「一般家庭で飼うには危険すぎる犬」

10月のある日、動物行動学の専門家である高倉はるか先生から、「危険な犬の記事です」の一文とともに、「ベストフレンドのピットブル2頭に襲われ姉弟死亡、母重傷で『襲撃は想像を絶するほど長く続いた』」というニュース記事が送られてきた。

記事は、アメリカのテネシー州で2歳と5カ月の姉と弟が飼い犬に噛まれて亡くなったというものだった。2頭の飼い犬は8年前からその家で飼われており、子どもたちが生まれた時からずっと一緒に育ち、これまで一度も牙をむいたことがなかったという。肝心の襲った原因は、明らかにはなっていないようだった。

はるか先生に「原因はなんでしょうか?」と聞くと、「犬種、遺伝の問題です」という。「ピットブルは普通の家で飼うには危険過ぎます。犬を飼う前に選んだ犬が自分の環境に合っているか見極める必要があることをお伝えしたいです」。
はるか先生から訴えてきたレアな事態に詳しく話を聞いた。

 

噛みついたら相手が死ぬまで離さない

事件を起こしたピットブルの正式名称は「アメリカン・ピット・ブル・テリア」というイギリスからアメリカに輸入された「スタッフォードシャー・ブルテリア」をベースに作られた犬種だ。
はるか先生はピットブルを飼うことを勧められない理由をこう離した。

「ピットブルはもともと闘犬のためにかけ合わされた犬種です。闘犬というのは『負けない犬』『負けを認めない犬』が優秀とされます。
普通の社会性を持った犬同士が争う場合は、片方が『やめて』『降参』のサインを出したら、そこでやめます。
でもピットブルは噛みついたら相手が死ぬまで離しません。攻撃場所も頭やのどなど、致命傷となるところを狙います。嚙む力もとても強い。

そのうえ本人も痛みに強く作られているので、いったん噛みつくと、本人がケガを負うほど殴打されても離しません。本当に危険な犬です」。

口輪をつけたピットブル。Photo by iStock

日本では「飼育してはいけない犬」はいない。だが札幌市、水戸市、茨城県、佐賀市の4自治体は「特定犬」として、「人に危害を加える恐れのある犬や、咬傷事故を起こした際に重大な事故になる可能性が高い犬」を指定している。ピットブルは一部でそうした「特定犬」に指定されている。
普段の表情はユニークで愛らしく、日本にファンは多い。また日本では死亡事故はまだない。だが、イギリスではすでに飼うことは禁止されているし、アメリカの多くの州でも飼うことはできない。なぜ、こんなにも警戒されるのだろう。