一谷坂落(1691)二「ここは女の下りられる所でござるか」
④ 尊敬を表わす。他人の動作を表わす語に付いて、敬意を示す。「給ふ」などよりは軽いといわれ、本来敬意を含んでいる動詞に付くことが多い。中古には漢文訓読の際のことばなどには多用されるが、かな文学作品の中では比較的少なく、中古末の和漢混淆文などから多く見られる。
※枕(10C終)二三「御硯(すずり)の墨すれ、と仰せらるるに」
[語誌](1)「れる(る)」と意味・用法は等しいが、未然形がア段となる動詞には「れる(る)」が付き、それ以外の場合は「られる(らる)」が付くというように、接続に分担がある。
(2)上代では、「らゆ」という形が用いられて、「らる」は見出せない。中世には連体形「らるる」が終止法として用いられるようになり、命令形には「られい」が現われ、やがて一段活用化して「られる」となる。
(3)自発・受身・可能・尊敬の意味は、推移的に変化しているため、個々の用例においては、いずれと決めにくい場合がある。
(4)「られる(らる)」「れる(る)」の受身は、英語などの受身と異なり、単純な他動詞ばかりでなく、「目をかけられる」「自分の分まで食べられてしまった」のように目的語を伴った他動詞に付く場合、また、「人に逃げられる」のように自動詞に付く場合もある。
(5)主語が無生物の受身表現は、近代に至って急激に多用されるようになった。現在では、法律、学術書をはじめとして新聞記事、ニュース放送など客観的な叙述に多く用いられる。
(6)可能の意の「られる」の代わりに「れる」を使う新しい傾向がある。「ら抜き言葉」と呼ばれ、近年、特に口語で目立ってきている。→「
れる」の語誌(1)