◆JERAセ・リーグ 阪神2―6巨人(19日・甲子園)
巨人の坂本が母・輝美さん(享年47)の命日にアーチを架け、チームを勝利に導いた。1点リードの6回、左越え8号ソロで阪神を突き放した。最愛の母に届ける一発は、通算250号のメモリアル弾。遊撃手として出場した試合では249発目で、池山隆寛(ヤクルト)に並ぶ最多となった。7回2失点の戸郷はリーグ単独トップの7勝目を挙げ、8回には丸がダメ押し2ラン。役者そろい踏みの巨人は阪神の連勝を7で止め、再び7ゲーム差とした。
天からの力が坂本を後押しした。最後は左手一本だったが、打球は左翼席まで届いた。「いろんな気持ち、言いたいことがありますけどね。良かったです」。1点リードの6回2死。岡本和が併殺打で倒れた直後、嫌なムードを8号ソロで一掃した。初球の内角低めスライダーをすくい、通算250本塁打。同時に、遊撃手として出場した試合では249本塁打(代打で1本)となり、池山隆寛(現ヤクルト2軍監督)に並び最多となった。ベンチに戻ると控えめに記念ボードを掲げた。
試合中はグッと胸にしまい込んでいた特別な思いを、試合後に明かした。「オカンも喜んでくれていると思う」。6月19日。入団1年目の07年に病のため亡くなった母・輝美さんの命日だ。高卒1年目の07年5月12日、イースタン・日本ハム戦(姫路)では、車いすで見守る母の前で本塁打を放ち、記念球を贈った。以降、16年ロッテ戦(東京D)では3安打を放つなど、毎年のように活躍。この日は中学まで過ごし、最愛の母との思い出が詰まった地元・兵庫で感謝のアーチを架けた。
天国へと旅立つ直前。親子で親交の深かった近所の野球通の知人へ、輝美さんが電話で伝えた“最後のメッセージ”がある。「私、もうアカンから勇人のことを頼みます、ね…」。か細い声で力を振り絞ってまで伝えたかったことは、愛する息子への思いだった。念願のプロ入りを見届けたものの、息子はまだファームで鍛錬を積む18歳。未来の勇人に対し、期待と心配が入り交じっていたのだろう。心配性の母の不安を吹き飛ばすかのように、坂本はその後、不動の遊撃手となり数々の記録を樹立。命日に贈った一発で、数字上も日本史上最強遊撃手となった。
守備でも魅せた。1点リードの5回2死三塁。中野のボテボテのゴロを猛然と前進して捕球し、ランニングスローで一塁へ。ヘッドスライディングを試みた中野をアウトにした。セーフなら同点の場面。雨に打たれながら、攻守で気を吐いた。
「節目のホームランはタイガース戦がすごく多い」と自覚するように、初本塁打、100号、200号を伝統の一戦で打ってきた。主将の活躍で、チームはこれ以上離されたくない首位・阪神とのゲーム差を再び7に縮め、ヤクルトと並び2位に浮上。「チームが勝てたのが一番よかった」。母への感謝を胸に、坂本は戦い続ける。(小林 圭太)