「メディア事業は損益改善のフェーズに入ってきた」
サイバーエージェントの藤田晋社長は10月27日、2021年9月期の通期決算の発表でこう語った。メディア事業の中心は、パソコンやスマートフォンで全番組を無料で見られるインターネットテレビ「ABEMA」だ。
会社全体の業績は、競馬がテーマのスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」がヒットし、連結売上高は6664億円で前期比39%増、営業利益は3.1倍の1043億円でいずれも過去最高を更新した。そうした中で、意外だったのは藤田社長の冒頭の言葉だ。
ブログサービス「アメブロ」や16年4月に始めたABEMAをはじめとしたメディア事業は営業赤字が151億円。ABEMAへの投資先行で赤字が続いている。前期より31億円圧縮されてはいるものの、他に状況が良くなっている材料には何があるのか。
週間視聴者1500万人に
その材料は視聴者の増加のようだ。サービス開始の翌17年は1週間当たりの視聴者数が500万人前後で推移していた。現在は1500万人前後で、4年で約3倍になった。収益化に向けた目安とかつてから掲げていた1000万人以上を維持している。
お笑いコンビの雨上がり決死隊が解散を報告した「アメトーーク特別編」を配信した8月17日の週は1825万人を記録し、一時的に数字が跳ね上がって終わるかのように思われたが、その後も高い水準にある。9月までのアプリの累計ダウンロード数は7300万件となっている。
サイバーエージェントは視聴者を増やす上で、コンテンツの見直しを進めている。
ABEMAは恋愛、ドラマといった番組を流す場合、10代中心の視聴者を想定していた。もともとABEMAには、既存の民放からのテレビ離れが進む若者を捉える狙いがあった。
10代への認知は一定の割合で広まり、もう少し上の年齢層を狙った番組へと費用を振り向けている。21年に入って配信した中には、結婚をテーマにしたドラマ「私たち結婚しました」や、離婚経験者を集めたドキュメンタリー「セカンドチャンスウェディング」がある。
ある40代の利用者は「以前の独自作品は高校生の恋愛をテーマにしたドキュメンタリーやスキャンダラスなドラマなどのイメージが強くて敬遠していた」と語る。
米大リーグの今季の公式戦166試合を生中継したのは、多くの世代に人気のあるスポーツだからだ。日本人選手の活躍で注目が集まっている背景もある。コアなファンを捉えようと配信してきた将棋番組にも趣向を凝らし、AI(人工知能)が形勢を判断するシステムを強化した。
有料会員はまだ92万人
視聴者が増えているABEMAだが、競争環境は厳しい。
月960円(税込み)で、すでに放送が開始された番組を放送中でも最初から視聴できる機能などが使える「ABEMAプレミアム」の利用者は92万人(20年末時点)。定額制動画配信サービスの国内シェアでみると2.4%(ジェムパートナーズ調べ)。ネットフリックス(19.5%)やアマゾンプライム(12.6%)との差は大きい。
サイバーエージェントとしてはメディア事業強化に向けて、広告収入を増やす以外に、番組で流す競輪やオートレースの車券を販売するといった周辺ビジネスにもさらに力を入れる必要がある。
ABEMAコインが「面倒」
ABEMAの仕組みを常に検証し、見直していくことも重要だ。例えば、利用者から「最新作品をオンデマンドで見ようとしたが、『ABEMAコイン』(ABEMA内で使えるサービス内通貨)の購入が必要なことが面倒で諦めた」といった声がある。
かつて藤田社長が「10年がかりでやり抜く」と語っていたABEMA。サービス開始から5年半が経過し、折り返し地点は過ぎた。
エース経済研究所の澤田遼太郎アナリストは「まだ投資を抑制して黒字化を目指すところではない」と話す。ただ、ゲームや広告の好調がいつまでも続く保証はない。巣ごもり需要がはげ落ちる可能性もある。
収益化への道のりはまだはっきりとは見えず、サイバーエージェントは当面、模索の局面が続く。
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