2023年10月に創立100周年を迎える米ウォルト・ディズニーは数々のヒット作品を生み出してきた。中でも子どもだけでなく大人さえも魅了してしまうプリンセスたちは世代を超えて愛され続けている。「リトル・マーメイド」「アラジン」「美女と野獣」といったミュージカル調の作品が続いた1990年代前後はディズニー・ルネサンス(復興期)とも呼ばれ、いずれの作品とも後に実写化されるなど、人気は根強い。こうした作品のプリンセスの表現に長年携わったアニメーターが日経ビジネスのインタビューに応じ、プリンセスは今後どう変わっていくのかなどについて語った。

マーク・ヘン(Mark Henn)氏
マーク・ヘン(Mark Henn)氏
1958年、米オハイオ州出身。7歳のときに「シンデレラ」に触発され、アニメーターを志す。80年にカリフォルニア芸術大学を卒業後、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに入社。同年「キツネと猟犬」に携わり、83年の「ミッキーのクリスマス・キャロル」では30年ぶりに映画に登場したミッキーマウスのアニメーションを担当。その後は「リトル・マーメイド」のアリエル、「美女と野獣」のベル、「アラジン」のジャスミンといった人気のディズニープリンセスのアニメーションを担当。2018年にはミッキーの生誕90周年を記念して、公式肖像画を描いた。(写真:都築 雅人)

かつての白雪姫は「いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)」を歌いながら王子様が来るのをただ待っていましたが、「リトル・マーメイド」の主人公、アリエルは自ら人魚から人間に生まれ変わろうとしました。時代の変化とともにディズニープリンセスはどう変わってきたのでしょうか。

米ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのマーク・ヘン氏(以下、ヘン氏):かつてのディズニープリンセスである白雪姫やシンデレラ、オーロラ姫(「眠れる森の美女」の主人公)はリアクティブ(受動的)で、彼女らが事件に巻き込まれ、王子様に救ってもらうのを待つ立場でした。

 一方、近年はプロアクティブ(主体的)なプリンセスや主役の女性たちが行動を起こし、その決断によってストーリーが前に進んでいくという新たなトレンドもあります。「リトル・マーメイド」のアリエルもそうでしたし、21年の「ラーヤと龍の王国」では、主人公のラーヤ自身がたくましいキャラクターで、そもそもプリンセスを魅了するような王子様が出てきません。今後もこうしたモデルは続いていくと思います。

王子様は「副産物」に

ディズニー・ルネサンスを飾った数々の作品に携わった立場として、それまでのプリンセスとの違いをどのように描こうとしたのですか。

ヘン氏:「白雪姫」や「シンデレラ」など、黎明(れいめい)期の作品はおとぎ話が原作となっています。おとぎ話の構成上、主人公のプリンセスと登場人物は結ばれることが多かったのです。

 一方の「リトル・マーメイド」は中間的な作品だと思います。アリエルは人間の住む世界に憧れて地上に行こうとしますが、最初からエリック王子と結ばれようとしていたわけではありませんでした。王子様と出会うことは物語上の「副産物」だったのです。

 「美女と野獣」の主人公であるベルも、野獣に捕らわれた父親を解放するのと引き換えに、自らが野獣の住む城にとどまることを申し出ます。とても勇敢ですよね。その結果として野獣と恋に落ちますが、そうした行動があの物語を成り立たせているのです。

 古代中国を舞台にした1998年の「ムーラン」もいい例になると思います。主人公のムーランは、徴兵されそうになった父親の身代わりとなり、自らを男性と偽って軍隊に入ります。配属された部隊で司令官のリー・シャンと出会いますが、やはり最初からそれが目的ではなかったのです。

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