親ガチャ、反出生主義…若者たちは「人生のネタバレ」に絶望している

現実はリセマラできないから
御田寺 圭 プロフィール

「ネタバレ」が美談を欺瞞に変えた

この「親ガチャ」というワードが大きなバズを形成したことと、哲学者マイケル・サンデルの新著『実力も運のうち』や、児童精神科医の宮口幸治の著書『ケーキの切れない非行少年たち』が大ヒットしたこと、あるいは「(大人の)発達障害」という言葉が大きな知名度を獲得したり、「反出生主義」というラディカルな思想が先進社会の若者の間でブームとなっていることは偶然ではない。これらは同じ現象の別の側面であるだろう。

これらはみな「その人がいまどのような状態であるのかは、その人の努力や自由意思に基づく選択の結果『自己責任』として生じている」という、この社会で長年にわたって信じられてきた基本的前提に痛烈な異議申し立てをするものだからだ。

 

「自分の努力ではどうすることもできないものがある。だから、自分の人生はうまくいかない」――という言葉にできない感覚、いうなれば、うすぼんやりとした《不全感》のようなものを人びとが感じていたのは、別にいまに始まったことではないはずだ。だが、かつてはそれを客観的に立証し、人びとを納得させるような手立てがなかった。そうした不全感は、「言い訳をするな」「甘えるな」という言葉によって一顧だにされず、かき消されていた。

しかし2020年代は違う。「自分の努力ではどうすることもできない」「もっといえば、努力できるか否かすら才能である」という究極的な真実を提示する学者や知識人が大勢現れた。サンデルや宮口、あるいは発達心理学や行動遺伝学の知見は「自分たちがうっすらと感じていた絶望感」を見事に言語化してくれている。「お前の自己責任だろ」「言い訳するな、甘えるな」という言葉を跳ね返すだけの「理論武装」が、すでに十分すぎるほど提供された。

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