初公開多数!東京お台場に国産メーカーの自動運転テクノロジーが集った日【週刊クルマのミライ】

■自動運転の国家プロジェクトが始まって9年が経った

DIVP
SIPの活動から生まれたセンサーのシミュレーションプラットフォームが「DIVP」だ

2022年9月、東京お台場の特設会場にて「SIP自動運転 実証実験プロジェクト 展示・試乗会」が開催されました。

展示・試乗会のテーマは『交通事故ゼロ社会を目指し、世界に先駆けた日本の自動運転技術~すべての人が安全・安心・快適に移動できるモビリティ〜』というもので、2014年の第1期から9年間に渡り勧められてきた、同プロジェクトの集大成として成果が発表されるというイベントでした。

SIP自動運転プログラム(SIP-adus)を簡単にいえば内閣府総合科学技術・イノベーション会議が旗振り役となり、産学官の力を集結して進めてきたもので、ひと言でまとめれば「自動運転の社会実装に向けて産学官連携のオールジャパン体制で研究を進めていた」プロジェクトです。

9年間の成果の中には、ホンダが世界で初めて量産車に実装した自動運転レベル3を支えた地図データの基準づくりや、日本が世界に先駆けたAEB(衝突被害軽減ブレーキ)の新基準などがあります。つまり、単なる実験ではなく、量産につながる技術開発の場であったともいえます。

最新の成果としては、センサーメーカーを含めた産学で進めたセンサー評価のシミュレーションプラットフォーム「DIVP(Driving Intelligence Validation Platform)」が生まれています。スバルが利用したところ、リアル画像での認識率96.61%に対して、DIVPの仮想画像での認識率は96.25%だったといいます。実写レベルの精度を持っているシミュレーションプラットフォームというわけです。

そんなSIP-adusの集大成を展示するというコンセプトの通り、会場では多くの”初物”を見ることができました。

●スバルが世界初公開、ホンダも日本初公開

SUBARU XV
スバルは自動運動実験車を世界初公開。アイサイトの知見を活かして、カメラだけでの自動運転を目指している

そもそも、SIP-adusの試乗・展示会が開催された東京臨海部は、信号情報提供や高速道路における合流支援用センサーの設置などV2I(クルマとインフラの連携)関連の整備が先行して進められている自動運転をリードするエリアです。

そのため、非常に珍しい自動運転実験車が日常的に走っていたりするエリアなのですが、今回の展示会場にはさらに珍しい実験車が一堂に会していました。

その筆頭といえるのがスバルが持ち込んだ自動運転実験車「HARMONIA DRIVING」でしょう。SUBARU XVをベースにしたもので、基本的にはカメラ情報だけで自動運転を目指そうというコンセプトで進められている実験車です。

スバルといえばステレオカメラを使った先進運転支援システム「アイサイト」がコアテクノロジーとして知られていますが、その開発で得た知見は画像解析だけでの自動運転を可能にするというわけです。もっとも、カメラにも苦手な領域はありますので、LIDARなど他のセンサーも搭載して冗長性を高めているのは、安全を優先する自動車メーカーらしい部分といえるでしょう。

この実験車両にはSIP実験機器を搭載することで、V2Iテクノロジーも取り入れて、市街地での自動運転を目指している点も印象的です。

honda
ホンダが本邦初公開した自動運転実験車。アメリカのGMやクルーズ社と共同で開発している

冒頭で、世界初の自動運転レベル3を実現したホンダ・レジェンドの話題にも触れましたが、まさに自動運転テクノロジーにおいて世界をリードしていうるのがホンダです。

ホンダが展示会場に持ち込んだのは、GM・Cruiseと共同開発している自動運転車で、こちらは本邦初公開となります。

見慣れない車体ですが、ベースとなっているのは日本では未発売のGMの電気自動車「Bolt」なのですから当然です。

こちらはルーフ上にLIDARを多量に搭載、ドアミラーにも大きなセンサーを置くなど高いレベルの自動運転を目指していることがひと目で感じられる一台。

2020年代半ばには自動運転モビリティを事業化しようという目的からすると、コスト高な車体(センサー)という印象も受けますが、まずは多量のセンサーで確実な自動運転を実現しつつ、徐々にセンサーを間引いていき実用的な価格帯を目指すというアプローチのようです。

●交通空白地をカバーする小さな自動運転車に期待

daihatsu
ダイハツが公開したタント・ベースの実験車両。なんと自動運転レベル3相当の仕様となっている

ホンダが自動運転モビリティ事業化を目指しているのは東京都内という話ですが、実際問題として自動運転モビリティが必要なのは公共交通機関が減りつつある地域という見方もあります。

