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シルバー民主主義の革命的解決策、0歳時にも一票を投じる権利を与える「ドメイン投票」とは?

2016/2/7

渋谷壮紀

渋谷壮紀

シルバー民主主義の革命的解決策、0歳時にも一票を投じる権利を与える「ドメイン投票」とは?

今の政治は、シルバー民主主義?

みなさんは「シルバー民主主義」という言葉を聞いたことがありますか?
シルバー民主主義というのは、「選挙の際の得票数を考え、高齢者向けの政策を重視し、働く世代や若者に対しての政策が行われなくなってしまう」というものです。

2014年の衆議院総選挙を例にとって考えてみます。2014年時点で年齢別の有権者数は、下記になります(総務省統計局「国勢調査」より)

◯20〜35歳未満の人口(有権者)は約2035万人
◯65歳以上の人口(有権者)は約3300万人

これに、投票率が掛け算されます。20〜35歳未満の投票率は35%程度なのに対し、65歳以上の投票率は62%程度。ですので、実際の票数としては、下記になります。


◯20〜35歳未満【717万票】(約2035万人×投票率35%)
◯65歳以上【2059万票】(約3300万人×投票率62%)

 

と、圧倒的に65歳以上の票が多いことが分かります。その差はなんと約3倍!

2014年の時点で、この数字ですので、今後少子高齢化が進むと、票数のひらきは大きくなっていくでしょう。(総務省統計局「国勢調査」と公益財団法人明るい選挙推進協会HPより)
このような状況で、厳しい選挙を戦う政治家は「第一の目的である選挙で勝つこと」だと考えた場合の思惑が見えてきます。


◯20〜35歳未満:人数も少なく、これからも少なくなる。投票に行かない
◯65歳以上:人数が多く、これからも増えてくる。投票に行ってくれる

自分へのメリット(得票)が少ないグループよりも、より自分のメリット(得票)になるグループを取り込もうとする誘引が大きくなります。それは例えば、飲食店などでも、全く買わないお客さんに対する広告やPRを重視するよりも、多く買ってくれるお客さん、お店に多くの利益をもたらしてくれる客層に対して広告やPRなどの施策を打つのと同じです。(しかし利益が出ないお客さんにサービスを提供しないということではありません。)

つまり民間企業の仕事や商売と、政治は似たようなもので、より効率よく利益(選挙での得票)を得るために、あるターゲット(投票してくれる有権者)に対して施策(PRや政策など)を行うのです。このように考えると高齢者重視の政策が行われてしまうシルバー民主主義が進行してしまうというのは理解しやすいですよね。

自分たちに投票してくれる可能性が高いシルバー世代に対して、少しでも良いアピールをし、支持を得ようと政策も、年金などの社会保障などのシルバー世代寄りの政策を行います。政策に使える予算は有限ですので、それに伴って、教育政策や子育て政策などの若い世代や将来を考えた政策というものに予算が振り分けられない可能性があるということで問題となっているのです。

子どもにも1票は与えられるべきだ!

では、このシルバー民主主義の問題をどのように解消すればよいのでしょうか?そんな時に、議論にあがるのは「選挙制度を変えてしまうのはどうだろうか?」というものです。

若者の投票率を上げて、政治が若者を無視できなくすればいいと考えて、その一環として18歳選挙権が成立したといってもいいでしょう。しかしながら、いくら「選挙に行くのは重要だよ!」と言っていても、みなさん仕事や他の用事の方が重要だと感じて、若者の声が政治の世界に届くのは難しいかもしれません。そこで、「一人一票という仕組み自体を変えてしまうのはどうだろうか?」といった、根底を覆すような議論があります。その一つが、人口統計学者のポール・ドメイン(Paul Demeny)によって1986年に考案された投票方式の「ドメイン投票(デーメニ投票):Demeny Voting」。

 

これは、将来世代のこと考えた政治を行うには、まだ投票年齢に達していない子どもを持つ家庭は、その子どもの分まで選挙によって政治に対する意思表示し、政治の中心を若者世代にすることです。それによって政治側も長期的な視点に立った政策を行い、国としても長期の国益の判断が可能になるというものです。

確かに、現状の一人一票では、子どもや将来生まれてくる子どものことを本当に考えた政策が行われにくいにも関わらず、現世代だけで今あるお金や資源を使いきってしまうかもしれないといった世代間による格差や不平等な問題が生じてしまう可能性があります。

じゃあ具体的にどのような方法に変更するのかというと、「子どもの意思表示の代理を親が行う」=「親の票数が2票になる」というものです。

将来を担う子どもたちには年齢制限なく、全一票を与えることとし、子どもの投票を親が代理で行います。

やり方は様々ですが、一人子どものいる3人家族では、子どもの1票を0.5票ずつ両親に与え、父母はそれぞれ1.5票を投票する権利が与えられることもあります。


ドメイン投票になると、若い世代でも、65
歳以上の世代へ近づける!?

では、ドメイン投票が実現していた場合、2014年の総選挙はどうなるのでしょうか?少し乱暴な算出ですが、仮説として思考実験として行なってみたいと思います。


◯ドメイン投票で2014年の0〜19歳の人口の【約2844万人】が新たに有権者となる
◯20〜35歳未満の有権者の約2035万人を足し、投票率を計算する、
◯0〜35歳未満の投票人数は、【約1720万人】となります。

これは、65歳以上の約2059万人と比べると、約3倍だったのが、【約1.2倍】にまで抑えられています!

さすがに、これだけ割合があり、そして実際に投票する可能性がある子どもを持つ若者世代のグループを政治も見過ごすわけにはいかないため、シルバー民主主義への対策として有用なのかもしれません。

 

採用国は無いのが実情

しかしながら、現状でドメイン投票は、ドイツやハンガリーなどで議論にされたことはあったものの、未だに採用している国は全く無いというのが現状です。

18歳選挙権が達成された日本ですが、少子高齢化は年々進行し、子どもや若者数が減り続ける中で、「子ども・若者のこと」、「将来の生まれてくる子どもたちのこと」など、より政治が考えるようにするためには、ドメイン投票のように大々的な改革というものが必要なのかもしれません。

今後、もっと盛んに議論されることを願っています。

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渋谷壮紀

渋谷壮紀

1988年鳥取県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程在学中。専攻は政治意識・行動分析、実験政治学。研究テーマは政党公約分析、有権者選好のマクロ分析、熟議民主主義の実証研究など。学部時代にWebサービス開発の経験あり。

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