「星野鉄郎」の生みの親・松本零士の半生を10冊の本でふりかえる

物心ついた時には宇宙への関心があった

星野鉄郎の原点

物心ついた頃から、宇宙には興味がありました。草原に寝っ転がりながら、星のことを考えていたような少年時代だったと思います。

そんな私に特に大きな影響を与えたのは、小学生の時に読んだ『大宇宙の旅』です。天文学者で、京都産業大学の創設者である荒木俊馬さんの作品で、天文大好き少年が、光の精に誘われて宇宙をめぐるという物語形式で天文学が解説されていきます。

難しくなりがちな内容が、子どもが興味を失わずにいられるよう計算されて書かれていて、まったく飽きることなく読めました。宇宙に対する基礎的な知識を身につけることができたと同時に、宇宙に対する関心がさらに強まったと思います。

後年読み返して、ひとつ驚いたことがあります。主人公の少年の名字が「星野」で、これは私の作品『銀河鉄道999』の主人公、星野鉄郎とも重なるんです。

 

この本の「星野」という名前が、無意識のうちに自分の中に刷り込まれていたのかもしれません。私には宇宙を舞台にした作品が多いこともあり、この本との出会いがなかったら、私の歩んだ道は確実に違ったものになっていたと思います。

ちょうど同時期に読んだ『生命の科学』は『タイム・マシン』などで有名なSFの巨匠、ウェルズの作品です。全16巻の大作で、生命が地球に誕生してから現在に至るまでの歩みと、これからの展望が書かれています。

当時、働いていた姉から300円をもらって、とりあえずは、関心が強かった恐竜のことが書かれた巻だけを買おうと古本屋に向かいました。たしか1巻が350円だったので、「買えたらいいな」くらいの気持ちだったのですが、店主のおじさんがなんと、全巻をその値段で売ってくれたんです。それからは夢中で読み通しました。

各時代の動物や原始人など、イラストや写真もふんだんに含まれていて、生物学に対する興味をかきたてられました。また、緻密なイラストに魅了されて、何度も模写を繰り返したこともあって、この本は私の画風にも、大きな影響を与えたと思います。

さらには、社会について考える上でも、この本は私に大きな示唆を与えました。ウェルズは、かねてより未来の理想社会について言及しており、この本の中にもそうした記述は見られます。

人権派のウェルズは戦力を持たず、平和を守っていくことが理想の社会であると説きましたが、そうした社会の姿は、現在の日本とも重なる部分があるように思えます。ウェルズを読んだことから、理想の社会と現実の社会とはどれほどの距離があるか、興味を持って考えるようになりました。

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