人生にはサイクルや波があり、人は日一日と変化するものだと、山口さんは言う。あんなに夢中だった料理の熱も今は冷めたが、またいつか再燃した時のために、お気に入りの食器は大切にとってある。20代から10年間、一時本格的に取り組んだフラメンコも、その後しばらく遠ざかっていたが、今年15年ぶりに練習を再開した。

「数年前、フラメンコ発祥の地といわれるアンダルシア地方を、夫婦で訪れる機会があって……。夫とは年に1度、スペインのバルを巡る旅に出かけるのですが、一昨年訪れたカディスという町で見た、普通の庶民が踊るフラメンコが素晴らしくて、夫婦そろって大感動しました。それ以来いろいろなフラメンコの舞台を一緒に見に行くようになりました。

彼も演劇人なので、踊り手の技や心意気、踊りに人生が投影されることに興味が湧いたみたい。私たち夫婦は旅先でも、正反対の趣味嗜好。私は町歩きに出かけるけど、彼はホテルの部屋でずーっとiPadをいじってる(笑)。でもここ数年、あれほどフラメンコに興味のなかった夫と、フラメンコ談義ができるようになった。人って変わるんだな、と(笑)。だから、人と時間をかけて付き合っていくって、ほんとうに面白い」

山口さん自身も、久しぶりに本場のフラメンコに触れて、「何もわかってなかった」とショックを受けた。

「『こんなもんだろう』って知ったつもりになっても、人生の時を経て出会い直してみると、今まで知らなかった感動がある。旅して出会う、カッコいい大人の文化にも感動します。アンダルシアでは、老夫婦が夜中の酒場にお洒落して踊りにくる。粋なステップは溜息が出るほど素敵。歌って踊れる民族っていいなと、心から憧れます。

好きな音楽が鳴ったら、息の合った踊りで若者たちを唸らせる、カッコいい老夫婦を目指したいですね(笑)。スペインを旅しながら、現在、唐沢さんへ啓蒙活動中です」