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攻めの「iPhone X」と柔らかな印象の「iPhone 8」、新Apple Watchハンズオンレポート。新社屋もお披露目

 9月12日(現地時間)、アップルは米カリフォルニア州サンノゼにて、新iPhoneを含む年末商戦向け製品の発表会を行なった。

 今回は、新たにセルラー対応となった「Apple Watch Series 3」、4K+HDR対応となった「Apple TV 4K」、そして、新iPhoneである「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」「iPhone X」が発表された。製品の概要についてはすでに別記事が出ているので、そちらもご参照いただきたい。

 発表された製品や戦略の分析については別途記事を予定しているが、まずはなにより製品のハンズオンレポートをお送りする。

ガラスを基調に大胆なデザインの社屋を建築

 今回の発表は、新製品のお披露目であると同時に、かねてより建設が進められていたアップルの新オフィス「Apple Park」のお披露目も兼ねていた。正確には、Apple Park自体への引っ越しはもう少し先で、まずはイベント用施設である「Steve Jobs Theater」、「Apple Park Visitor Center」が先に完成し、そこでイベントが開かれた。

Steve Jobs Theater外観。ガラスで360度覆われた、非常に特異だが美しい外観の建物だ

 アップルの新オフィスは形状や規模が注目されていたこともあり、プレス関係者の間でも、今回の発表は「そこも楽しみだ」と語る声は多かった。

 製品のハンズオンに入る前に、まずはApple ParkとSteve Jobs Theaterの紹介から入ろう。

 Apple Parkは「マザーシップ」とも呼ばれる巨大な円形の建物が注目された。地図上でもなによりそれが目立つ(写真)。しかしすでに述べたように、それ以外に「Steve Jobs Theater」、「Apple Park Visitor Center」などの設備があり、「キャンパス」と呼ばれるオフィス全体の敷地はかなり広大だ。今回は「Steve Jobs Theater」「Apple Park Visitor Center」に入れたのみで、円形のメインの建物は遠目に見られただけだ。しかし、写真からもかなり巨大な建物であるのは十分おわかりいただけるだろう。

Apple MapでApple Parkを上空から。円形の建物が目を惹く巨大な空間だ
本社屋はまだ遠くから眺めるだけ

 会場となったSteve Jobs Theaterは、円筒にガラスが貼られた、特徴的な外観の建物である。中に入ると巨大な空間があり、そこには柱がない。ガラスの外周で屋根の重みを支える構造だ。実際に発表やハンズオンが行なわれる場所はここから地下にあり、階段を通って降りていく。シアターもハンズオン会場もかなり神経の行き届いた、美しい建物だ。収容人員は1,000人ほどと言われているが、今後はここで各種発表イベントが行なわれていくのだろう。

Steve Jobs Theaterの中には待合スペースのような広大な空間が広がる。そこに柱はない
発表会場。地下にあり、完全なシアタースタイル。ステージがどこからでも見えやすいよう、適切な傾斜が
シアター内部には「Steve Jobs Theater」の銘も
ハンズオン会場。シアターの反対側に、ハンズオンが行える巨大なスペースが設けられている

 発表会には直接関係はなかったのだが、今後一般の人も入れる、Apple Retail Storeのひとつにもなる施設という位置付けの「Apple Park Visitor Center」も公開された。ここも、これまでのアップルストアを総合したような凝った作りの場所である。取材日には特別に公開され、実際に買い物もできた。今後はここがカンパニーストアという扱いになるためか、Tシャツなどの記念グッズも置かれていた。正式公開は今年末とのことだ。

Apple Park Visitor Center。正式には年内に、一般にも公開された施設になる
Apple Retail Storeとしてアップル製品が売られている他、Tシャツやカードなどの記念品も販売。セミナーなどのためのスペースが屋根の上にある

 なお、Apple Park Visitor Centerには、Apple Park全体を一望できる模型も設置されており、そこでiPadを使ったARアプリケーションのデモが体験できる。どこにどんな建物があるかだけでなく、電力の使用状況や空気と熱の流れをビジュアル化する、なかなか凝ったアプリだ。これ自体が、iOS11のAR機能のデモになっているのである。

Apple Park Visitor CenterにあるApple Parkの模型。高低差まできちんと再現されている
Apple Parkの模型を使ったARデモ

ガラスになって柔らかな印象になった「iPhone 8」シリーズ

 では、iPhoneから説明していこう。

 iPhoneは9月22日に発売される「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」と、11月3日に発売される「iPhone X」に分かれる。

 iPhone 8およびiPhone 8 Plusは、外観からもわかるように、iPhone 7シリーズの「進化モデル」といえる。Qi規格による無線充電に対応したために、ボディが表・裏ともにガラス貼りになった。外観はかなり美しく、特に白い透明ガラスに金色のボディを組み合わせた「ゴールド」は、いままでとはずいぶん異なったイメージに見える。スイッチやコネクター類の位置はiPhone 7シリーズとまったく同じであり、外観上の違いは背面に集中している、といっても過言ではない。

iPhone 8

 両面がガラスになって壊しそう……という不安を持っている人もいるだろう。だが、ガラスは一応「さらに堅い」加工のものに変わったそうなので、多少は改善される可能性がある。

