2015年に35歳で社長就任し、過去最高売上高を更新中。ジャパネットの若き経営トップ、髙田旭人社長の新型コロナ対応を現在進行形でお伝えするシリーズ連載の第3回。
今回のテーマは「生産者応援プロジェクト」。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、販売先を失った農産物や海産物を買い取り、消費者に販売するという活動だ。4月22日のスタート直後から、SNSで話題を集めた。
同じような取り組みがすでにあちこちで始まっているなかで、あえて「ジャパネットがやるべき理由、やるべきこと」とは何か。
自著にも記した、髙田社長のルールは「DNAを明確にする」こと、そして「収支は後から考える」(自著ではそれぞれ、【ルール1】と【ルール9】として詳述)。シンプルで確かなルールを持っているからこそ、スピーディーに対応できる。
(構成/荻島央江)
ジャパネットは4月22日から、「生産者応援プロジェクト」を開始しました。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、販売先を失った農産品や海産品を集め、消費者に販売するという企画です。
第1弾として、4月22日、三重県産の「松阪牛」「熊野地鶏」「養殖マダイ」をテレビ通販番組などで紹介しました。反響は大きく、特に松阪牛は大人気で、税込み9980円の「松阪牛 すきやき用 切り落とし 1.2kg」が、初日で完売しました。
このプロジェクトでは、ほぼ利益は出ません。最初からある程度、分かっていたことです。テレビ通販番組には媒体費がかかりますし、食品は家電製品などより単価が安い。黒字にするために一生懸命、頑張りますが、よくて収支トントン、若干の赤字になる可能性が高いと踏んでいます。
2月末、新型コロナ休校で給食用の牛乳が余ると話題になってから、全国で生産者支援の動きが広まりました。販売先を失った生産者と消費者をつなぐマッチングサイトなども増えています。そうしたなかで、ジャパネットがあえてこのプロジェクトを立ち上げたのには2つ理由があります。
1つは、当社の強みを生かせば、こうした商品をより広く届けられるからです。インターネットになじみのないお客様と生産者をつなぐことで、大きな価値を生めると考えました。
マッチングサイトがあっても、普段インターネットにあまり触れていない人たちには、サイトを探すのも、そこで商品を買うのもハードルが高いと思います。けれど、テレビ通販番組や通販カタログというチャネルを持つジャパネットであれば、そういうお客様に対し、商品を詳しくご説明し、電話でご注文を受け付けることができます。
もう1つは、まとまった数量の商品、それも単価の高い商品を短期間で売り切れる事業者が必要だからです。
例えば、大型旅館でキャンセルが相次ぐと、かなりの数量の高級食材が行き場を失います。少量であれば、BtoCのマッチングサイトが合うと思いますが、こうしたBtoB向けの商材の場合、千や万という単位で在庫を抱えて困っている人たちがいます。特に食品の場合、急がないと鮮度が落ちていくので、少しずつ売っていたら間に合いません。その点、ジャパネットならば、自社で多くの数量を引き受けられます。
三重県、鈴木英敬知事の即レスに感謝
4月頭に「やる」と決めてから、ジャパネットのバイヤーたちは自宅から連日、日本中の生産者に電話をかけ続けています。
最初は難航しました。本当に困っている生産者の商品でなければ引き受けるべきではないし、お客様が満足する価格も実現するべきです。そう決めたものの、この条件を満たす商品を探し、取引をまとめるのは決して、簡単な仕事ではありません。
バイヤーたちは悪戦苦闘しました。オンライン飲み会(前回参照)で、そんなバイヤーたちの苦悩に触れる場面もありました。
そこで自分自身ももっと現状をよく知るべきだと考えました。
4月15日、三重県の鈴木英敬知事に連絡を入れました。もともと面識があり、三重県に対する思いが深く、行動力のある方だと思い出したのです。LINEで「今日の午後にお時間をいただけないでしょうか」といったメッセージを入れ、すぐに電話でお話ししました。
「物産展の中止や百貨店の休業で売り場がなくなって困っている生産者がいたら、一緒に販売に取り組みたい」と提案したところ、「三重も大打撃を受けている。とてもありがたい申し出で、ぜひやりたい」と、トップダウンで動いてくれました。
そこから話は急ピッチで進み、4月22日の放送まで1週間でやりきりました。
わずか1週間というスピードでできたのは、何よりまず、鈴木知事が自ら動いてくださったからです。電話の後すぐ、三重県の生産者の状況を一番よく把握している「営業本部担当課」の紹介を受けました。
バイヤー陣をはじめとするジャパネットの社員も頑張ってくれました。在宅勤務のメンバーがほとんどでしたが、三重県の現場の方々と密にやりとりをして、それこそ口座を開くところから物流の仕組みを整えるまでを1週間でやり遂げたのです。
1週間で物流の仕組みまで構築
今回、牛肉やマダイをお買い求めいただいたお客様には、当社の物流センターを通さず、三重県の生産者から直接、出荷してもらいました。このため、当社のシステムに慣れていない生産者の方々に、ログインや注文データのプリントアウトなど、複雑な仕組みをすべてリモートでご理解いただかなければなりませんでした。相当、苦労したと思います。よくぞ1週間で導入を終えたと思います。
番組放送に当たっても、問題が噴出しました。例えば、テレビ局から「紹介する商品のリストは1週間前にないと困る」といった声が上がりました。その事情もよく分かりますが、私たちにとって今回は特別です。社員の口からプロジェクトの背景を繰り返し、丁寧に伝えることで、ご理解いただくことができました。
