日本のウタツサウルスともやや近い?
だが、2014年になり、いずれも同じ湖北省からこの仲間の新種が2種見つかった。すなわちパラフーペイスクス・ロングス(長形似湖北鰐:Parahupehsuchus longus)と、エオフーペイスクス・ブレヴィコリス(短脖始湖北鰐:Eohupehsuchus brevicollis)だ。
フーペイスクスの仲間は長い頸が特徴で9~10個の頚椎を持つのだが、エオフーペイスクスの頚椎は6つで、この仲間としては頸が短いという特徴があった。こうした新たな化石の発見とともに、フーペイスクスについての研究は2010年代なかば以降に一気に進むことになった。
近年の研究では、フーペイスクス目は魚竜に近縁な……というより、魚竜の祖先から枝分かれした生き物であるとみられている。すなわち、魚竜とこれに近い原始的な生物(宮城県歌津町[現、南三陸町]で見つかったウタツサウルスなど)が含まれる魚竜上目(Ichthyopterygia)と、姉妹関係にあるようなグループだったようだ。
ややアザラシに似た魚竜の祖先
いまやフーペイスクス目や、魚竜上目には含まれない別の姉妹グループで、2014年に中国貴州省巣湖で化石が見つかった、三畳紀前期のややアザラシに似た水生爬虫類カートリンカス(柔腕短吻龍:Cartorhynchus lenticarpus)の仲間などは、在米日本人研究者の藻谷亮介をはじめ、世界中の研究者の注目の的である。
イクチオサウルスに代表される魚竜は、非常に高度に水中生活に適応してイルカやサメとそっくりな姿へと収斂進化を遂げた爬虫類なのだが、その起源を考えるうえで、フーペイスクスやカートリンカスなど中国で見つかっている三畳紀の水生爬虫類たちが、非常に重要な意味を持っているようなのだ。
なお、中国メディアの報道によると、フーペイスクスやナンチャンゴサウルスの化石が見つかった南漳県の一帯は盗掘が非常に多かったらしく、過去には少なからぬ貴重な化石が失われてきたという。
2012年に湖北省地質科学研究所によって化石が出る一帯が保護区に指定されたそうであり、その後の研究の進展は、こうした環境の整備に負うところが大きかったのかもしれない。
【参考文献】
「湖北為2億歳「孫氏南漳龍」化石群設保護区」『東方網』
「湖北地質之最(六) | 湖北鰐: 2.47億年前,古老級的海生爬行動物長這様」湖北省地質科学研究院(湖北地質博物館) 中國地質調查局武漢地質調查中心
王恭睦「湖北一新爬行動物化石的発現」『古生物学報』
Xiao-hong Chen, Ryosuke Motani, Long Cheng, Da-yong Jiang, Olivier Rieppel “The Enigmatic Marine Reptile Nanchangosaurus from the Lower Triassic of Hubei, China and the Phylogenetic Affinities of Hupehsuchia”
Xiao-hong Chen, Ryosuke Motani, Long Cheng, Da-yong Jiang, Olivier Rieppel “A New Specimen of Carroll’s Mystery Hupehsuchian from the Lower Triassic of China”
Xiao-hong Chen, Ryosuke Motani, Long Cheng, Da-yong Jiang, Olivier Rieppel “A Small Short-Necked Hupehsuchian from the Lower Triassic of Hubei Province, China”