また2012年7月28日に上滝線上堀駅構内で発生した脱線事故でも、レールの間隔が整備基準値を超え、またレール締結装置にも不良があったため、列車通過時の横圧によってレールの幅が広がり、車輪がレールの間に落下している。

 2008年の脱線事故当時、同社は枕木や締結装置の状態について検査記録を残していなかった。2012年の脱線事故では、発生の2カ月前にレールを交換したばかりであったが、レール交換時点でレールの変位が整備基準値を超過していた上、締結装置の緩みを防ぐために、ボルトを定期的に締め直す必要があることを保守担当者が把握していなかったというずさんな体制が次々と明らかになった。

 運輸安全委員会は2013年に公表した事故調査報告書の中で、「同社が再発防止策として構築してきたとしている管理体制は実効的にほとんど機能しておらず、同事故(2008年の事故、引用者注)の再発防止対策の取組は定着していたとは言えないものと考えられる」と指摘するとともに、「軌道変位等については、測定を行い次第計画的に解析・評価するとともに、不適切な箇所の補修計画を立て、同箇所を速やかに是正するなど、軌道の整備・維持の管理体制を確実に構築すること」などの勧告を行っている。

事故の背景にある
地方私鉄の経営苦境

 それから8年が経過して発生した、3度目の脱線事故。富山地方鉄道によれば、2012年の脱線事故以降、保守体制の改善を進め、車両や電気など他部門からの応援も含めた全社体制で軌道の点検・保守を行っているという。

 今回の脱線の引き金となったとみられる板バネの破損についても、今後はヒビが入った板バネを経過観察するのではなく、速やかに交換することで再発防止に努めたいとしている。

 2008年と2012年の脱線事故ではレールの管理体制そのものに不備があったが、今回の事故ではレールの変位や締結装置の不良を事前に把握していたのだから、状況は改善していると言えるかもしれない。

 しかし同時に、不具合が多すぎて肝心の補修が間に合っていないという、より深刻な実情が浮かび上がる結果となった。その背景には地方私鉄の置かれた厳しい現状がある。