“弾丸”試乗レポート

発売が迫るコンパクトSUV、トヨタ「C-HR」プロトタイプ試乗&インタビュー

2016年年末の発売が予告されている、トヨタの新型コンパクトSUV「C-HR」。その最新モデルのプロトタイプを使ったメディア向け試乗会が先日開かれた。そこでの試乗インプレッションと開発者へのインタビューを通して、「C-HR」の魅力をモータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

「C-HR」は、コンセプトモデルの面影を濃厚に宿したアグレッシブなデザインが特徴。その走りも外見に負けず劣らず魅力的だ

大胆なデザインで欧州を中心にプロモーションを実施

トヨタが年末に発売を開始するコンパクトSUVの「C-HR」。そのプロトタイプに、クローズドコースだが試乗することができた。C-HRは「Compact High Rider」(コンパクトでボディがリフトアップされた格好よいプロポーション)と「Cross Hatch Run-about」(ハッチバックのようにキビキビ走れるクロスオーバー)の略であり、もともとは開発時にイメージがわかるようにと使っていた型式名だ。今回は、その開発用コードが、そのまま車名になったという。コンセプトモデル「FT-86」が「86(ハチロク)」として登場したエピソードを思い出させるクルマだ。

そのC-HRが、最初に登場したのは2014年のパリモーターショーで、コンセプトモデルとしての発表だった。日本でも2015年の東京モーターショーでコンセプトが出品されており、量産モデルは2016年のジュネーブモータショーでデビューを果たした。開発にあたり、ドイツのニュルブルクリンク24時間レースへプロトタイプでの参戦も行っている。プロモーションや開発の手法を見ると、ターゲットが欧州であることがありありとわかる。走りにうるさい欧州のユーザーを納得させるのがC-HRの命題であったのだろう。

C-HRのコンセプトモデルは、2015年に開催された東京モーターショーや、2016年の東京オートサロンでも展示されていた

そのC-HRの最大の特徴は個性的なデザインだ。コンセプトモデルを見たときは、「斬新だけれどしょせんプロトだから、量産型では普通になるのでは?」と思っていた。しかし、量産型は、しっかりとコンセプトのイメージを残すことに成功している。横から見たときの独特のシルエットもほかにない。リアのストップランプ周りの造形も驚くほど大胆だ。自動車の個性を重んじる欧州では、C-HRの評判は上々だという。実際に今年のパリモーターショー会場でも、展示されたC-HRをチェックする人が引きも切らず、人気の高さを感じることができたのだ。

横から見たシルエットは、類似するものがちょっと思い浮かばないほど個性的だ

横から見たシルエットは、類似するものがちょっと思い浮かばないほど個性的だ

大きく張り出したリアのストップランプとトランクリッドによって躍動感を演出

大きく張り出したリアのストップランプとトランクリッドによって躍動感を演出

フロント周りのデザインも、コンセプトカーの面影を強く残している

フロント周りのデザインも、コンセプトカーの面影を強く残している

プリウスと同じ「TNGA」プラットフォームとパワートレインを使用

試乗したのは1.8リッターのハイブリッドのFFモデルと、1.2リッターガソリンターボの4WD。ハイブリッドは最高出力72kW(98馬力)/最大トルク142Nmのエンジンと53kW(72馬力)/最大トルク163Nmのモーターを組み合わせたもの。同社の「プリウス」と同じシステムだ。ダウンサイジングターボユニットとなる1.2リッターターボは、最高出力85kW(116馬力)/最大トルク185Nm。トランスミッションはCVTでプロペラシャフトを備えたコンベンショナルな4WDとなる。

プラットフォームはプリウスと同じ、Cセグメントの「TNGA(トヨタ ニュー グローバル アーキテクチャ)」プラットフォーム。予算をかけてよいモノをひとつ作り、それを横展開するのがTNGAのコンセプトで、その第1弾モデルがプリウスであり、C-HRはその二番手となる。TNGAは現在のトヨタ社長である豊田章男氏による「もっといいクルマを作ろうよ」というメッセージの具体策のひとつだ。

FFモデルは、最高出力72kW(98馬力)/最大トルク142Nmのエンジンと53kW(72馬力)/最大トルク163Nmのモーターを組みあわせたハイブリッド

4WDモデルは、ダウンサイジングターボユニットとなる1.2リッターターボを搭載。最高出力85kW(116馬力)/最大トルク185Nm

ジェントルにもスポーティーにもドライバーの思うままに走る

まずはハイブリッドに試乗する。エクステリアの斬新さに対して、インテリアは割と普通で、シック&シンプルという印象。ハイブリッドではあるが、シフトノブは普通のガソリン車と同じ。あまりハイブリッドならではの先進感はアピールされていない。

