“弾丸”試乗レポート

セダン復権を賭けるトヨタの本気、「カムリ」インタビュー&インプレッション

2017年7月10日より、トヨタから新型セダンの「カムリ」が発売された。世界100か国以上で発売され、アメリカでは15年連続で乗用車販売台数ナンバー1を獲得したグローバルセダンが日本に上陸したのだ。新しいカムリはどんなクルマなのか? チーフエンジニアへのインタビューと試乗を通じて、モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

世界中の国で売られるカムリ。ただ日本国内では、セダンスタイルは注目度が低く、シニア向けのイメージがぬぐえない

セダンが売れないのは自動車メーカーにも責任がある

勝又正人氏 トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS商品企画 ZVチーフエンジニア

勝又正人氏 トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS商品企画 ZVチーフエンジニア

新型カムリの試乗会にて、試乗前に開発のトップであるチーフエンジニアに話を聞くことができた。まずはインタビュー形式で、紹介しよう。

鈴木:カムリは世界中で販売されており、個人的にはグローバルトヨタのトップセダンというイメージを持っています。厳密にはカムリよりも上級な車種はありますけれど、世界中で売れている&高級ということでトヨタの代表格だと思うんですよ。

勝又:いわば、“トップ オブ ザ トヨタ”という存在ですね。

鈴木:数も相当に売れていますよね? 年間ではどれくらいになりますか?

勝又:ざっと足元を見ると、年間70万台レベルです。調子のよいころは80万台を超えていましたが、徐々に減ってきているのは事実ですね。

アメリカでも無難な高級セダンとして、消去法的に選ばれることが少なくなかった。そうした意識を変えることも新しいカムリの狙いだ

鈴木:一番に多いのはアメリカなんですか?

勝又:イメージで言いますと、半分がアメリカで、4分の1が中国です。とにかく4分3が米中。それ以外は、どんぐりの背比べで、中近東やオーストラリアなど、そうした国が並んできます。日本は1%以下です。

鈴木:そういうグローバルのトップ オブ ザ トヨタのカムリとしては、どういうものが求められていて、それに対して、新型はどう応えているのでしょうか?

勝又:まず、「ビジネスでセダンの高級車じゃないと困る」というビジネスセダンという機能で、ご購入していただいているお客様は、グローバルに、特にカムリをトップ オブ ザ トヨタと見る地域には、たくさんおられます。ただ、機能で買っていただいているお客様を除く、いわゆるプライベートで買っていただいているお客様の大多数が、残念ながら消去法的な購入をされています。特に販売台数の多い地域で目立ってきてしまっています。アメリカなんかが顕著ですね。もともとカムリみたいなクルマは、ワクワクドキドキして積極的に選ぶクルマではなかったんですね。それで「ホワイトブレッド」つまり“食パン”というあだ名がついています。あるいは、「バニラアイス」という方もいます。どちらも同じ意味で、非常にポピュラー。「絶対にバニラを買うぞ!」と言って買うわけではないんです。それで、僕らが危機意識を募らせたのが、特に若い方に、セダンを知らない方が増えていることです。

鈴木:どういうことですか?

勝又:たとえば日本で、トヨタの関係者でも若い人に「セダンの代表的な車名をあげてみて?」と聞くと、えっと首をかしげて、それから「たとえばプリウスとかですか」と答えるんですよ。

鈴木:え! プリウスはハッチバックですからセダンじゃないですよ。それはちょっと困りものですね。

勝又:わかりますよね。ちょっと待てと。ひと昔前は、クルマといえばセダンでした。そこから子どもの多い人はミニバンを買うし、山に行く用事の多い人はランクルタイプの本格SUV、スタイル優先であればクロスオーバーSUVを選び、ワゴンが流行ればワゴンに乗ると。でも、「まず、クルマはセダンだよね」と当たり前に僕らは思っていたんです。ところが若い人はそうじゃない。ボディタイプが何なのかを気にせずにクルマを買われています。

