トイレットペーパーを奪い合い、店員に暴言を吐き散らす人々の心理

コロナ騒動で見えた「カスハラ」の実態

「コロナより怖いのは人間」と言わせた客たち

2020年3月、新型コロナウィルスの感染拡大とともに事実とデマが錯綜し、ドラッグストアなどの陳列棚からは、マスクやトイレットペーパーといった一部の日用品があっという間に姿を消した。

ドラッグストアの店員たちは、商品を手に入れられず殺気立った消費者に、ひたすら頭を下げ続ける。それでも客たちは、“本当は、在庫を隠しているのだろう”、“店員が着けるマスクがあるなら客に売れ”と食い下がる。収束の気配すら見えない新型コロナも不安だが、こうした理不尽なクレームに対応しなければならない従業員の心の状態も心配だ。

実際、“謝ってばかりで疲れた”、“コロナよりも怖いのは人間だった”と、Twitterで吐露した女性定員の悲痛な叫びが注目を集めた。これはまさに高度な感情コントロールが求められる「感情労働」*1の、根深い問題を露見したものといえる。

本稿では、こうしたオイルショックならぬ「コロナショック」を通して、現代の「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」事情を中心に、消費者の逸脱的な行動を心理学の視点から概説したい。

〔PHOTO〕Gettyimages

「買い占めの心理」

最初に用語を整理しておくが、「カスハラ」とは、和製英語「カスタマー・ハラスメント」の略称で、簡単にいうと“消費者からの過剰なクレームや嫌がらせ”を指す。よって、悪質クレームとほぼ同義といっても支障はないだろう。

 

筆者は、こうしたクレーム研究を専門とする一方で、モノの異常なまでのため込み(専門用語では「ホーディング」(hoarding))やモノへの依存といった逸脱的消費者行動も研究している。今回のコロナショックにみるカスハラ騒動の分析には、モノへの執着や依存に関する知見も役立ちそうだ。

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