エクステリアのイメージと比べて、インテリアはシックでシンプルな印象

エクステリアのイメージと比べて、インテリアはシックでシンプルな印象

シートは、サイドの張り出しが比較的大きめでスポーツカー的にしつらえてある

シートは、サイドの張り出しが比較的大きめでスポーツカー的にしつらえてある

骨格部分をプリウスと共用しているため、リアシートの居住性も見た目の印象ほど悪くない

骨格部分をプリウスと共用しているため、リアシートの居住性も見た目の印象ほど悪くない

ハイブリッドモデルのシフトレバーは、メカ部分が共通するプリウスと比べて古典的な形状だ

ハイブリッドモデルのシフトレバーは、メカ部分が共通するプリウスと比べて古典的な形状だ

EVボタンを押して、スルスルとモーターで発進。静かでスムーズだ。アクセル操作に対する加速感はリニアであるものの、それほどパワフルなわけではない。ステアリングのギヤ比もスローでジェントルな動きを見せる。

ただし、コーナーをいくつか越えたあたりで「おやっ」と。なんだか自然だ。基本はSUVらしくジェントルなのだが、グニャグニャしていないので、意思通りにクルマが動く。ロールは少ないが、凹凸(わざと角材を置いて作ったもの)を越えるときにサスペンションがちゃんと動いている。突っ張る感じがなくて乗り心地もいいのだ。さらに、ちょっとコーナーに無理して突っ込んでみる。無理したなりにズルズルと滑るものの、不安感がない。まるでスポーツカーのように扱えてしまうのだ。開発陣は「コンフィデンス(信頼)&ナチュラル(自然)」という言葉を使って、クルマの狙いを説明していたが、その言葉に納得するばかり。自然で素直に動くので、クルマを信頼して走らせることができる。まっすぐ走りたいときはまっすぐに走り、曲がりたいときはドライバーが思った分だけ曲がる。微妙に操作すれば微妙に動き、大胆にやれば大胆に動く。全体としてゆったり感があるのだが、ドライバーの意思には正確に反応してくれるのだ。

ハイブリッドのFFモデルは、基本的には紳士的で落ちつた走行フィールだが、ドライバーの意志に正確な挙動を示す

ハイブリッドモデルのメーター周辺。シンプルなデザインで視認性は良好

ハイブリッドモデルのメーター周辺。シンプルなデザインで視認性は良好

続いて1.2リッターのガソリンターボモデルを試す。基本的な動きの質はハイブリッドモデルと同じ。ただし、こちらは軽快さが強い。普通はFFよりも4WDのほうが、どっしりとした足元の重さを感じさせるのだが、C-HRの4WDは逆にFFよりも軽やか。これは驚いた。また、パワー感は最初の一歩の力こそハイブリッドに譲るが、不足は感じない。CVTは滑らかさだけでなく、アクセル操作に対して、加速感と音がリニアに高まる。ずいぶんとCVTのフィールがよくなったと感心するばかりだ。

FFモデルよりも軽やかな挙動を示す4WDモデル。CVTのフィールもかなり改善されている

FFモデルよりも軽やかな挙動を示す4WDモデル。CVTのフィールもかなり改善されている

ハイブリッドとガソリンを試乗してみたが、どちらも走りのレベルは非常に高かった。豊田章男社長の「もっといいクルマを作ろうよ」の言葉通りのハイレベルな仕上がりで、TNGAの実力の高さが実感できる試乗であった。今後、出てくるであろう次のTNGA車の走りが楽しみになった。

目指したのは普通の人が普通に走って気持ちいい「我が意の走り」

トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS製品企画 ZE 主査 古場博之氏

トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS製品企画 ZE 主査 古場博之氏

続いて開発のリーダーとなる古場博之氏に話を聞くことができた。インタビュー形式で紹介しよう。

鈴木:クルマの説明では「コンパクトSUVのお客さんは、走りと格好を気にする」とありましたが、そうした志向は世界的に同じですか?

古場:そうですね。2010年にこのクルマの企画を始めたときに、ヨーロッパからアメリカ、日本、中南米、ASEANを回りました。どこで聞いても、まず「格好よさ」だと。そこから、「格好よさ」を第一に開発することになりました。

鈴木:相当に大胆なデザインですよね。

古場:やはり、C-HRは、あとから出すものなので……。2010年の時点でも、けっこういろんなクルマが出てきていて、その中で埋没しないクルマづくりをしないといけないと考えていました。

コンパクトSUVは世界的に競合が多い。C-HRは、それらと比較しても埋没しない強いデザインが志向された

コンパクトSUVは世界的に競合が多い。C-HRは、それらと比較しても埋没しない強いデザインが志向された

鈴木:ところで開発を2010年からスタートしたということは発売まで5〜6年かかっていますね。最近はクルマの開発期間が短くなっています。なぜ、これほどかかったのでしょうか?