良好な重量バランスのため走りにすぐれ、騒音も抑えやすいなどメリットの多いセダンスタイル。しかし、その魅力が国内では忘れかけられている

そこで僕らが気をつけなきゃいけないのは、セダンだからとあぐらをかいていてはいけないと。クルマそのものの面白さが伝わらなくなってしまうんじゃないかということです。将来、愛車なんて呼ばれなくなるかもしれない。愛洗濯機とか、愛冷蔵庫はありません。そういったものを僕らが、一番ベースとなる、性能もスタイルも一番よくできるはずの、このボディタイプであるセダンに、もっと本気の商品を出さないと、おおげさに言うと、クルマ全部が白物になってしまいます。

鈴木:一番、有利なはずのセダンで、ちゃんと魅力的なものを作らないといけないってことですね。日本はそういう状況だとわかりますが、グローバルでも同じなんですか?

勝又:ドイツですら、ずいぶん前から都市部で免許取得年齢に到達した若者の免許取得率が、どんどん下がっているそうです。

鈴木:ドイツでも?
勝又:都市部ですけれど。まさにグローバルでクルマ離れが進んでいるんですね。ヨーロッパのラグジュアリーブランドでもセダンの比率が下がってきています。結局、売れるからとSUVばかりやっているんじゃないかと。セダンを本気でやってないんじゃないかと思うんですよ。

鈴木:グローバルでSUVブームですからね。

勝又:こんなに物理的に重心を下げられて、速く気持ちよく安全に走れる。しかも、室内空間もしっかりあって、静かで、隔壁があるから荷物ともちゃんと分かれたところに座れる。窓ガラスを割られても荷物を盗まれない。そんなセダンの売りがあるんですよ。それに、重いものを低く配置して重心を下げて、屋根を下げたものが「格好いい」=「運動性能の基本がいい」ってなる。これってすごいなあと思います。そういう特徴を持ったボディタイプだからこそ、先人もセダンを基本にしていたのであって、それを我々の世代で、お客様の流行りすたりで、違うボディタイプにうつつを抜かして、本質を訴求せずにしていると、自動車産業自体が「つながる世界の端末」になってしまう。それはいかんなあと。

客室と独立したトランクルームがあるセダンスタイルは、重量物をより低い場所に配置でき運動性能と居住性を両立させている。セダンをクルマの基本形とみなすのには、そうした背景がある

鈴木:そういえば、カムリの発表会で「変わる」と何度も言っていましたよね。あれを聞いていて「なんで変わらなくてはいけないのか?」と疑問に思っていました。それが危機感だったんですね。

勝又:そうです。たとえば価格.comさんをトヨタでは国内の販売店の研修にも利用しているんですよ。そこで国内の人気車種って検索してみると、セダンはぜんぜん入ってこないんですね。ところが輸入車で絞り込むとセダンが入ってくる。輸入ブランドというゲタを履いているとそうなっているかもしれませんが、力を入れた本気のセダンを投入してこなかった日系OEMの責任かなあと。お客様の心に響く商品が、導入されてないだけじゃないかと。だったら、ここでやってみようと!

鈴木:セダンは人気がないから売れないですよね。しかも、カムリはグローバルカーでボディも大きい。売れないところに、さらに売れなさそうな、大きなセダンを投入するというのは、勝ち目のない戦。トヨタは何を考えているんだろうと思いました。でも、それは表裏であって、売れないからこそ出すということなんですね。

勝又:売れない状況を作ってしまっていることに対する、僕らの危機感だし、本気度です。

比較的高価でボディも大きな新しいカムリ、国内では不利な条件だが、“売れないからこそ出す”という危機感がトヨタにあった

帰国子女が売りなので大和なでしこ風のチューニングは行っていません

鈴木:では、日本に向けて何か仕立て直したところはどんなところでしょうか?