鉄道やバスなどの公共交通機関が廃止されてしまった地域のことを「交通空白地」と呼んだりします。

こうしたエリアは高齢化が進んでおり、限界集落的な状況であったりもします。高齢者は自分で運転するのが難しいですし、かといって乗合タクシーのような地域モビリティを運用するにも人手が確保できないというのは交通空白地のあるあるです。

ダイハツが、軽自動車「タント」をベースに仕立てた自動運転実験車は、まさに高齢化が進む地域での自動運転モビリティを想定して作られたもので、ルーフにLIDARを積むなどした自動運転レベル3の車両です。

また、この車両を使い兵庫県神戸市北区での実証実験も進めているということです。

SUZUKI
スズキの自動運転実証実験車両はソリオがベース

軽自動車市場ではダイハツとライバル関係にあるスズキも、同様に交通空白地での移動手段を確保するために自動運転テクノロジーを研究しています。

今回は、浜松市や遠州鉄道、BOLDLYと共同で行っている自動運転実験用の車両を展示していました。

こちらはリッターカーのプチバン「ソリオ」をベースとしたもので、自動運転レベルとしてはレベル2にとどまりますが、ルーフ上にLIDARが確認できることから想像できるように、もう一段上の自動運転テクノロジーへ発展することが期待できる仕様といえます。

もう一台、ブラックボディの実験車両は、SIP-adusの提供する信号情報を活用するための課題抽出などのために製作されたものだということです。

YAMAHA
ヤマハ発動機が実証実験を行っている低速の自動運転モビリティも展示されていた

そのほか会場ではヤマハ発動機が製作した、電動ランドカーの低速・自動運転モビリティも展示されていました。

自動運転テクノロジーはインフラ整備が進めやすい都市部で進化するものというイメージもありますが、国家プロジェクトとしては交通空白地での移動権を確保するためという意義もあるはずです。

ダイハツ、スズキ、ヤマハの作った車両は、いずれもナンバープレートがついた公道を走れる実験車両です。こうして実証実験を進めていくことで、できるだけ早い段階での自動運転モビリティの普及を期待したいものです。

●自動運転テクノロジーと量産車のミライを考えた

BMW
自動運転は安定したシャシーとレスポンスに優れたパワートレインでこそ本領を発揮する。その意味で電気自動車との相性は抜群だ

自動運転は明るい未来につながるテクノロジーですが、現在進行形で量産車にも搭載されているのも、また事実です。

今回の展示・試乗会では、自動車メーカーが用意した自動運転レベル2相当の車両に公道試乗することもできました。筆者が選んだのはBMW i4です。こちらは、高速道路で60km/hを下回る速度域という限定的な条件ながら、ハンズオフ(手放し)運転が可能な電気自動車です。

じつは日本でハンズオフ運転を最初に実装したのはBMW、最新の運転支援機能については一日の長があるブランドなのです。

この車両では、ACC作動時にハンズオフ条件を満たすと、メーターに表示が出ます。そのままステアリングのモードボタンを押せばハンズオフ運転モードに移行します。

今回は首都高を使って試乗しましたが、ハンズオフ運転できる領域も広く、シームレスに移行することが確認できました。

またハンズオフとは直接的には関係ありませんが、ACCの加減速制御が非常にマイルドで、運転が上手いという印象も受けました。

BMW
自動車専用道路にて、BMWの市販モデルに搭載されるハンズオフ可能な自動運転レベル2を体験した

BMWジャパンのエンジニア氏によると、モーター駆動であるため回生ブレーキを利用してピッチングの少ないブレーキングができているのだろう、ということです。また、床下にバッテリーを積んでいるゆえに低重心はACCに任せたコーナリングでの安心感にもつながっていると感じるシーンもありました。

自動運転としては入口となるレベルの自動運転レベル2の車両に乗って結論づけるのは気が早いかもしれませんが、自動運転テクノロジーと電動パワートレインは非常に相性がよさそうです。

また、量産車に自動運転テクノロジーを実装した際に重要なのは、さまざまなアップデートでしょう。

lexus
トヨタは最新アップデートを受けたレクサスLSを持ち込んでいた

その好例といえるのがレクサスLSに搭載される「アドバンスド・ドライブ」です。この機能が登場した際には、レクサスLSはフロントにLIDARを積んでいるだけでした。

しかし、今回の展示・試乗会では前後左右にLIDARを装備したアップデートを受けた車両の試乗が可能となっていました。プログラムのアップデートは当然ですが、センサーの追加というレベルでの機能向上を設計段階で盛り込んでおくことも、自動運転時代の車両開発には必須になるのかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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