 ディスプレイについては、発色がiPhone 7シリーズ以上に良くなった印象を受ける。OLEDを使う「X」ほど顕著な差ではないが、ユーザーにはわかる「着実な進歩」が見込める完全だと感じた。

iPhone 8(左)とiPhone 8 Plus(右)。どちらも「シルバー」。色合いがより「白」に近い印象を受ける
iPhone 8(左)Phone 8 Plus(右)の「スペースグレイ」。こちらは光沢感があるので「ジェットブラック」に近い質感になった
iPhone 8 Plus(左)とiPhone 8(右)の「ゴールド」モデル。白いガラスがかけられた関係で、背面の色合いが柔らかく、見ようによってはピンクにも感じられる

 カメラの細かな機能や画質を試すことはできなかったので、その辺りは後日確認することとしたいが、機能として面白そうなのは、「ポートレート」モードを拡張した「照明のシミュレーション」機能だ。iPhone 8シリーズで、ポートレートモードを使って撮影された写真について、スタジオライトやモノクロポートレートの再現を行なうものである。

 効果がリアルタイムでプレビューされ、なかなか面白い。これはいわゆる「フィルター」によるものではなく、ディープラーニングで写真を学習した上で、その特徴をうまく適合することで、「特定の照明下で撮影した写真」のように魅せるもの、といっていい。iPhone 8・8 Plusのみならず、iPhone Xも対象になっている機能なのだが、違いは、iPhone 8シリーズではリアカメラで撮影した写真のみが対象であり、iPhone Xはフロント・リアの写真どちらにも適応可能である、ということになる。

ポートレートモードで、照明の違いを再現可能に。画像生成は単純な「フィルター」ベースではなく、マシンラーニングから得られた知見を元に構成する手法を採用している。

「FaceID」と「ディスプレイ」で攻めるiPhone X

 次に本命であろう「iPhone X」だ。

 外見を見ればおわかりのように、ディスプレイは18:9になって縦に伸び、本体正面からは、iPhone初代モデル以来ずっと存在した「ホームボタン」がなくなった。本体をこれ以上横に太らせないようサイズを維持した結果、ディスプレイ面のすべてを映像で満たすことができるようになり、実面積が広がっている。

iPhone X
iPhone X。ホームボタンがなくなり、ディスプレイの範囲がギリギリまで大きくなった。
iPhone X
iPhone Xの背面。iPhoneの「Plus」系と異なり、カメラの配置が横から縦にかわっている。どちらのカメラともに光学手ぶれ補正対応になったからだろうか。

 一方で、「ホームボタンを押す」ことで行なっていた作業のうち、セキュリティに関わらないものは、画面下部から指を「滑らせて」使う。ホームボタンの代わりも、アプリの切り換えもこのUIに置き換えだ。

 短時間だが筆者が使った範囲では、染みついている操作だけに最初は非常に戸惑ったが、分かってしまえばなめらかに操作できて、ホームボタン撤去の影響はそう大きくない、という感触だった。

 むしろ好印象だったのは、指紋認証を司ってきた「TouchID」の代わりを担う「FaceID」のなめらかさだ。ロック解除までの動画を見ていただければ分かるが、「見る」というよりも「スマホを顔の正面に持っていく」感覚で顔をスマホの方を向けると、もうそれでロックが解除されていた。この速度なら、むしろ「濡れた指の影響」などがない分、FaceIDの方が快適だろう、と感じた。

FaceID認識作業。画面上部の「カギ」マークが解錠されたものに変われば、FaceIDでロックが外れた証だ。ここからホーム画面を開くには画面下からスワイプする。ロック解除が非常に素早いので、実際には「画面下からスワイプ」するだけでホーム画面が開く、という感覚になるはずだ

 FaceIDの登録は「顔をぐるぐる回す」操作。フロントの距離センサー付きカメラで、顔の立体構造を覚えさせている……という感じである。指紋認証同様、非常にシンプルな作業で、ここのハードルは低い。