番組の見せ方にも、いつも以上に気を使いました。例えば、「生産者にテレビ電話で、通販番組に出演してもらったらどうか」という意見がメンバーから出ました。けれど、みんなでよく話し合った結果、「それはやめたほうがいい」という結論になりました。ともすると、「困っています。だから買ってください」というふうに見えてしまい、あまりいい印象を与えないと思ったからです。結局、生産者のメッセージは、テロップを出し、MC(語り手)が読み上げる形になりました。
4月22日の放送前日、鈴木知事に電話を入れました。「三重の現状を1分くらいで話していただき、その動画をスマホで送ってもらえませんか」とお願いしました。鈴木知事は即座に動画を送ってくれ、通販番組で流すことができました。
そういった細かい部分まで、制作スタッフが悩みながら取り組んでくれたからこそ、一定の成果が出たのだと思います。
自社で食品を販売するときは、私も含めたバイヤーなどのメンバーができるかぎり事前に食べるようにしています。ジャパネットの事業方針は「厳選集中」ですから、しっかり選びます。今回紹介した商品は、特にどれもとてもおいしかったので、お客様の反応はあまり心配していませんでした。実際、評判は上々です。
となると、「売れるからもっとやろう」となりがちですが、やりません。
売れても、拡販しません
今回、商品の配送は現地にお願いしています。そんななかで、松阪牛を大々的に売ろうとなったら、どんなことが起きるか。現地の人の負担が増し、ほかの仕事をストップさせることも検討しなければなりませんでした。それは本末転倒です。
このプロジェクトの最大の目的は、困っている人を助けることです。どれだけ収益を取れるかではありません。黒字になるように頑張るけれど、生産者の苦境を打開することが一番の目的で、その目的が果たせれば、収支はトントンでいいし、結果として赤字になっても仕方ない。そういう方針で始めました。本来の目的を絶対に見失わないでいこうと、社員とも話しています。
4月末からは、秋田県・宮城県・滋賀県・三重県・佐賀県などの特産品を、各県のご協力を得ながら順次ご紹介していきます。今後、この取り組みを日本全国へ広げていきたいと思っています。テレビ通販のほか、通販カタログでも都道府県単位でページを作りますし、インターネットでも都道府県単位で生産者応援を進めていく予定です。
食品バイヤーはこの期間、増員して全部で10人。ほかにもさまざまな部署のメンバーが、このプロジェクトに日々取り組んでいます。
10人のバイヤーが提案する商品はすべて、私も含めた、バイイングと制作の責任者でチェックします。
大前提として、「よいモノである」ことと「数量が多い」ことが条件です。ただ、一番のポイントは、「生産者が本当に困っているか」です。バイヤーには「もともとどういう生産者が、どういう場所で、どういう訴求をして売ろうとしていた商品なのか」を、よく確かめるように伝えています。数字で判断しにくいところです。プロジェクトを立ち上げたときの思いに立ち返って、感覚を磨く必要があります。
いくら生産者応援プロジェクトだからといって、普段1万円で売っている商品を、1万円で売るという提案では駄目です。それでは普通の販売と何も変わりません。
売り手の都合で「困っているから、助けてください」では応援されないと思います。買い手側にもメリットがないと売れません。生産者の方々には、「例えば、いつもは売価1万円のものを、7500円、8000円で販売できるくらいまで条件を頑張ってください」と話し、交渉します。もちろんジャパネットも頑張ります。「うちも粗利を削ります。だから一気に大量に売りましょう。お互いにリスクをとって、見ている人が思わず応援したくなる商品と金額を実現しましょう」と伝えています。
「人は大義では動かない。欲で動くものである」
これは、ソフトバンクグループの社長室長を務めた方が孫さんについて書いた本のなかに出てきた言葉です(『孫正義の参謀』嶋聡著)。
どんなに大義を唱えたところで、みんなの欲を満たすことがセットでついてこない限り、物事は爆発しない。そんな意味だと解釈しました。生産者応援プロジェクトも同じだと思うのです。
このプロジェクトは利益を目的にしたものでなく、ビジネスとして厳しいのは確かです。けれど、私が想像した以上に社員は意気に感じてやってくれています。
これから半年、利益ゼロでも成長を求める
3月末に在宅シフトを決めたとき、これは緊急事態だと認識しました。だから、ここから半年は極端な話、利益がゼロでも世の中に認められることをやっていこう。その過程で社員のみんながいろいろな意味で成長してくれればいい。そう覚悟しました。幸い、それに耐えるだけの余力はあります。
正しいことをやれば、短期的に損をしても長い目で見ればプラスになる。価値の提供が先で、収支は後というのがジャパネットの基本的な考え方です。やるかやらないかは、収支ではなく、価値があるかどうかで決めています。
損得ではなく、正しいことをやる。
それは父の背中に学んだことであり、今も私にとって大事な指針です。
アフターコロナの新しい社会をつくる、
経営者、幹部、職場のリーダーの方々に、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
◎ 売れない時代になぜ売れる?
◎ カリスマ創業者が去って成長を続けるのはなぜ?
◎ 「働き方改革の旗手」とされる理由とは?
創業者・髙田明の後を継ぎ、過去最高売上高更新中!
若き2代目社長・髙田旭人が、
「脱・カリスマのリーダーシップ」を、
61個のルールに分けてお伝えします。
共感の声、続々!
親父の感性、息子のロジック。
やるな、2代目。
――【サイバーエージェント社長・藤田晋氏】
働き方改革のフロントランナー!
――【ワーク・ライフバランス代表・小室淑恵氏】
リーダーシップは技術で、
誰にでも学べると気づかせてくれる本。
――【元陸上選手・為末大氏】
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