2020年3月に会見した大阪大学の森下竜一教授とアンジェスの山田英社長、タカラバイオの峰野純一取締役(左から)
2020年3月に会見した大阪大学の森下竜一教授とアンジェスの山田英社長、タカラバイオの峰野純一取締役(左から)

 アンジェスは、2020年6月25日、同社が大阪大学などと共同開発している新型コロナウイルス感染症(COVI-19)に対するDNAプラスミドベースのワクチン(開発番号:AG0301-COVID19)について、大阪市立大学医学部附属病院の治験審査委員会(IRB)が第1/2相臨床試験の実施を承認し、同病院と治験契約を締結したと発表した。第1/2相臨床試験は、同ワクチンの安全性と免疫原性を評価するもので、実施期間は、2020年6月末から2021年7月末の予定だ。

 AG0301-COVID19は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の表面に発現している、スパイク糖蛋白質(S蛋白質)の遺伝子をコードしたDNAプラスミドベースのワクチン。免疫原性を高めるため、アジュバントを添加し、筋肉内注射で投与する。接種後は、核内に送達されたプラスミドDNAがS蛋白質を発現するとともに、アジュバントにより自然免疫が賦活化され、S蛋白質に対する中和抗体など免疫が誘導されると期待される。ただし、アジュバントの詳細や投与に特殊な器具を用いるかどうかなどは「公表できない」(アンジェスの広報担当者)という。

 今回実施される第1/2相臨床試験は、健康成人を対象に、AG0301-COVID19の安全性と免疫原性を評価する非ランダム化非盲検非対照試験(日本の臨床試験登録データベースの登録番号:JapicCTI-205328)。企業治験として、大阪市立大学医学部附属病院で実施される。

 第1/2相臨床試験の詳細は以下の通り。対象は、20歳以上から65歳以下の健常成人30例。PCR検査でSARS-CoV-2陰性、抗体検査でSARS-CoV-2に対するIgM抗体とIgG抗体がいずれも陰性と確認され、本人の意思による同意が得られた場合に対象とする。一部では、大阪市立大学医学部附属病院の医療従事者を対象とすると報じられていたが、「臨床試験の募集会社が参加者を募集しており、医療従事者に対象を絞っているわけではない」(アンジェスの広報担当者)という。

 同試験では、30例を低用量群と高用量群に割り付け、低用量群にはアジュバントを含む同ワクチン1.0mgを2週間間隔で2回、高用量群にはアジュバントを含む同ワクチン2.0mgを2週間間隔で2回、筋肉内注射する。低用量群と高用量群の症例数など、臨床試験デザインの詳細については、公表されていない。

 主要評価項目は、安全性と免疫原性だ。安全性については、1回目の接種から8週間後までに発生した有害事象の種類、頻度、重症度など安全性を評価する。また、免疫原性については、接種前(ベースライン)、1回目の接種から2週間後(2回目の接種直前)、4週間後、6週間後、8週間後に採血を行い、S蛋白質に対する特異的抗体価のベースラインからの変動を解析する。

 副次評価項目は、より長期の安全性と免疫原性だ。安全性については、1回目の接種から8週間後以降、52週間後までに発生した有害事象の種類、頻度、重症度など安全性を評価する。免疫原性については、1回目の接種から12週間後、24週間後、52週間後に採血を行い、S蛋白質に対する特異的抗体価のベースラインからの変動を解析する。

 加えて、1回目の接種から2週間後(2回目の接種直前)、4週間後、6週間後、8週間後、12週間後、24週間後、52週間後に採血を行い、(1)S蛋白質の受容体結合部位に対する抗体価のベースラインからの変動、(2)SARS-CoV-2抗体認識部位(B細胞エピトープ)に対する抗体価のベースラインからの変動、(3)S蛋白質特異的抗体のIgGサブクラス(IgG1、IgG2)のベースラインからの変動――を解析する。

 海外などで開発されているCOVID-19のワクチンは、安全性を評価する第1相臨床試験、投与量などを評価する第2相臨床試験を経て、大規模な第3相臨床試験で安全性、有効性を評価するケースが多い。ただ、今回の第1/2相臨床試験は、第1相臨床試験と第2相臨床試験を一度に行う設計になったようだ。また、アンジェスの広報担当者は「第3相臨床試験がどのようになるかは、現時点では決まっていない」とし、第3相臨床試験についてはコメントしなかった。

 なお、COVID-19に対しては、世界でmRNAベースのワクチン、ウイルスベクターワクチン、DNAプラスミドワクチンなど、比較的新しいモダリティのワクチンの開発が先行している。ただ、「いずれも現状の製造設備では製造・供給量に限りがある上、これらのモダリティのワクチンの接種経験は世界でも限られている。そのため、仮に臨床試験で安全性、有効性が確認されても、こうしたワクチンを一般の健常者に対し、広範に接種することになるとは考えにくいだろう」と複数の専門家は指摘している。