古場:長かったですね。最初にクルマを作ろうとしたときに、今のTNGAのプラットフォームではないものを使っていました。だけど、そのプラットフォームで、このクルマの狙いを実現しようとすると、すべて一新しないといけない。そのため、サスペンションから全部、新しいのを作ろうと計画を立ててやったんです。だけど、このクルマだけにリソースをそんなにかけてどうするんだ? と。そのときにTNGAのCプラットフォームができているので、「これで、C-HRの企画はできないのか?」と。それなら、よいクルマができるし!となったんです。

鈴木:つまり、プリウスのプラットフォームができるのを待っていたと?

古場:プリウスではなくTNGAのCプラットフォームですね。それをプリウスだけでなくこのクルマにも使おうと。もともとTNGAのプラットフォームはSUVの企画も当初からありました。そういうことで、もう一度そこから企画を修正して、作り直したので時間がかかったわけです。

鈴木:その分、理想に近いものができたと?

古場:そうですね。TNGAのプラットフォームなら、デザインの自由度も上がるし、重心も低いし、高剛性で新しいサスペンションになっている。それを使えたからこそ、C-HRは世の中に出せたと考えています。

クルマの骨格部分には、「プリウス」と同じTNGAのCプラットフォームを使用

クルマの骨格部分には、「プリウス」と同じTNGAのCプラットフォームを使用

鈴木:その走りのことですが、C-HRは操舵に対して正確で、追い込んだときはスポーツカーのようにも走りますが、スポーツカーじゃないなあと。でも、BMWだともっとスポーツカーっぽいし、メルセデスならば、もっとおっとりするなどのキャラクターがあります。そういう意味で、トヨタが目指した走りとはどういうものですか?

古場:目指したのは「我が意の走り」です。最初にぱっと乗って、自分が行きたいところにクルマが行ってくれると、そんなに楽なことはありません。ドライバーはそれを安心して感じてもらえる。そういうところを考えて作り込んでいきました。スポーツカーのように足を固めて、それを実現するのではなくて、普通に足をしっかりと動かしながら、まっすぐ走る。細かい操作に対して、きっちりクルマが応答する。というところをすごく目指していきました。

追い込めばスポーツカーのようにも走るが、C-HRが目指したのは「我が意の走り」

追い込めばスポーツカーのようにも走るが、C-HRが目指したのは「我が意の走り」

鈴木:もっとクイックにもできますよね?

古場:疲れますよね(笑)。たとえばうちの営業のペーパードライバーの女性にも乗せましたが、その女性が「簡単に乗れる」と言ってくれました。そういうところを目指したんです。普通のお客さんが普通に乗ったときに気持ちいいというように。

鈴木:走りに関して、普通のお客さんに、どんなところを味わってほしいですか?

古場:まずは乗っていただければと思います。そうすると、初めてのクルマは構えると思うんですよ。でも、最初にステアリングを切ったときに、「あっ、ちゃんと自分が思ったところにスッと行ってくれた」と。発進のときもスッと踏むと、スッと動く。アクセルを踏んで「踏んでも動かないなあ」と踏み込みすぎて、逆にグッと加速しないように気をつけました。ハンドルをスッと切ったら、クルマもスッと曲がる。ブレーキも思ったように効く。最初のその感覚を味わってもらいたいですね。それがすごく、クルマの印象につながると。ドライバーは器用ですから、慣れるとクルマの特性に合わせて操作をするようになります。それでも、車速によって特性が変わると、ドライバーは常に気を遣わないといけません。だけど、C-HRは車速が変わっても、いつでも同じように応答してくれる。そこをすごく気にして開発しています。

鈴木:基本的といえば、すごく基本的ですよね。珍しいことじゃないけれど……。

古場:何を言ってるの? そんなの普通じゃん、と(笑)。でも、いろんなクルマに乗ると、それが普通じゃなかったりするんですよね。

鈴木:そうなんですよね。それが難しかったりするんですよね。

どのスピードでもドライバーの狙ったように走ることを目指したC-HRの走りは、TNGA採用車の将来性を感じさせる

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよびその周辺機器には特に注力しており、対象となる端末はほぼすべて何らかの形で使用している。
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