<論文>金属の熱膨張について

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  • <Original Article>Thermal Expansion of The Metal

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抄録

1.測定した純金属及び黄銅などの合金の熱膨張率は,温度上昇に比例して直線的に増加しており,熱膨張係数は温度によらず一定の値となっている。これは定義からも明らかな様に,熱膨張係数とは熱膨張率のグラフの傾き即ち微分係数に相当するものであるから,熱膨張率の変化が直線的であればグラフの傾きはどの点でも同じ値となり熱膨張係数は一定の値となる。加熱・冷却においても熱膨張率はほぼ一致した値を示し,可逆的変化であった。また,これら各金属の熱膨張率及び熱膨張係数の値はいずれも融点に逆比例している。以上の点から今回測定を行なった純金属および通常合金の熱膨張は,冒頭で述べているような原子間ポテンシャルの釣合いのもとでの原子の熱振動による膨張であることが分かる。2.インバー型合金の成分である鉄,ニッケル,コバルトはいずれも磁石に吸い付く強い磁性を示す強磁性体で,外部から磁界をかけるとある一定の値に磁化してしまう。これは強磁性体の内部で自発的に発生している自発磁化が,外部磁界の影響で一定方向に揃えられるためであり,このときに微少な体積増加をする。ところがこのような強磁性体を加熱すると自発磁化の強さが減少し始め,ある温度になると消滅してしまう。この温度をキュリー点とよんでおり,このキュリー点と熱膨張の間には密接な関係がある。その関係を図13^6)に示す。ニッケルのキュリー点358℃で熱膨張係数は極大値となり体積が急激に膨張しているが,これは温度上昇にともなう自発磁化の消失(=強磁性の消失)による体積変化を意味し一般に自発体積磁歪と呼ばれている。また,外部から強い磁界をかけることによって強磁性体の磁化の強さはさらに増加し,このときにも体積が変化することが知られておりこの効果を強制体積磁歪という。この値は温度により変化し,キュリー点付近で極大を示す。この効果をニッケル及び白金の濃度変化と対応させると,いずれもインバー特性を示す30%Niおよび26%Pt濃度付近でピークとなり,他の合金に比べて2桁ほど大きな値となっている。我々が測定したFe-Pt合金は56%Ptであるが26%Ptと同様熱収縮を示しており56%Ptにおいても強制体積磁歪の効果が影響していると考えられる。インバー型合金の温度対熱膨張率の関係を見ると,一般的にキュリー点以上の温度では熱膨張率はほぼ直線的に増加し,キュリー点以下では複雑な温度変化をたどるが熱膨張係数は0に近い値となっている。このことからもインバー合金の低熱膨張性は, 強磁性の消失に伴う体積変化,即ち異常熱収縮が生じた結果によるもので,キュリー点以上での熱膨張は原子の熱振動のみが関与しキュリー点以下では熱振動による熱膨張を磁歪による磁気体積効果が打ち消しているものと考えられ,インバー合金はこの自発体積磁歪が他の合金に比べて非上に大きな値を持つのである。この様子をモデル化すると図14^7)の様になるが, この二つの磁歪による磁気体積効果のみで説明がつく訳ではない。次に, インバー特性と合金組成の依存性を調べると,Fe-Ni合金の場合冷却によって生じるγ相(面心立方格子)→α相(体心立方格子)への変態の限界組成はおよそ32%Niでこれ以上の濃度領域ではγ相となっており,インバー特性はγ相の40〜50%Ni付近から現われ限界組成付近で最も強くなり,α相になるとインバー特性も消失する事も知られている。他のインバー合金の場合もインバー特性は結晶構造がγ相(面心立方格子)からα相(体心立方格子)へ変態する相境界付近に現れており,結晶構造との間に何らかの関係が存在するものと思われる。例えばFe-Ni合金の格子定数(原子間距離)の濃度依存性をみると,100%Niから濃度の減少とともに格子定数は直線的に増加するがインバー組成において急減する。この点はちょうど磁気モーメントが減少し強磁性が減少し始める点とも一致している。この一つの原因として,Weiss^8)は面心立方格子中の鉄原子が磁気モーメントの小さい(これを低スピン状態という)反強磁性と磁気モーメントの大きい(高スピン状態)強磁性の対称的性質を持つ2つの電子状態を考え,高ニッケル濃度側では高スピン状態が安定でこれに対して鉄側では低スピン状態が安定であり,温度上昇と共により小さな格子定数を持つ低スピン状態が励起されるため収縮をもたらすと考えた。上記の様にインバー合金などでは数百度程度の温度まで熱膨張率が一定で,かつ熱膨張係数の数値が通常合金に比べ1桁ないし2桁小さくなっており,明らかに異なる傾向を示す。このような低膨張性は一般にインバー特性とも呼ばれており,原子間ポテンシャルに基づく熱膨張の考えのみでは説明できない。また,Fe-Ni合金に代表されるインバー合金はいわゆる強磁性体であり,この磁気的性質にも多くの異常性が見られる事からも独自の研究がなされており,異常熱膨張との関係も調べられている。これらの異常性については

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1573668926572470528
  • NII論文ID
    110000213985
  • NII書誌ID
    AN00230700
  • ISSN
    02884992
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • CiNii Articles

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