勝又:日本向けに仕立てなおしたというよりも、「帰国子女」と思っていただきたいと。たとえば、「クラウン」、「マークU」「マーク X」といったクルマは日本人のかゆいところに手の届く「大和なでしこ」です。だけど、大和なでしこのよさもありますが、いっぽうで残念なところもあります。特に若い世代の方にとっては、インターナショナルは当たり前です。僕も4年間ベルギーに駐在していたので、僕の娘と息子は帰国子女なんですね。で、彼女たちはマイルさえあげれば勝手にどこにでも行きます。友達との旅行も、ぜんぜん違う飛行機を使って、パリのどこそこのホテルで待ち合わせとかやってますから。そういう人たちの価値観は、グローバルカーの価値観に近いものがあります。そういう意味で言うと、カムリは日本のメーカーの日本のクルマですので、日本のパスポートを持っていて日本語を話すんですけれど、ときどき、「あれ? 彼女って、日本でずっと育ったのではないよね」と気づくときがあります。そういうものが一部入っているのがカムリだと思っています。

世界を相手にしているクルマなので、国内専用車のようなかゆいところに手が届くような気配りではなく、さっぱりとした明快さが持ち味

お客様への提示も、そういう提示をさせていただきたい。だからマークUとは違うテイストのクルマなんだよということです。それと作る側の理論ですが、マークUやクラウンですと、何か新しい装備が欲しいというときはゼロからの開発になります。日本にしかないクルマですから。でも、カムリはトップ オブ ザ トヨタの地域をたくさん持っています。なので、電動リヤリクライニングとか、いろいろな装備を導入できるんです。そういった部分も含めて、帰国子女の売りとなるんじゃないかなと。そういうところを理解していただけるお客様に買っていただければなあと考えています。ですから価値観がグローバル化する中で、あえて大和なでしこチューニングをしないほうが僕はいいんじゃないかなと思っています。

大人3人が快適に座れるだけの横幅と、十分な頭部およびレッグスペースが確保されている

大人3人が快適に座れるだけの横幅と、十分な頭部およびレッグスペースが確保されている

鈴木:では、走りとかも同じなんですか?

勝又:そうです。グローバル標準です。

鈴木:トヨタが本気で作った、トップ オブ ザ トヨタのグローバル ミッド セダンを味わっていただきたいということですね。

勝又:新しいカムリが起爆剤になればいいなと思っています。

「プリウス」、「C-HR」に続く第3のTNGAモデル

新型カムリは、「プリウス」「C-HR」に続く、トヨタのTNGA(トヨタ・グローバル・ニュー・アーキテクチャー)の第3のモデルだ。いわゆるトヨタの「もっとよいクルマづくり」活動から生まれたモデルのひとつである。特徴は、TNGAモデルとして新世代のプラットフォームが使われていること。また、パワートレインも、まったくの新型が採用されている。

「プリウス」で低重心をうたったTNGAの新型プラットフォームは、カムリでも、その威力を存分に発揮している。ボンネットフードは先代よりも40mm、全高も25mm低くなっている。もちろん重心も低い。

パワートレインは新開発の2.5リッター直列4気筒「ダイナミックフォースエンジン2.5」と、さらに進化したハイブリッドシステム「THSU」を組み合わせたもの。エンジンだけで世界トップレベルの最大熱効率41%を達成しており、ハイブリッドとの組み合わせで、JC08モード燃費は28.4〜33.4km/lにもなる。ちなみにシステム最高出力は155kW(211PS)と十分なパワーを備えている。

2.5リッター直列4気筒「ダイナミックフォースエンジン2.5」と、ハイブリッドシステム「THSU」を組み合わせたパワーユニットは新開発。エンジン単体の熱効率はなんと41%!