FaceIDの登録作業。顔を「ぐるぐる」やって認識させる

 ディスプレイの画質はかなり良好だ。詳しいチェックはやはり後日に譲るが、一見して違いを感じたのは、ARアプリケーションの利用時だ。今のスマートフォン向けARでは、本体を持って動きながら使う関係で、ディスプレイを斜めから見ることが少なくない。液晶を使った製品でのARだと、液晶の視野角によって色変化を感じやすい。「そういうものだ」という思い込みが自分の中にあったのだが、改めてiPhone XのARアプリを体験すると、視野角による変色がないため、非常にすっきりと見える。

iPhone XでのARアプリ。精細感・発色ともに自然である点に注目。こうなることで、スマホARはかなり見やすいものになる
iPhone XでのARアプリ動作を動画で確認

 OLEDの良さであるコントラストや発色の良さはもちろん出ていたので、製品でのクオリティはかなり期待できそうだ。ちなみに、iPhone Xのディスプレイは、P3の色域でHDR10とDolby Visionの両方に対応予定だ。

 なお、今回展示はなかったが、Apple TVも4K化と共にHDR化する。同時に、iTunes Storeでの4K+HDR作品の配信がスタートする上に、過去に2Kの映画をもっていたら、それも無料かつ自動的に「4K+HDR」にアップグレードするプログラムも行われる。これらはHDR対応したiPhone Xでも楽しめるはずだ。

 4K+HDRコンテンツの準備については、「日本でも準備を進めていく」(アップル広報)としており、「4K+HDRで見るものがない」状態にはならない。準備のスピードや配信量の問題はあるものの、「HDRで映画を見る体験」は、Apple TVとiPhone Xの両方で加速しそうである。

アップルがワイヤレス充電に本気、Suicaが「海外で販売したiPhone」でも利用可能に

 iPhone 8/8 Plus/X共通の変化として、Qi規格のワイヤレス充電への対応が挙げられる。ワイヤレス充電はサムスンも含め、多数のメーカーが取り組んでおり、アップルとしては「ようやく」という印象が強いのだが、今回は各種製品での対応をすすめるだけでなく、カフェ・レストランや家具・周辺機器メーカーとの連携も行い、「アップルとして大規模に」展開するため、かなり大きな影響が出そうだ。

 来年には3台のデバイスを同時に充電できる「AirPower」を発売予定で、新iPhone・Apple Watch Series 3・AirPodsを同時充電可能になる。ただしAirPodsについては、AirPowerと同時期に「別途販売される」予定の、AirPods用Qi対応ケースが必要になる。一部で「AirPodsのリニューアル」と噂されていた製品は、このケースのことではないかと思われる。

AirPower。新iPhone・Apple Watch Series 3・AirPodsを同時充電。ただしAirPodsには別売のQi対応ケースが必要

 もうひとつ、iPhone 8/8 Plus/X共通の変化として、「日本以外で販売されるモデルでも、日本のSuica(FeliCa)が使えるようになった」という点が挙げられる。いままでは、日本で販売されたiPhone 7シリーズとApple Watch Series 2でのみSuicaを使うことができて、海外で買ったiPhoneを日本に持ち込んでも、Suicaで決済ができなかった。しかし現地で関係者に確認したところ、「今回は世界中のモデルで利用可能になった」とのコメントを得た。海外の人が日本に来る際、新iPhoneを使っているなら、Suicaを登録して(そこには言葉などのハードルがかなりあるが)、日本国内で使えるようになるわけだ。

 日本で暮らすほとんどの人にはあまり影響のない変化だが、「世界と日本」という観点では重要な進化といえる。

Apple Watchはセルラー内蔵で「単独で使える存在」に

 iPhone以上に大きな進化をしたのが「Apple Watch」である。内部に携帯電話網との接続機能を搭載し、単体で利用可能になった「Cellularモデル」が登場するのだ。自宅にiPhoneを忘れていっても、電話番号に紐付いているので、自分が身につけているApple Watchに着信したり、Apple Watchから電話したりできるようになる。各種データの同期にも使えるし、ストリーミング・ミュージックであるApple Musicも聞くことができるので、スマホを持ちあるかなくて済むシーンが増える……といういい方ができる。

Apple Watch Series 3。Cellularモデルで竜頭が赤くなったこと以外は、外観では差がわかりづらい。だが、新バンドや新色はもちろん追加されている

 今回もWi-Fi・Bluetoothのみを搭載したモデルもあるのだが、Cellularモデルは竜頭(デジタルクラウン)が赤になっており、ウォッチフェイス(文字盤)から電話機能を呼び出せる。通話はハンズフリーの他、Bluetoothヘッドホンからも可能。

電話を発信する機能が追加に。

 サイズはほとんど変わっておらず、バッテリー動作時間は「18時間」とされている。自宅に帰ったら充電しなくてはならない、という点では今のApple Watchと大きな差はないが、機能アップの量を思えば「納得」の範囲といえる。一方で、「圧倒的なバッテリー動作時間」を求めていたユーザーには、少し残念な進化方向かも知れない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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