さらにアグレッシブな国債買い入れ、金利反転上昇の可能性=日銀総裁

さらにアグレッシブな国債買い入れ、金利反転上昇の可能性=日銀総裁
6月4日、日銀の白川総裁は、都内で講演し、資産買い入れ基金で定めた目標残高を目指し「毎月金融緩和を強化している俎上(そじょう)にある」とし、政策効果を冷静に見極めていく、と強調した。米ニューヨークで昨年4月撮影(2012年 ロイター/Mike Segar)
[東京 4日 ロイター] 日銀の白川方明総裁は4日正午過ぎ、都内で講演し、資産買い入れ基金で定めた目標残高を目指し「毎月金融緩和を強化している途上にある」と指摘し、金融決定会合ごとに市場で高まる目標残高の引き上げによる追加緩和期待をけん制した。アグレッシブな国債買い入れを行うと長期金利が反転上昇するリスクもあり、「政策効果を冷静にじっくり見極めていく」と強調。国債買い入れを軸とした金融緩和の副作用に警鐘を鳴らした。
<高齢者向け製品・サービスで消費堅調>
白川総裁は、日本経済の現状について、「堅調な内需を中心に、持ち直しに向かう動きが明確になりつつあり、物価情勢も徐々に改善している」と述べた。
個人消費が比較的堅調に推移しており、背景として高齢層などに対して「企業が高めの価格設定でも受け容れられる製品やサービスの提供に成功しているため」と説明した。
<欧州問題、最も強く意識すべきリスク>
日本経済を展望する先行きのリスクとして「欧州債務問題は、最も強く意識しておくべきリスク要因」と指摘。欧州中央銀行(ECB)による大量の資金供給で資金調達市場は総じて安定しているが、流動性供給は時間を買う措置に過ぎないとした。
今年「2月から3月前半にかけての円高修正は、欧州債務問題の改善に伴うリスク回避の姿勢の後退を反映」、その後の再度の円高は「逆方向への変化を反映」したものと指摘。そのうえで、「円高が日本経済に与える影響について、企業マインドを通じる影響を含め、注意深くみている」と述べた。
財政の持続可能性への信認も「物価の安定と金融システムの安定を支えるもっとも基礎的な前提条件」だとし、その信認が損なわれれば「経済に悪影響を及ぼす」と警戒した。
<毎月金融緩和を強化している事実、忘れられがち>
日銀の金融政策については、日本経済がデフレから脱却し物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要、との従来からの姿勢を繰り返した。その上で「かねてより強力な金融緩和を実施している」とも強調した。
現在の日銀は今後1年強の間に資産買入基金で現在目標とする70兆円まで20兆円近く金融資産を積み上げていく途上にあると指摘。「ともすれば毎月金融緩和を強化しているという素朴な事実が忘れられがち」とし、残高目標の引き上げによる追加緩和に対する市場などの過度の期待をけん制した。
<ゼロ金利の下での資金供給、のれんに腕押し>
金融緩和の効果について、ゼロ金利のもとでは、「中銀が資金をいくら供給しても、そのまま当座預金等として積み上がる状態になっており、量に関して『のれんに腕押し』の状態になっている」と説明した。
一方、国債について「最適なスピードを超えてアグレッシブに買い入れを行うと、市場が中央銀行に過度に依存する」とし、「何らかのきっかけで反転上昇することも起こり得る」と警戒を示した。
<国債買い入れ、すでに相当な規模>
資産買入基金による買い入れと、銀行券(お札)の発行に合わせた国債買い入れにより、日銀の国債保有残高が年末には92兆円程度と、日銀の内規「銀行券ルール」で天井と定められた銀行券の発行残高を上回るとの見通しを示した。更に来年6月末には97兆円程度に達するとし、「今年度の特例国債の発行額が約38兆円であることを考えると、日銀による国債買い入れはすでに相当な規模」ると述べた。
総裁は、銀行券ルールについて、「銀行券の量の限界を超えて中央銀行が国債を購入すると、インフレが起こるか、長期金利が先行的に上昇する」と説明し、同ルールは理論的根拠が乏しいとの見方をけん制した。
日銀による国債買い入れは、財政ファイナンス(財政支援)が目的ではないとの日銀の意思は明確、とも強調した。
<目標物価上昇率、無理やり達成する中銀どこにもない>
日銀が2月に導入した事実上のインフレ目標(物価安定の目途)で目標とする物価上昇率を1%としている点について、過去の水準から一気に飛び跳ねた物価水準は考えにくく、高めの上昇率を掲げることで予想インフレ率が急に上昇すれば長期金利が先行して上昇し、「金融機関が抱える多額の国債が値下がりし、貸出行動にも悪影響を与える」と懸念を示した。
日銀は4月27日に2013年度までの実質成長率と物価の見通しを示すと同時に追加緩和を決めたが、物価上昇率1%の達成が難しいとみて追加緩和を決めた訳でないと説明。目標とする物価上昇率を無理やり達成する機械的な政策運営はどこの国の中央銀行も採用していないと述べた。
また、「少子高齢化とグローバル化という構造変化への対応が遅れていることが、低成長、ひいてはデフレの基本的な原因」とも述べた。
<日銀法改正議論、中銀の独立性に関する考え踏まえ慎重に>
講演後の質疑応答では、「金融政策に対するさまざまな意見があることは、民主主義社会である以上当然」としたうえで、「中銀の判断を尊重するという社会の姿勢も大切」と指摘した。
政界で日銀法改正の動きが度々浮上する点について「具体的なコメントは控えたいが、日銀法は日本の経済・金融の基本法であり、議論は十分に時間をかけて慎重に行う必要がある。中銀の独立性という世界的に確立された考え方を十分に踏まえて検討を行うことが大事」との見解を述べた。
また「緩和的な金融環境であるがために必要な経済、財政の改革努力が抑制されることがあるとすれば、弊害になりうる」と指摘する一方で、「弊害があるから、金融緩和をやめるということではない」と述べた。
(ロイターニュース 竹本能文、伊藤純夫:編集 田中志保)
*内容を追加します。

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