また、運転支援システムは「トヨタ セーフティセンスP」を全車に標準装備。ミリ波と単眼カメラの組み合わせで、歩行者検知付きの衝突被害軽減自動ブレーキ、ステアリング制御付きの車線逸脱警報機能(時速50q以上)、オートマチックハイビーム、全車速追従機能付きACCを実現する。また、メーカーオプションとして、斜め後ろの死角をカバーするブラインドスポットモニター、低速での取り回し時の衝突を回避または軽減するリヤトラフィックオートブレーキ機能付きインテリジェントクリアランスソナー、駐車場などの後退時の死角を検知するリヤクロストラフィックアラートが用意されている。

日本へ導入されるのは、FFの2.5リッターのハイブリッドモデルのみ。スタンダードがX(329万4000円)、上級がG(349万9200円)となり、Gグレードにレザーパッケージ(419万5800円)を用意。合計3モデルが発売されている。

本格派と呼べる生真面目なセダンであった

続いては、実際にハンドルを握って走らせた新型カムリの印象をレポートしたい。

まず、セダンの基本となる走り。これが相当によかった。乗ってすぐに視界が広いことに気づく。TNGAの低いボンネットの効果だろう。新型カムリのサイズは全長4885×全幅1840×全高1445mmで、クラウンとさほど変わらない。しかし、視界の広さもあって、まるでプリウスを扱うような気安さを感じる。

運転席からの視界が広くサイズ感をつかみやすい。大型のボディだが、運転のしやすさはかなりのもの

運転席からの視界が広くサイズ感をつかみやすい。大型のボディだが、運転のしやすさはかなりのもの

セダンの特徴である客室と分離したラゲッジスペースの容量はVDA法で524リッター。ハイブリッドバッテリーを後席下に移すことでゴルフバッグ4個が収まるスペースを確保している

そして走り出すと、新しいパワートレインのできのよさに驚いた。アクセルを踏めば、即座に力強く加速する。なめらかでダイレクトだ。走らせていて気持ちがいい。それでいて燃費が最高33.4km/lにもなるというからすごい。これがトヨタの本気の力なのだろう。ステアリングの手ごたえは重め。しかし、微小舵から、正確にクルマが動く。スポーティーセダンのような俊敏な身のこなしではないが、しなやかで優雅。また、どっしりとしたフラットライド感も美点である。しかも、エンジンの静粛性が驚くほど高い。コンフォートセダンとして王道のハンドリングではないだろうか。

システム最高出力は155kW。加速は力強くなめらかで、アクセル操作とのダイレクト感もあり、気持ちがよい

システム最高出力は155kW。加速は力強くなめらかで、アクセル操作とのダイレクト感もあり、気持ちがよい

フロントサスペンションはマクファーソンストラット式。リアはダブルウィッシュボーン式。いずれも新開発のサスペンションだ。フラットライド感があり、乗り心地もかなりのレベル

王道な走りにあわせるかのようにインテリアやインターフェイス系はコンサバだ。すっきりとはしているものの、最新のクルマらしい先進感はいまひとつ。積極的に最新のインターフェイスを採用するフォルクスワーゲンなどのジャーマンブランドと比べると、正直、寂しいなと感じてしまった。また、デザインもプロモーションの「ビューティフルモンスター」というほどの感銘は受けなかった。CMとはそういうものかもしれないが、自画自賛が過ぎると逆効果的なのでは…と思う次第である。

とはいえ、“走り”というクルマとして、もっとも重要な点のレベルは相当に高い。まじめに作られた感の強い、本格派と言えるようなセダン。それが新型カムリであった。

ダッシュボードのソフトパッド、ナビ周りのピアノブラック、コンソールボックスのウッド調パネルという異なる素材を組み合わせ、対比と調和をテーマにしたインテリア

どんどんシンプルになる昨今のシフトレバーと比べるとカムリのそれは少々古めかしい印象も…

どんどんシンプルになる昨今のシフトレバーと比べるとカムリのそれは少々古めかしい印象も…

走りや乗り心地などはかなりのハイレベル。トヨタの願うセダン復権の旗頭になるか注目だ

走りや乗り心地などはかなりのハイレベル。トヨタの願うセダン復権の旗頭になるか注目だ

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよびその周辺機器には特に注力しており、対象となる端末はほぼすべて何らかの形で使用している。
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